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ハレを望む  作者: 明深 昊
9章『ここにいる理由』
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2話 第三の封印

 アクトがユリたちを転移させた先は職員室の中で、突然現れた二人に言い争いになっていた教師陣は拍子抜けしてしまっていた。


「あ……の」


 職員室の外だと思っていたのだろう。心の準備が出来ていなかったユリに、キリトが助け船を出す。


「早く避難を!」


 太い良く通る声。それに背中を押され、ユリも口を開いた。


「今教室の方は大混乱しています。急いで広いところ、運動場にまとまって避難しないと……こんな無秩序じゃ死人がでます!」


 彼女の出自は教師の間でも噂になっていたため周知されている。アクトの言った通り、ユリの言葉を無下にできる人間はここにはいない。


「わかった。運動場の安全を確保次第すぐに……」


「あっ……運動場はもう」


 ユリの言葉に、イルガがずいっと前に出る。


「アクトか」


 返答を待たずにイルガはわかったと言って、校内全体へ呼びかけることができる念話陣に触れた。


「今すぐ全員屋外運動場に避難しろ! もし魔物が出ても落ち着いて対処すること。お前らはなんのためにこの学校通ってるのかよく考えて行動しろよ」


 イルガ以外の先生たちも担当しているクラス、担任をしていない人も様々な場所に分担して転移を始めている。呆気に取られているユリに近づいてきて、いつも通りの笑みを浮かべた。


「ありがとうユリ。キリトも。クラスに行こう」


「いや、アズサが仕切ってくれてる。うちのクラスは大丈夫」


 キリトの言葉に、イルガは思わず吹き出した。最初は問題児の多いクラスだと思っていたのに。


「そうか……」


 そのとき、運動場からすさまじい魔力が放出され、三人とも一斉にそちらへと目を向けた。


「アクト……解放した?」


 いつも封印されている二つ目の層が破壊されているのがわかり、なにかあったのかと不安になる。


「アクト!」


 急いで運動場に駆け込むと巨大な結界に包まれ、その奥にアクトが膨大な魔力を渦巻きながら背を向けて立っていた。駆け寄って結界を越えようとするが、入ることは許されても出ることは叶わないらしい。ようやくアクトが振り向いて、危ないのでそこにいてくださいと苦笑する。


