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【てんさま番外編】あなざ~ばぁす。 ~姫と光の四戦士~  作者: otaku_lowlife
2.マラクとマーシュ編
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神様。

「うぇっへっへっへぇ~。」


 積み上がった首のない死体の山。

その変態は恍惚に歪んだ笑顔を浮かべて、ついに私へ向き直る。

殺される、今度こそ、この変態に殺される。

そう思ったのに……。


「あ? んだこのガキ、とんでもねぇブサイクだなぁ。」


そして、こう言った。


「おまえ運が悪りぃな、俺はブサイクは殺さねぇ主義者なんだわ。」


 そう言った。

そう言って、笑った。

そう言って笑って、リビングを出ていこうとした変態の裾を、私はグイッと掴んで引っ張っていた。

何故、そんな事をしたのか、今でもよく解らない。

けど……


「こ……殺して、……。」


 初めて、喋れたんだ。

生かされた事が悔しくて。

ただブサイクってだけで、生かされてしまった事が、悔しくて。

悔しくて、悔しくて悔しくて悔しくて、涙が溢れた。

あんな涙を流したのは、後にも先にもあの時だけだった。


「殺して……。殺してよ……。」


 けど、死にたい筈なのに、何がこんなに悔しいのだろう。

言葉にした途端、溢れ出した涙に、胸を焼かれるように締め付けられた。

苦しい、苦しい、苦しい。


「お願いだから…行かないで……。」


 だから絶対に、逃さない。

そう思った。


「…嫌だね、ブサイク。」


それも、簡単に拒絶されたけどね。


「じゃあ……。」


 私の腕を淡々と振り払って、悪魔は外を目指した。

その背中に、ダメ押し。


「地獄へ、連れてって。」


「……ふっひゃっひゃっ。」


振り返ったマスクの悪魔は、笑っていた。


「おまえ、名前は。」


あの日、私は神様と出会い。


「…マーシュ。」


大好きなヒトの名前を借りて、悪魔の子に生まれ変わった。




***




 …それが、マラっさんとの出会いだった。

ボスや二代目、アラタさん達との出会いだった。

グッドシャーロットでの賑やかな日々の始まり。

私の幸福の始まりだった。


「だぁああ!! マーシュ!! そうじゃねぇっつってんだろが!!」


「だぁ! わーってんよぉ! せっかちだなぁ!」


 そして私は今、生きている。

このどうしようもない神様のいる世界で。


「たく、そんなんじゃいつまで経ってもレジェンド・オブ・マスクには成れねぇぞぉ? いいのかぁ?」


 まぁ、いい加減このノリにも疲れて来たけど。

なんだレジェンド・オブ・マスクって。

あと喋り方が気持ち悪いぜよ。

慣れない皮剥きを後ろで見ていたマラっさんが、私の手が遅いことにイチャモンを付けると、再び説教を始めた。


「いいか? 人生ってのはな、マスクに始まり、マスクに終わるんだ。」


 あ~ぁ、うるせぇー。

このモードもめんどくさいぜよ。


「例え何も信じられなくなっても、マスクだけは信じろ。それが、救い――」


ズボッ!!


