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一家全員、死刑確定!? 悪役令嬢の妹のはずでした  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売


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5/11

悪役令嬢になりたくないのに、殿下の婚約者になりそうです⑤


「ま、待ってください!! 私は本当に何も……」

 

 マーレット子爵令嬢が必死な声で言いながら、殿下へと手を伸ばす。

 けれど、その手を殿下はするりと避けた。

 

「ミルベラ嬢が慈悲をかけてくれたのだから、大人しくしていなよ。それとも、罪に問われたい?」


 スッと細められた瞳に、お姉様によって培われた私の中の危険センサーが反応した。


「──で、殿下!! 殿下のお手を煩わせるなんてとんでもない!! すぐにでもここを立ち去りましょう。ね? それがいいですよ!」


 もー、嫌だ! ヒロインが現れる前の殿下ってこんな感じだったの?

 それとも、ヒロインの前でだけ優しくて、これが本性ってこと?

 どちらにせよ、大ごとにはしないで! 平和が一番なんだから!


「……ミルベラ嬢は、馬鹿なのかな?」

「へ?」

「これを野放しにするんだよ? 今は自国のことだからまだ良いけど、相手が他国の者だったらどうするつもり? 場合によっては、国交問題になるよね」

「それは、そうですけど……。でも、子爵家なら他国と接する機会はそんなに多くないでしょうし」


 いくらファルコスタ王国が他国との交易で栄えていたとしても、そう簡単に問題なんて──。


「たしかにマーレット家の事業は交易ではない。けれど、彼女が公爵令嬢(あなた)に取った態度を許されることが問題なんだよ。あなたが許したことで、公爵家相手にそのような態度を取っても良いのだと、彼女は誤学習し、それを見て勘違いする者は必ず現れる」

「いくらなんでも、そんなことは……」

「ないって、本当に自信を持って言える?」


 そ、それは無理かも。


「すぐに答えられないということは、それが答えなんだよ。内々で片付くうちはどうにかなるけど、それが他国相手なら、どうなると思う?」

「……関係性の悪化でしょうか。国の信頼にも関わるかと。……自国の要望が通りづらく、相手の要求を、のまなければならなくなることも多くなるような気がします」


 あまりこの手の難しい話は得意じゃないんだよなぁ。

 というか、何で私がお説教されてるの?


「他にもあるが、そういうことだね。立場を理解できないものは、国にとって不利益なんだよ」

「あー、なるほど。たしかにそれは、そうですよね」

「……理解が早いなぁ。もう少し何か言うと思っていたんだけど」

「言いませんよ。私としては穏便に済ませたいというだけですから」


 そう話せば、殿下は不思議なものを見るような目を私に向ける。


「本当にエリーカ嬢の妹君なんだよね? 見た目はともかく、性格は真逆だ」


 見た目はともかくって、今日の私はお姉様と真逆のスタイルなんですけど……。

 まぁ、瞳の色も髪の色も同じだから、言いたいことはわかるけどさ。


「姉妹だからって、何もかも同じわけではありませんから」

「たしかに、そうだよね。じゃ、さくっとマーレット子爵家を罰しようか」


 …………え? マーレット子爵家を罰する?


「何でですか!?」


 令嬢を罰するなら分かる。でも、何で家まで……って、そう言えばさっきも家ごと罰したがってたよね。


「そこまでの罰を与える必要はないですよね。私を理由に使わないでいただけますか?」

「……王族である俺に歯向かうの?」

「歯向かっているのではございません。意見を述べているのです」


 そう答えると、殿下はとても楽しそうな笑みを浮かべた。


「なら、その意見を聞く代わりに、俺のお願いを聞いてもらおうかな」

「え? それはちょっと……」

「では、マーレット子爵家は処分ということで」

「しょ、処分? 処罰の間違いですよね?」

「処分だ」

 

 それはいくらなんでも……。

 そう思ってマーレット子爵令嬢をチラリと見れば、何故か私が睨まれている。


「たしかマーレット子爵家には、まだ幼い子どももいるんだったかな……」 

 

 こ、この人でなし!!

 

「分かりました。私のできる範囲でしたら、殿下のお願いをお聞きします」

「大丈夫、ミルベラ嬢にしかできないことだよ」


 にっこりと殿下は笑うけれど、何か企んでいるようにしか見えない。

 何で一番関わりたくない人と、こんなことになったの……。

 なんて思っていたら、殿下はパンッと手を一叩きする。

 すると、近衛の騎士がマーレット子爵令嬢を捕らえた。


「な、何するのよ!! 殿下! 殿下、助けてください……」

「どういうことですか!?」


 私とマーレット子爵令嬢の声が殿下へと向かう。

 けれど、殿下は変わらず笑みを浮かべている。


「大丈夫。約束は守ってるから。ミルベラ嬢に対して行った罪だけを問うことにしたんだよ」

「今回は不問にするのではなかったのですか?」

「そんなこと最初から言ってない。未来の王妃への不敬罪を許すわけにはいかないだろう?」


 たしかに、行く行く王妃になるような方への不敬罪は許されないかぁ……。…………え!? 未来の王妃!?

 それって、まさか私? いやいや、そんな馬鹿な。

 マーレット子爵令嬢が他でもやらかしてるなんてこと……。


「この女が王妃なんておかしいです。殿下、目を覚ましてください!!」

「さっさと連れてけ」


 殿下、殿下と叫ぶマーレット子爵令嬢は近衛に連れて行かれ、もう何が何だか分からなくなってきた。

 でも、絶対に確認しなくてはならないことが一つ。


「マーレット子爵令嬢は、私以外にもあのような態度だったのでしょうか?」


 私じゃないよね?

 私と結婚したいと思う要素なんて、何一つなかったもんね?

 大丈夫だよね!? ……って、あれ? お姉様にも失礼なことを言ってたし、もし話を最初から聞いていたとしたら、未来の王妃はお姉様ってこと?


 ダメダメダメ!! お姉様だけはダメだって!!

 悪役令嬢になっちゃうから!!


「お姉様はダメですからね!! 殿下に、お姉様はあげませんからっ!!!!」

「…………は?」


 あ、あれ? なんか、私、変なこと言った?

 

「どうしてエリーカ嬢が出てくるのかな?」

「マーレット子爵令嬢がお姉様の悪口を言ったからです」

「あぁ、あれか。ミルベラ嬢がフォローしているようで、まったくエリーカ嬢を褒めていなかったやつだね」


 そんなことないと思うけど……。

 ん? たしかに思い返してみると、優しいところもあるくらいしか言ってない?


「ということは、私も処罰ですか」

「何故、そうなる。未来の妻を処罰するわけないだろう」

「…………え?」


 未来の……妻?


「あぁ、ミルベラ・ラットゥース。あなたと婚約することにしようと思う。約束通り、俺のお願い聞いてくれるよね?」


 有無を言わせない笑顔の圧に、目を逸らすという抵抗しかできなかった。 

 

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