「避難指示ありがとうございました」


「ああ……それよりお前、解放して……」


「先生方が避難させるにしろ、軍の援助を待つにしろ、時間がかかることは変わらないので」


 その間ここを守るというのは現実的ではない。しかし、まだここに人が残っているのに事態の対処に向かって集中出来るとも思えないのだ。


「人が来る前に解放したときの衝撃は抑え込めたからとりあえず大丈夫です」


 キリトとユリは解放したときのアクトを一度目撃している。それでもやはり目の前にある奇跡、あるいは呪いのような存在に萎縮しているようだった。


「大丈夫なはずですが、もし制御を失いそうになったらそのときは少し助けてください」


 二層目だけなら暴走するようなことは起きないと言い続けてきたラルクやセトを信じ、イルガがなにか起きた時に支えてくれると信頼している言葉。


「そばにいた方がいいのか?」


「いえ、それだと危険なので先生もそのまま中に」


 わかったと心強く承諾し、アクトの周囲で荒れている魔力をまとめてアクトの中へと戻してくれた。普段生活しているときとさほど変わらない感覚になって、目を見開く。


「こんな感じか」


「……ありがとうございます」


 これだけ制御に余裕があれば問題になることはないだろう。ほっと息を吐いて微笑むと、イルガも大丈夫と言うかのようにうなずいた。


 転移陣を組み上げていると、ラルクから念話が届く。


『アクト、避難先はミューエス。街門の外でいい。終わったら南区画に移動してくれ。移動次第三つ目も解放する』


 適当に指定していた転移先をミューエスに変更しながら、後半の発言に顔をしかめる。


『……大丈夫なの、それ』


『その辺の避難を急がせてる。できたら公園でやってほしい』


 南地区の三分の一は国立の公園で占められている。そこで暴れてもらえればアクトの魔法による被害も最小限に抑えられる、ということだろう。


『……わかった。こっちはまだ時間かかると思う』


『了解、準備できたら教えてくれ』


 魔法技能に秀でた者が大勢集まっている場所ではあるが、所詮は学生ということだろうか。一度起きた混乱はなかなか止むことがなく、パニックになっていたり、恐怖で動けなかったりする者もいる。結界内にいる人たちは先生がどうにか統制しているが、あまり時間がかかると落ち着きがなくなることもあるかもしれない。


「アクト君」


 近づいてきていたのはわかっていたが、まさか声をかけられるとは思っておらず、驚きながら振り向く。ケインは少し困惑した表情で結界の外のアクトを見つめていた。


「……よかったのか? これだけの人の前で」


 良いか悪いかで言えば悪いに決まっている。ケインのことは今でも忌避したい気持ちは強いが、アクトのことを気遣っていることはわかった。


「今さらその心配をしても、遅いですから」


 ケインはそう……と目を少し伏せる。


「双風、軍から伝言だ」


「え?」


「南地区の避難が完了したから、ここが終わり次第双風も移動してもらって構わないそうだよ。校内の確認も終わっている。よろしく頼めるかな」


 この短時間で南地区を無人に。混乱の中でそれをやり遂げた軍に頭が上がらない。


「わかりました」


「きっと不本意だろうに、任せてしまってごめんね」


 ケインの言葉に、アクトは首を横に振った。


「ここは、楽しいところでした。そんな場所を守れるなら、意地を張る意味はありません」


 それだけ伝えて、転移させるための動力を与えるだけで完成する転移陣に魔力を流し込む。


「――“転移”っ!」


 無事全員の転移が完了していることを確認して、自分も南地区の公園に転移する。周囲を気にする必要がなくなり、魔力を自由にさせて魔物を一掃した。


「セト!」


「なにをすればいい?」


 王都で起きていることは把握していたのだろう。セトは現れるなりアクトに問いかけた。


「魔物をこの公園内に集めて……俺がここから動こうとしたら止めてほしい」


「三つ目も?」


「これから」


 あの日以来触れてはならないものとしてアクトも鍵を持つ者も扱っていた領域。


「……わかった」


 セトはそのときのことを直接は知らないが、今解放すればどれだけのことが起きるのか予想はできる。アクトやラルクはわかっていないが、彼の魔力は王都全てを破壊しても止まらない。


「全解放もまだなのにそんなんじゃすぐ息切れするぞ」


 そんなことを言えるはずはなく、代わりにアクトの胸に手をかざす。出力がかなり抑えられ、周囲にひたすら放たれていく魔力がかなり落ち着いた。これなら公園とその周囲くらいの被害で済むだろう。


「魔力の出ていく回路は右手一つ。量も出力も絞った。これなら無駄遣いも減るし少しは余裕あるだろ」


 そう言ってから、アクトの足元に魔法陣を描く。その場に固定されたのがわかって、アクトが微笑んだ。


「ありがとう」


「その魔法陣がこの辺の魔物は引き寄せる。不要になったら教えてくれ」


 セトが姿を消し、一人残される。ざっと探れる範囲に人がいないことを確認してから大きく深呼吸して、ラルクに念話を送った。


『父さん、準備できた』


『わかった。もし意識を取り戻したら教えてくれ』


『うん』


『じゃあ、解放するぞ……無茶なお願いかもしれないが、無理だけはするなよ』


 最後の魔法陣が胸の上に描かれ、破壊される。

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― 新着の感想 ―
セト様ー! は……やっぱりクールで仕事出来る系の人なのかもとも思うんだけど、見境のないアクトloveな人でもあって欲しかったり……すみません一読者の妄想です それはともかく、この状況は何なのか、先日…
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