「お?」


 って……、あらら……。

突然の重打音に振り返ると、マラっさんの頭が左半分吹っ飛んでた。

小さい脳みそがチョロっと飛び出して、倒れるまではいかないけど、でかい図体がヨロけた。

どうやら残党がまだいたらしい。


「へへへっ、一丁あがりだぜっ☆」


 見れば茂みの中に、フレイル型のモーニングスターを持った得意げなブサイクが一人。

ありゃ多分、マラっさんが逃がしたヤツだろうな。

そしてあそこからブンブン振り回してトゲトゲ鉄球を「えいやっ☆」とブン投げたわけだ。

なんで気付かないかねぇー。


「ぃいってぇなぁぁあ〜もぅうぅう〜、ウヒヒヒヒィッ。」


「は……、な……。」


 致命傷を受けて身をよじった巨漢に、得意げブサイク(☆)が後ずさるが、無理もない。

凄い嬉しそうで、キモいよね、ソイツ。

そうそう、言い忘れてたけど、マラっさんの業苦は「不死(ホステージ)」。

コレのせいで、このヒトは死なないらしい。

いや、死にたいのに死ねない、という方が正しい。

ボスの話では、死ねなさ過ぎて、遂に苦痛を快楽に変えてしまった生粋のド変態らしい。


「ぶひゅ。一緒に、一緒に死んでくれるのぉ~??」


「ひ…く、来るな!! この変態!!」


「それなー。」


 あーあ、また新たな犠牲者が。

普通に死んだ方が、いっそ幸せだったろうに。

得意げブサイク(☆)がその後どうなったのかは、あまりに酷いので割愛。


「たく、根性のねぇ野郎だ。これだからマスク無しはいけねぇ。」


その後、頭も精神も元に戻ったマラっさんが、その亡骸を見て狂言を吐き捨てる。


ぐぅぅううう~~……。


 そして、私のお腹が鳴った。

朝のうちにグッドシャーロットを出て、かれこれ7時間は動きっぱなし。

どうでもいいスパルタ講習のせいで無駄に日も傾いて来たし、正直もうクタクタだった。


「マラっさ~ん、そろそろ戻ろうよー。お腹空いたぜよー。」


「ったく、いっちょ前に腹なんか空かせやがって、おめぇもマスク被れ。」


「意味わかんないぜよ……。」


その後、小言を言われながらもなんとかマラっさんを説得した私は、グーペコのお腹を抱えてようやく帰路についた。


「そういやなぁ。遂に、念願の白カラスの情報が入ったんだよ。」


「へ~、そりゃまた珍しいこった。それじゃぁ近々また外に行くんで?」


「あぁ、なんでも美人のメスガキとセットらしい。良いマスク、作れるかもなぁ。」


「……。」


 と、再び気持ちの悪い笑みを浮かべてウヘウヘ言い始めた。

そう、マラっさんの趣味はマスク作りだけじゃない。

ミミガーやソーセージ作りにひたすら没頭する私やアラタさんと違って、この変態は多趣味だ。

獲物の皮を使った家具作り、そして珍獣標本なんかも作ってたりする。

なんでも次の獲物は世にも珍しい真っ白なカラスらしい。

ほんとにそんなもんいるのかって思ってたけど、バッドオーメンズの情報なら確かだろう。

なにしろ彼らは命懸けだ。

もしマラっさんに偽情報や誤情報を流そうもんなら、即行マスクか家具にされるからね。


「楽しみだなぁ~。」


 けど本当のところ、このヒトが多趣味なのは、死にたくても死ねないからなんだ。

このヒトが心から本当に欲しているのは、死だ。

死ねないから、どうしようもないその苦痛から目を逸らしたくて、退屈しのぎにこんなことをしている。

ボスは、そう言っていた。

そして、だからこそ、私は傍に居る。


 誰がなんと言おうと、私にとってこのヒトは神様だ。

あの日からずっと、私の命…生かすも殺すも、マラっさん次第だった。

それって、神様だよね、きっと。

私が殺したいほど憎んで、殺したいほど愛した、神様なんだ。


 だから、いつか私はこのヒトを殺してあげたい。

私はこのヒトが死ぬところがみたい。

このヒトの願いの為に、生きていたい。

このヒトの死を、看取ってあげたい。

このヒトにとっての最高の喜びは、この世の誰も望まない、陰惨な死だから。

それを私は、最後に見届けたいんだ。


「あ、今年の皮オブザイヤーもそろそろ決めねぇとなぁ~。

 へへ…腕がなるぜぇ。」


 ま、だいたいこんな感じ。

ぅあ~、お腹減った。

今回は、読者の皆さんが積上げてきた世界観を破壊しかねない、酷く暴力的なお話でした(元々そういうつもりで書いてたりするんですが)。

なので次回はゆる〜く、みんな大好き☆名探偵シャーロック・アケチコ編ですぅ〜。

それ! アケチコッ! アケチコーー!!

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