3話 守るための力
『南二区、確認完了しました!』
『通路も全ての封鎖が終わってます』
南の一から三区までの避難、他の地区との境界線もかなり広めに封鎖が終わり、総指揮をとっていたユウトがうなずいた。
南地区に住む者の中には魔法が満足に使えない人もいる。屋内外問わず魔物が召喚されたために運の悪い者も多かったが、"無人"にする目的で過剰なまでの人員が割かれ、異常な速さで生存者たちの避難が完了した。
『よくやった。全員今すぐに南地区を離れてくれ。戦闘を伴った者、避難魔法陣を運用していた者は休息を忘れずに』
数分部隊の撤退を待って、目を閉じて魔力知覚の網を広げる。
アクトの魔力解放を許す以上、誰一人としてその暴走に巻き込ませる訳にはいかない。この周囲に人がいたとしてもどうしようもなく、アクトは悪くない。それはわかっている。
もし今回の作戦で双風によって人の命が奪われてしまったら。そんなもしもは、ユウトがこれをよしとした以上、絶対にあってはならない。
誰もいないことを確認して目を開ける。
『ハル、南地区避難完了した。父さんには俺から伝えればいいか?』
『お疲れ様。ラルクさんたちには伝えておくからまずは戻っておいで』
そう言われ、軍の側まで転移。軍内部は魔物の侵攻を防ぐために転移を阻害している結界で直接は入れない。
魔物への臨時対策本部まで一直線で戻ると、おかえりとハルマに出迎えられた。
「ただいま。あいつは……」
爆発のような波に思わず身震いする。南地区とは対角にある北地区の軍本部にいてもこの威圧。
「っ!」
「は……?」
二人が想定していた何倍もの威力。死を覚悟するほどの魔力にさらされたものの、緊急時に使うために帝とハルマ、ユウトの間で共有している念話魔法陣は使われない。いや、巻き込まれていたとしたら。
「おいこれ、南だけで済んでるか?」
「今封鎖区域の近くにいる人に確認してるよ。一応……魔法は公園内で展開しているみたい」
この魔力の圧と暴走規模が一致しないことに疑問を抱くが、問題ないのであればそれに超したことはない。
ユウトは……きっとアクトも、三つ目の枷を再び解く日が来るなど思ってはいなかった。
念入りに避難確認はしたから人を巻き込むようなことはなかっただろうし、この状態から人が近づくこともまずありえない。
これで南地区のことは切り離して考えられる。あの様子なら二、三時間は彼だけで南地区の魔物は淘汰されるはずだ。
「すごいね、これは」
ハルマも同じことを考えたのか、ぽつりとつぶやく。
「気持ち悪い魔力だ」
「それをこうやって役立てられているのはユウトのおかげだよ。南地区の被害数もきっと、こうしていなければもっと酷かっただろうから」
少し黙ったと思えば南地区を無人にして作戦から外すと言い始めたユウトに、はじめは何事かと思われた。だがラルクとの念話の内容を聞かされてはうなずくことしかできない……というか、副隊長の立場が幻光に了承してしまった以上はそれ以外の選択肢がない。
「あの力が人のためになる日が来てよかったね」
「……そもそも、こんな事態になっているのが最悪なんだがな」
本番はこれからだというのに一つの大仕事を終わらせたくらいの心労に、ユウトは大きく息を吐いた。
「長期戦だし、一旦休憩してから出てくるといいよ」
「……いや、一時間後には避難所の動ける奴に支援要請するんだろ。それまでにある程度掃除しとかねぇと」
小規模なギルドは戦闘より避難を優先したところも多い。魔法学生もいるはずだ。いくつ手があっても足りない状況で、低ランクの魔法使いやその卵たちは作戦に参加させないなどと悠長なことは言っていられない。
「わかったよ。じゃあ俺が西に」
「俺は東な。了解」
「無茶しないようにね」
隊長が副隊長にかけるには似つかない発言に、ユウトが思わず笑ってしまう。歳は二つしか離れていないのに妙に大人ぶってくることがある。
「俺は子どもか」
「一番の親友としての言葉だよ。こんな状況、上司も部下も関係ないでしょ」
それにユウトはふ、とやわらかい笑みを浮かべてうなずいた。
「……わかった。ハルも対複数向いてないんだから気をつけろよ」
「肝に銘じる」




