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【てんさま番外編】あなざ~ばぁす。 ~姫と光の四戦士~  作者: otaku_lowlife
2.マラクとマーシュ編
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孤児院。

ー この世界に、神様なんていない。 ー


 ケズトロフィスの大災害。

私はあの頃の記憶が、殆どない。

自分の本当の名前が解らない。

父と母の顔、思い出せない。

欠片も。

あの頃、唯一覚えているのは……


「ジャスミン。畑からお野菜採ってきて貰える?」


 孤児院。

あの頃、私は「ジャスミン」と呼ばれていた。

ジャスミン、それはヒト世界のキレイな白い花の名前らしい。

言葉の響きとかそのイメージとか、似つかわしくなくて、正直あまり好きじゃなかったけど。


「……。」


 そして私は言葉を話せなくなっていた。

たぶん精神的なストレスとかが原因なんだと思うけど、なんでか声が出なくて、それで皆と喋れなかった。

周りからはひどく気味悪がられ。

友達、居たには居たけど、心から信用出来るヒトは一人も居なかった。


「え〜っとね。ナスと、トマト。あ、あと玉ねぎも。お願いね。」


「……。」


 けど、お手伝いで頻繁にやってくる保母のおねえさんは、とても優しかった。

名前、マーシュ・アルヴァ。多分23歳くらいだったと思う。

いつも幸せそうで、ニコっと笑ったその顔は、女の私でもハッとするほど、透き通っていて、綺麗だった。

私はあのヒトにだけは可愛がられていたと思うし、私も心を許していた。

もし生まれ変われたら、こんな素敵な笑顔の女のヒトに成りたいなって、思ってた。

そんな孤児院での生活も4ヶ月を過ぎた頃。


「おい見ろよ、野菜泥坊のジャスミンがいるぞー!」


「やい乞食おんな! 盗み食いとは良い度胸だな!」


 ここは孤児院。

子供たちは親から捨てられたり、虐待を受けたり、他にもまぁ…色々家庭や本人に問題のある子がここに集められる。

そんな場所だから、保母さん達の目の届かないところで、イジメとかあった。

別に、なんとも思ったことは無いけど。


 イジメは日に日にエスカレートして行った。

私を庇う子も同様に酷い目に合い。

その子は、私のことを大変だねっていう。

でも私は別にそう思わなかった。

この子がなんで助けてくれるのかも、よくわからなかった。

今にして思えば、あの子にとって私は、友達だったのかもしれない。

そんなある日のことをだ。


「生き残りはこれで全員か。」


 ケズトロフィスの大災害。

あの頃、世界は荒んでたから。

黒印持ちは陰で迫害され、行き場を失くした黒印持ちが、あちこちで盗みや殺しをしていたらしい。

そして、孤児院。

食料もそれなりにあって、雨風も凌げる根城。

立地は、今となっては最悪で、沈んだケズトロフィスとノルマンディの森の間くらいにあった。

だからこそ、だろう。

行き場のない黒印持ち達の襲撃にあった。


「ガキもやるのか?」


「あぁ、全員殺す。生かしても邪魔なだけだ。」


「了解。」


 その日私は、イジメっ子達から逃げて、リビングのクローゼットに身を隠していた。

その隙間からは、数人の男達が赤いサーベルを持ってるのが見える。

既に保母さん達のほとんどは殺されたらしく、大人の女性の死体が、幾つか転がっているのが見えた。

そして……


「まずアンタだ。」


「……。」


 殺された。

保母のおねえさん、優しかったのに。

膝から崩れ落ちた死体が、むごい血の海を作る。

縛られたイジメっ子達がギーギーと耳障りな悲鳴を上げてるのが見えた。


「うるせぇなぁ。」


 最初に泣き声を上げて大暴れした子が殺された。

その後順番に、うるさい子から次々と。

そして、私を庇ったあの子。


「この子、売ったら金にならないか?」


「人身売買なんかこの世界じゃ成立しねぇよ。いいからさっさとしろ。」


「残念。」


あの子も殺された。


 死体の山。

いち、に、さん、…まぁ沢山。


「やっと静かになったな。」


「んじゃ、まず金目の物を。」


 男達が、屋敷中を引っ掻き回す。

このリビングにも、2人。

いよいよ私のいるクローゼットへ手をのばす。


「あ? まだ隠れてやがった。」


 そして、見つかった。

私は髪を掴まれて引きずり出された。


「……。」


殺される。

それを強く悟った時、大好きだった保母さんの、あの幸せそうな笑顔が頭に浮かんだ。


ー あぁ、そうか。 ー


まぁ、もういい。


ー きっと幸せって、こういうものなんだ。 ー


別に死んでも。


ー こんなに脆くて、儚いものなんだ。 ー


こんな世界。


ー 神様なんて、いないんだ。 ー


死んだ方が、楽だ。


ー この世界に、神様なんていない。 ー


そう思った時だった。


「ぎゃあぁぁああ!!」


「な、……んだ?」


 入り口の方から断末魔。

孤児院の子供のじゃない、大人の男。

何かと思った。

ただ事ではないその絶叫に、目の前の男達の表情も曇る。

そして……


コン、コン……


リビングの扉が、叩かれる。


「……。」


コン、コン……


 静まり返ったリビング。

その不気味なノックに、2人の男が緊張した面持ちで息を呑む。

そして勇敢であり愚かな一人が恐る恐る扉に近づき、震える声で話しかけた。


「だ、…誰だ。」


 そう言った瞬間。

男の首がボールみたいに吹っ飛んで、マスクの悪魔が現れた。


「おじゃまぁ。」


それが、私の神様だった。

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