クリフハンガー
やぁ、久しぶりー(←おさぼりクソ野郎の登場)。
――いま俺は、火だるまの中。
そして俺は、この体が燃え尽きる前に、祈っていた。
脳と五感が焼き切れる前に、死に行く涙を思っていた。
血は溢れ、燃え立ち、内側から皮膚を破り、俺を飲み込もうとする炎すらも焼き尽くしていくかのように――俺の身体は絶叫している。
――あの日、ジェニーは死んだ。
ぜんぶ俺のせいだった。
俺のたった一度の過ちが、俺の意地が、プライドが、油断が、最愛の親友の命を一瞬で葬ったのだ。
まんまと"アイツ"の口車に乗り、ジェニーと共にあのレースにさえ参加しなければ、あんな残酷な事故は起きなかった。
俺が彼を殺した、それは紛れもない事実だ。
――そしてあの日"アイツ"は俺たちをハメただけじゃなく、ジェニーを見捨てて逃げたんだ。
だから今度こそ、意地でもアイツに勝たなければいけなかったのに。
レースで勝って、アイツに罪を認めさせ、償わせなければならなかったというのに。
それが俺に出来る唯一の弔いだったというのに。
なのに俺は、また負けた。
そしてこのまま鉄の火だるまの中で、無様に焼け死ぬのだろう。
負けたまま、終わるのだろう。
――ジェニー、ごめんよ。
どれだけ泣き叫ぼうとも、音にすらならない。
吠えれば吠えるほど、ただこの喉が焼け落ちるばかりだ。
こんな簡単な謝罪さえ証明出来ないなんて、これほど悔しいことは生まれてこの方、一度たりともありはしない。
――あの日、本当はレースなんて、どうでも良かったのだ。
本当は「勝ち負け」なんてどうでも良かったんだ。
俺はただ、お前や仲間たちと作り上げた、俺たちの自慢の一台を馬鹿にされたことが許せなかった。
俺たちの誇り、絆、財産、そして俺の仲間を、見下そうとするヤツが許せなかった。
――ただ、それだけなんだ。
随分長い時間、俺はこの後悔の火だるまに抱かれている気がする。
けど、それももう終わるのだろう。
熱さはとっくに消えていて、もはや痛みすらもない。
横たわるだけのこの肉体に感覚はない。
それはこの身体がとうに生きることを諦めているという証拠だった。
真っ黒な俺の体が炎を纏い、間もなく世界は真っ赤なノイズに焼き払われた。
そんな中、この魂だけが正直だった。
魂だけは終わることなく燃え続け、あの日々を見つめ続けていた。
もし、生まれ変わることがあるなら――。
――俺はまた、お前と走りたいよ。
あの頃みたいに、皆でさ――。
――そしたらきっと、最高なんだ。
これは読んでも読まなくても良い話。
てんさまのコンセプトから外れはしないけど、ストーリーに直接関係することはなく完全に趣味で書くので、読みたい人だけ読んで下さい。




