ほんと、にゃんにゃんでしょうかね……。
「ぅぅうがぁぁあああ!! 」
まさかそんな、死体が生き返るなんてこんな事が……。
「これがゾンビ……。」
「プシーにゃん、早くボクの後ろに隠れるにゃん。」
「にゃ、にゃん……。」
どうやらここは呪われたお屋敷だったようです。
ほらだから言ったじゃないですか、「如何にも」な雰囲気がするって。
死んだはずのハグキさんが両腕を高く上げて伸びをしながら起き上がると、男のネコさんがプシーのネコさんを庇うように前に出ました。
「――っと……よく寝た。」
ん? 今このゾンビグキさん、なんて言いました? ――よく、寝た? そう言いませんでした?
見ればその顔は、ゾンビとは思えないほどスッキリした表情です。はて――
「おや? これはこれは皆様、どうしてここに?」
「ほほう、これは……。」
「待て、気をつけろ。このゾンビ油断させておいて襲う気だぞ。」
「バカ言ってんじゃないわよ! どう見ても生きてるじゃない!」
「えっと、けどこれは、一体どうなってるんですか?」
全員が戸惑いの表情を浮かべる中、未だボケ続けるアケチコさんにピュアさんがツッコミました。
そうなんです。生きてるんです。絶対に。
血色の良い肌に、お爺ちゃん特有の微妙な臭い、それにゾンビにしては言動が「ゾンゾン」してませんし。
てっきり本当にゾンビにでも成ってしまったのかと思いましたが、どっからどう見ても生きてるハグキさんなんです。
「はて、何をおっしゃっているのかさっぱりですが、私なら見ての通りピンピンしておりますゆえ。」
「は? はぁ……。いや、ならどうしてこんな所で気を失っていたんですか? てっきり殺人事件でも起きたのかと……。」
「ははぁ、皆様がお揃いなのはそういう事でしたか。なっほね~。」
両肩を景気よくグルグルと回しながら、ハグキさんは「何か」を勝手に納得したようで、その得意げな言動や表情が少し腹立たしくもありました。
「いえなに、この時間になるとどうしても眠くなってしまうもんですからな。」
え。
「ほほう、つまり疲れてこの場所で寝ていただけと?」
え?
「最近、就寝前はいつもあの辺りで寝落ちしてしまうものでして。」
えー……。
「にゃんにゃんそれ?」
「ほんと、にゃんにゃんでしょうかね……。」
思わずプシーのネコさんと顔を見合わせて首をかしげてしまいました。
「まったくヒト騒がせな執事ね。お陰で酷い目に遭ったわよ。」
「そうにゃん、ビックリしたにゃん。」
と、さんざん冤罪を掛けられたピュアさんと男のネコさんは非常にご機嫌斜めです。
あれ、そう言えば――
「でも、さっきハグキさんの脈を取った時は確かに死んでるって言ってましたよ? ね? ネコさん。」
「いや、ヒュムの脈がどこにあるにょかにゃんて知らにゃいにゃん。見様見真似にゃん。」
え。
「そうにゃんそうにゃん。」
「えー……。」
もう全てが事件なんですけどぉー。
なんか、たまにありますよね、こういう事。
何でもないミスとか、すれ違い事が重なって、事態が余計にややこしく拗れるみたいな。
確かヒト世界では「ホウレンソウ」とか「ゲンバネコ」とか「オスシモ」とか言うんでしたっけ?
「だがそれなら、さっきの女の悲鳴は何だ。」
あ、そうですよ。流石はアケチコさんです、大事な事を忘れていました。
それなら一体、あの女性の悲鳴はなんだったのでしょうか?
こうしてハグキさんも無事で死人も出ていないのなら、先ほどのあれは……。
「あぁ、それでしたら恐らく――お嬢さまぁぁああああああ!!!!
近くにいらっしゃるのでしょぉぉおおおおお!!!!
皆様にご挨拶されてはいかがですかぁぁああああああ!!!!」
ふいに、何かを思い出したようにハグキさんが化け物みたいな大声で屋敷内のどこかにいる「なにか」に呼び掛けました。
お嬢様――というと、このお屋敷の主人でしょうか? すると先ほどの悲鳴はその「お嬢様」のものだと?
そういえば完全に忘れていましたけど、どうして姿を現さないのでしょうか?
あぁもう次から次へと謎が増えて、いつまでも収拾がつきません……。
そして困惑したのは他の皆さんも同じだったようで、ハグキさんが常識外れなほどに桁違いな大声で「お嬢様」を読んでいる間、皆さん眉間に皺を寄せて両耳を塞ぎ、難しい顔をしていました。
「ぅぅ……。こ、こんばんはぁ~……。」
「ふえ?」
あ、可愛いー……。
突如1階の右通路(客間とは逆に、お食事処のある方ですね)から声が聞こえたかと思うと、一人の女性がこちらを申し訳なさそうに覗いてるのが見えました。
「え? 黒い翼……、翼人?」
それを見たピュアさんが首をかしげましたが、なるほど、色々解りかけてきましたね。
つまりこのお屋敷の御主人というのは――
「ほほう、するとあの方が?」
「左様でございます。さぁ、お嬢様、そんなところに隠れていては皆様に失礼でございますよ。こちらへ来てご挨拶を。」
「うぅ……。わ、わかってるわよぉ……。」
皆さんの注目の的となり、更にハグキさんに急かされてようやく渋々と通路から姿を現したのは、スラッとした見た目の若いお姉さんでした。
なによりも先にまず目につくのは、その黒い翼――翼人であり、そして黒印持ちである証です。
爽やかな水色の長髪と、艶やかな赤いドレスの美しさに思わず目を奪われてしまいました。
「う……やっぱ、無理……。」
そして「お嬢様」はようやく通路から出て来たものの、何故かハグキさん小さなお背中にいそいそと隠れてしまいました。
もしかすると、今まで姿を見せなかったのは「そういうこと」なんでしょうか?
「あ、そう言えば、ねぇハグキ。さっきアナタを起こそうと思って近づいたら、ゴキブリが2匹もいたの……。
このままじゃ不安で眠れないわ、早く退治してね……。」
「承知いたしました。それよりもお嬢様、こうしてお顔を見られてしまったからには、まず皆様にご挨拶をして頂かなければ。」
「ぁ、そ、そぅよね……。わかってるんだけどね……。」
えぇ、どうやら「そう」みたいです。
そしてついに勇気を出して「お嬢様」がハグキさんの背中から顔を出しました。
「ぇ、えっと……初めまして。私、フ、フローラ、でしゅっ! ……。」




