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【てんさま番外編】あなざ~ばぁす。 ~姫と光の四戦士~  作者: otaku_lowlife
4.バリー・バードマン編
24/30

Dream On Dreamer_3



「あのー、大丈夫……ですか?」


「……。」


――流石にこんなところで寝ていては邪魔になっただろうか。

俺がケズトロフィスにやって来て数日。

真昼間から小さな公園の手頃なベンチで寝転がっていると、突然俺に話しかけてきた奴がいた。


「もうずっとそうしてますよね? どこか具合でも悪いんですか?」


「……いや、別に。」


 どうやらただのお節介らしい。

しかしわざわざこんな浮浪者に話しかけてくるとは一体どんなやつだろうか。

俺が顔を覆っていた羽根を気持ち程度下げると、真っ黒な隙間から長く綺麗な赤髪が揺れるのが見えた。

そこから覗き込むように、キラキラと宝石のような青い瞳が――ヒュムか。


「あ、良かったらこれ……食べます?」


「……。」


 柔らかい笑顔の彼女が手に持っていた籠。

そこから出てきたのはデロデロのグロテスクな生魚だった。

ヒト懐っこい天然のヒュム――それが、アリシアという女だった。




***




「それじゃあバリー君、北の大陸から来たんですか?」


「あぁ、出身はこっちだが、転々としててな。」


「わぁ~そうですか。色々大変なんですね。」


なんとも目覚めの悪い俺の隣に腰掛けて、アリシアは他人行儀にそう言うと、さも感心したように神妙なお面持ちで相槌を打ってきた。


「でも良かったですね。」


――は?


「……なにが。」


「空が飛べて。船代タダじゃないですか。羨ましい。」


「あぁ……。まぁな……。」


 何を言い出すかと思えば……やはり他人事か。

如何に翼人といえど、大陸を渡るほど長く飛行することは出来ない。

ヒュムが延々と走り続けられないように、俺達の飛行能力にだって限界があるのだ。

それこそ風向きや天候に左右されることを考えれば、走って行く方が幾らかマシだとさえ思える。

故に船代もタダではないのだが……そうとも知らずに、アリシアはまるで自分の事のように嬉しそうに笑った。


「けどなんで放浪の旅なんてしてるんですか?」


「旅って……それは……。」


「あ、ひょっとしてヒト探しとかですか?」


「いや……。」


 さて、どう話したものか――そんなこと、迷う必要も無いというのに。

俺がひと所に留まらない理由、それは俺の見る夢が傍に居るヒトを傷つけてしまうから。

それ以外に理由なんて何もない。


 だがその時すでに俺は、何故だか彼女に対して親近感の様なものを抱いていたらしい。

正直に理由を話して、彼女に怖がられたくない。

あともう少しだけ、こうして傍に居て欲しい――今にして思えばそういうことだったのだろうと思う。

まぁ、そんな迷いも一瞬だったが。


「……業苦だ。」


――バサッ!!


「はぁ……。業苦、ですか。」


「……。」


――あれ……なんか、調子狂うな……。

ひと思いにいっそ突き放そうと、大きな黒い羽根を勢いよく広げて見せたが、隣に座るアリシアはとぼけた様にキョトンと首をかしげるだけだった。

ヒュムの中には平和ボケしたヤツがやたらに多いと言うが、つまりこういう事だろうか。

それならば俺のような身元不確かな浮浪者に、こうして気安く話しかけてくるのも納得がいく。


「それで、バリー君のはどんな業苦なんですか?」


 そしてこの世界の奴らは業苦を背負う者に対して執拗にレッテルを貼ったりはしない。

別に害さえなければ、それは個人の性質とは無関係だからだ。

むしろ種族による差別の方が圧倒的に多いとさえ言える。

しかしそれも飽くまで「業苦の性質に害さえなければ」の話だが。


「俺のは……見た夢が現実になる。」


 俺が放浪の旅をしている理由。

夢を見る業苦――少し考えれば、流石にコイツにだってその意味が解るだろう。

だが――


「へー。凄いですねー。」


何だ貴様……その反応は……。


「……お前、興味ないならさっさとあっちに行け。迷惑だ。」


「あ! ありますありますっ! 興味はあります! だから詳しく教えてください!」


そうかと思えば急にグイグイ来るな……。


「近い、離れろ。」


 まるでネコがじゃれるように身を寄せてきたアリシアの顔を、俺は羽根のバリケードで遮断した。

話し相手が異性という気恥ずかしさもあったが、なによりもこれ以上ヒトと距離を縮めてしまう事にそもそも抵抗があった。

それに俺はこの街に来てからまだ一度も風呂に入っていない。

故にこうして、あまり顔を近づけて欲しくなかったというのもある。


「クンクン……ん? バリー君、なんか香ばしくて良いニオイがしますね。トウモロコシみたいです。あ、いや、トリかな?」


「ハッ! 羽根ヲッ! 嗅ぐンジャないっ!!」


「いやいや、美味しそうな良いニオイですよっ。」

 

「やめろバカ野郎!!」


――しかし遠ざけようとすればするほど、何故だか距離が縮まっているような気がしてならなかった。

こうしてヒトと話をするというのが、とても新鮮で不思議な感覚だった。

暖かな高揚感――これは「楽しい」という、俺が忘れていた当たり前の感情なんだろう。

ずっとこのまま、こうしてアリシアと話していたい――俺は遂にそう思ってしまった。


「おーい、アリシア。お待たせ。」


「――あ、やっと来た。」


 遠慮もなしにベタベタと俺の羽根に触るアリシアを振り払った時、笑顔でこちらに手を振る男性が公園の入り口の辺りに見えた。

みたところヒュムかドルイドか。

そしてどうやらこのアリシアという女は、あの男性とここで待ち合わせをしていただけらしい。

その暇つぶしとして、俺みたいな変人に話しかけてきたというだけなのだろう。

つまり、そういうことか。


「私そろそろ行かないとっ。」


「あぁ。」


 アリシアはさっさと立ち上げり、男性の方へ駆けて行く。

まるで俺の事など、最初から無かったかのように――


「それじゃぁまた明日ね。」


――そうだったら、どれほど良かっただろうか。


「また、明日……。」




ぜんぜん1~2話で終わって無くて草。

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