試しに3回、早口で言ってみて下さい。
完全に書き忘れてたけど、こちらは「てんさま。」の一部終章以降に読むことをオススメします。
まぁぶっちゃけ読んでも読まなくても良いようなアケチコの話だからどうでも良いですけど、そもそもアケチコって誰だよってなっても困るでね。
ん? ちっちゃい事は気にしない?
オーケーそれじゃあ行ってよう! アケチコアケチコ〜ッ!
どうも、名乗るほどの者でもありませんが、私、ミア・フィルラフィアットです。
お久しぶりな皆さんも、お初にお目にかかります皆さんも、ご機嫌はいかがでしょうか?
私は今日も絶好調です。
ん、え? 「そもそもお前なんか知らないし、なんだか覚えにくくて噛みそうな名前だ」ですって?
失礼ですね、「覚えていない」はともかくとしても、噛みそうな名前だなんて、そんなこと全然ないんですよ?
それじゃあ試しに3回、早口で言ってみて下さい。
さん、はい、ミア・フィルラフィアットミア・フィルラフィアットミア・フィルラフィアット。
……どうですか? スラスラ言えて、漏れなくもう覚えちゃったんじゃないですか?
ほらね、実は覚えやすい名前なんですよ、私の名前って。
ん、今度は何ですか? え? 「それでお前は誰なんだ」ですって?
そうでしたね……。
えぇ、自覚はしていますとも。私はヒト一倍「影が薄い」ということを。
ケズデットの村にいた頃もそうでした。
私のことを顔でしっかり覚えていた友達はファラちゃんだけです……。
「おい、ミア。この道で本当に合ってるのか?」
「はい、アケチコさん。大丈夫ですよ。」
ところで皆さん、私の隣にいるこの方がどなたか解りますか?
ふふ、そうです。何を隠そう、彼こそが泣く子も黙る名探偵、シャーロック・アケチコそのヒトです。
そして私はアケチコさんの助手なんです! どうですか? 凄くないですか?
え? そもそもアケチコなんて知らない? ……アナタ大丈夫ですか? ちょっと病気入ってるかもしれませんよ?
たしかアナタともお会いしていたと思いますけど……そうそう、ケズトロフィスに浮気調査に行った時ですよ。
思い出せませんか? ……あ、そうですか……。もういいです……。
けど、助手の私はともかく、アケチコさんは本当に凄いヒトなんですよ?
ついこの間だって、ケズバロンで難解な殺人事件をスピード解決したばかりなんですから。
言い逃れをしようとする犯人をグゥの音が出なくなるまで追いつめて――え? どうでも良いですって?
む、本当に失礼なヒトですね。まぁもういいです。
ともあれ、今私とアケチコさんはケズトロフィスの近くにある薄暗くて怪しい小さな森に来ています。
なぜそんな所にいるのかって? それはズバリ、アケチコさんが「事件の臭い」を嗅ぎ付けたから――
「それにしても宿泊料金が無料だなんて、いくらこんな森の奥にあるからと言ってもおかしな話ですよね。」
「あぁ、間違いなく何かが起こるだろう。そんなことより――」
目の前を歩いていたアケチコさんが、ふいに立ち止まりました。
「もう随分長いこと歩いているが、一向にそれらしい建物は見えないな……。」
「もうすぐです。この獣道を抜けたら、なんか殺人事件とかが起こりそうな感じのお屋敷があります。」
「そうか。まぁ、私の鼻が事件の臭いを感知しているから、間違いはないとは思うが。」
ジメジメした薄暗い森の中を、アケチコさんは億劫そうに額の汗を拭いながら、伸び放題の草木をかき分けて獣道を進んでいきます。
その大きくて黒い背中から逸れない様に、私は後ろに着いて歩いています。
アケチコさん、チンチクリンな私じゃ背の高い草木を分けて歩くのも大変だろうと気遣って前を歩いてくれてるんですよ。
初対面の方からは冷たいヒトだと思われるんですが、実はとても優しい方なんです。
どうですか? アケチコさんの魅力、少しずつ解ってきたんじゃないですか?
「あ、見えてきましたよアケチコさん! あそこです!」
「ふ、いよいよか。見るからに怪しいボロ屋敷だな。」
あ、アナタとお喋りしていたらあっという間に着いちゃいましたね。
そうして長い獣道を抜けた途端、開けた空間に出ました。
ヒトの住んでる気配のない無駄に大きくて小汚い洋館。
私たちが獣道から現れると同時に、如何にも不穏な感じの黒い鳥が屋根から飛び立ちました。
空はこれまた「如何にも」な感じに厚い雲に覆われています。
これは如何にも、ただ事ではない何かヤバ気な事件が起きそうです。
アナタにはそんな「如何にも」な予感がしませんか? え? 全然しない? そ、そうですか……。
まぁ折角ここまで来たんですから見ていって下さい、アケチコさんの腕前というやつを。
「さぁ、行きましょうっ! アケチコさんっ!」
「さて、何人死ぬかな。」
「ですねっ!」




