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一家全員、死刑確定!? 悪役令嬢の妹のはずでした  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売


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8/11

悪役令嬢になりたくないのに、殿下の婚約者になりそうです⑧


 その瞬間に向けられた多くの視線。


 逃げ出したくて一歩足を引くけれど、殿下に背中を支えられてしまい後退ることすらできない。


 何故、こんなことになってしまったのだろう。

 頭の中で、物語の大まかなストーリーがぐるぐると回っていく。


 私は悪役令嬢の妹で、物語に名前さえ出てこない、一家全員処刑としか書かれない登場人物だったはずなのに……。

 

「下を向くな」

「無理です……」


 できるだけ、顔を見られたくない。

 私をこの場にいないものにしたい。

 そう思っていて、どうやって顔を上げられるというのだ。

 断固として拒否である。


「この場で俺にキスされるのと、笑顔で歩くのどっちがいい?」

「……両方、死ぬほど嫌」


 せめてもの反抗でぼそりと言えば、急に周りの温度が下がった気がした。


「ミルベラ、もう一度だけ言う。顔を上げろ」

「お断りします」


 そう言った瞬間、私の身体はふわりと持ち上げられる。


「────っ!?」


 な、何が起こってるの!?

 殿下にお姫様抱っこされている状況に目を白黒させていると、私のおでこに何かが触れて離れていった。


「「「「キャーーーー!!!!」」」」


 起こった歓声と悲鳴に、びくりと肩が揺れる。


「でででで殿下!! 今、何を!?」

「キスした」

「はい!?」

「おかしいな、ここは頬を赤らめるところだろ?」


 不思議そうに私を見るけれど、私からしたら何でそんな顔をできるのかが分からない。


「何、馬鹿なこと言ってるんですか!? 好きでも何でもない相手からキスされるのって、嫌悪しか感じないですって!!」

「だが、俺相手だぞ? まさか嫌だったのか?」


 嫌だったか……か。

 うーん、たしかに嫌悪はなかった。でも、嬉しくもなかったよね。トキメキも当然ないし、何してくれちゃってんの!? っていう気持ちにはなったけど。


「何で考え込んでるんだよ」

「迷惑極まりないなとは、思いました。あと、命令口調が嫌」

「……口調に関しては、悪かったよ。またやったら言ってくれ。自分では気づけない」


 うーん。これは反省してるのかな?

 まぁ、長年のものは直せないよね。それに、王族なんだから、常に命令を出す側だろうし。


「おでこにキスも悪かったと思ってください」

「断る」

「はい? 横暴過ぎません?」

「ミルベラが俺と婚約を嫌がるから……」


 えー、そこ?

 っていうか、最初からずっと嫌がってるじゃん。


「何で殿下は婚約を喜ばれる前提で考えるんですか?」

「……え、だって王族との婚姻は、家にとっての栄誉だろ?」


 殿下の戸惑いが伝わってくる。

 まぁ、たしかに一般的にはそうかもだよね。

 どう説明しようかな。……というか、いつまでお姫様抱っこしてるつもりなの?


「一先ず、降ろしてください」

「嫌だ。ミルベラが俺との婚約に前向きでないのなら、外堀を埋めるためにも降ろしたくない」

「えー、そんな子どもみたいなこと言わないでくださいよ」

「……うるさい」


 拗ねたように殿下は言う。

 どうすんのよ、この状況……。

 と思っていたら、私を呼ぶ声がした。


「ミルベラ!!」

「お姉様っ!!」


 殿下の胸をぐいっと押して、無理矢理降りる。

 けれど、殿下は私を後ろから抱きしめて、お姉様の元へと行かせないようにしてくる。


「行かせてください。お姉様が待ってるんです!」

「俺と姉、どっちを取る気だ?」

「お姉様に決まってるじゃないですか」


 そう言った瞬間、殿下が傷付いた顔をした。


「そうか、そうだよな……」


 弛んだ腕と力ない言葉。

 私は悪いことなんか何もしてないはずなのに、どうしてかお姉様の方へと行くことができない。


「今日はじめてきちんと話した相手と家族を比べられたら、家族を選びますよ……」

「わかってるよ」


 じゃあ、何でそんな目で私を見るの?

 悲しみを耐えるみたいに笑うの?

 そういうの、困るよ……。


 どうしたらいいのか分からなくて、でも殿下を選ぶことはできなくて、呆然と立ち尽くしてしまう。

 すると、そこへコツコツとヒールを鳴らしながら、お姉様がやって来た。


「ベラ、よくやったわ!! これで、我が家に逆らえるものはいなくてよ。おーほほほほほ……」

「お姉様、おほほ笑いじゃなくて、あーはははにしてください!!」


 いつもの癖で思わず言えば、お姉様はふふんと笑う。


「ベラ、暗い顔はお止めなさい。女性は笑っている時が一番美しくてよ?」

「お姉様……」

「まぁ、私レベルにもなれば、どのような表情でも美しいけれどね」


 お、お姉様……。

 今日も安定して、感動が台無しだよ。


「アリウム殿下、お久しゅうございます。ミルベラの姉、エリーカ・ラットゥースでございます」

「あぁ。あなたの噂は色々と聞いているよ」

「さようでございますか。私ほど美しければ、噂にならないほうがどうかしてますものね」


 おぉ……、さすが安定のお姉様クオリティー。

 殿下から出てる重たい空気、ガン無視である。


「さて、殿下。私、殿下に申し上げたいことがございますの。よろしいかしら?」

「何かな?」


 突如、そう切り出したお姉様に、殿下はにっこりと私の苦手な笑みを浮かべる。

 けれど、当然お姉様はそれを気にすることなく、口を開いた。


「いくら殿下といえど、ベラにあのような顔をさせるのは、私が許しませんわよ」


 (まなじり)をあげ、お姉様は口元を扇子で隠す。

 一瞬、唖然としてしまったが、公衆の面前でこれはまずい……。


「お、お姉様?」

「ベラは黙ってなさい。私は殿下と話してるのよ」

「でも──」

「ミルベラ、問題ないよ」

「殿下っ!?」


 あぁ、これではお姉様がどんなに失礼なことをしようと、もう止められない。

 お姉様が罪に問われたら、どうしよう……。


「殿下、ベラには私のような華やかさもなければ、引っ込み思案なくせに個性的という、我が妹ながら変な子ですわ。けれど、誰よりも優しい子ですの。ベラを笑顔にできないのでしたら、この子のことは諦めてくださいまし」


 まさかの発言にお姉様を凝視する。

 ついさっきまで、何が何でも私に殿下の婚約者になるように言ってたのに、どうして?


「私、ベラには世界で二番目に幸せになってほしいと思ってますの」

「一番ではないのかな?」

「もちろんですわ! 一番幸せになるのは、私でしてよ」


 堂々と言い切ったお姉様に、殿下はものすごく変な顔をした。

 うん、わかるよ。

 何言ってんの? って、なるよね。

 ついさっきまで、いい話をしていると余計にさ……。

 

今作で一番書きやすいのは、お姉様です。

「私が一番」という気持ちがぶれないので、驚くほどに書きやすい(笑)

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