2 お父様
私は、殿下に婚約破棄を言い渡された後、屋敷に馬車で戻り、その足でこの国の宰相であり、私のお父様であるバルバド・フォン・カスタムの執務室に向かった。
トントントン。
私は、扉をノックした。
「誰だ」
「私です」
「ステファか、入りなさい」
「失礼します」
私は扉を開けた。お父様は、いつも通り沢山の書類の置かれた机に向かって座っていた。
「何だい、今日は夜会に行っていたのじゃないのかい」
「はい、行っていました。ですがそこで……」
私はこの後をあまり言いたくなかった。
「どうしたんだい、言ってごらん?」
「お父様怒りませんか?」
「ああ、怒らないさ」
「実は……殿下に婚約破棄されました」
「は!?」
あ、お父様いきなりのことで止まってしまわれましたわ。
「すまん、もう一度頼む」
「ですから、殿下に一方的に婚約破棄を言い渡されたました」
「何!」
お父様は思いっきり、机を叩かれて、机の上の書類が舞ってしまいました。
というか、怒らないと言ったのに思いっきり怒りましたね、お父様。
お父様は、怒ると怖いからできるだけ怒らせたくないのですよ。ま、でも怒りの矛先は私ではないですけど。
「何だと、あのクソ王子。せっかく私の愛しい娘との婚約を苦渋の決断で許してやったというのに」
そうです。お父様は、私のことを溺愛なされているのです。
「ステファ、私は城に行ってくる」
「お父様、少し怒りを抑えて下さい」
「抑えていられるか」
お父様は、お怒りモードのまま部屋を出て行ってしまいました。
「はあ、行っちゃった」
私は、お父様の執務室でため息をついたのたった。
※※※
そもそも、私と殿下の婚約は、陛下からのお願いで、お父様が悩みに悩んだ末に決めたもので、私は殿下の事を愛してなどいなかった。
お父様は、私に恋愛結婚をして欲しかったみたいで、それはそれは、私と殿下の婚約に反対的だったものだ。
しかし、陛下からの押しに負け、渋々の承諾で、その婚約は、成り立った。
この時、私は十歳。
殿下との婚約が決まり殿下とは、何度か顔を合わせたが、それも数えるほどだった。
そして、私と殿下が十五歳となり、学園に入学することになったが、学園でもほとんど喋ることはなかった。
逆に殿下は、ラホリア嬢と交友を深めていった。
私は、殿下とラホリア嬢が仲良くおしゃべりしている姿を何度か見ていた。しかし、嫉妬などといった感情は、出てこなかった。当たり前だ。私からすれば、この婚約は、政略結婚と同意なのだから。
それに殿下は、はっきり言って好みではなかった。
だから、殿下に婚約破棄を言い渡されても何とも思わなかった。
※※※
一方その頃王宮では……
「何、ジークがステファ嬢に婚約破棄を言い渡しただと」
「はい。それも夜会の最中に」
現ローザ王国国王アルバート・シン・ローザは、使いの者からの報告を聞き、頭を抱えていた。
「何という事をしてくれたのだ、あやつは」
国王が頭を抱える理由は、二つあった。一つ目は、娘を愛して止まない宰相バルバドのこと。そしてもう一つ。ステファ本人のことだ。
「これからどうしたものか」
アルバートが再び頭を抱えた。




