遅い初恋は身を焦がすのか…… 〜アリウムside〜
アリウム殿下sideになります。
ヤンデレが苦手な方はご注意ください。
エリーカ嬢の言葉もあって、エスコートを受け入れられたことに内心安堵する。
ミルベラに対しては、今まで通じていたことがことごとく通じない。
俺が微笑めば、多くの令嬢は好感情を持ったし、王族という身分に圧倒されこそすれ、惹かれない者はいなかった。
こんなにも思うようにいかないのに、何故かそれが嬉しい。
さっきもそうだ。
本当は早く休ませたいのに「お願いします」と真っすぐ見つめられ、息が止まるかと思った。
心臓は暴れ出し、どんな顔をすればいいのか分からなくなり、ミルベラの目を塞いだ。
そうすれば、驚いたかのように瞬きをしたミルベラの長いまつげが手のひらにあたり、動揺した。
大切にしたい。
すべてのものから守りたい。
俺を好きになってほしい。
俺だけを見てほしい。
俺だけを頼ってくれたらいいのに……。
誰にも見られないよう、閉じ込めてしまいたい。
今までになかった感情が胸の中をぐるぐると回り、知らなかった自身の狂気に心が追い付かない。
どうしてだ?
ついさっきまで話したこともなかった相手だぞ。
落ち着け、その感情は異常だ。
押さえつけ、なかったものにしようとしても、溢れたものは元に戻らない。
婚約者候補の中でミルベラは有力候補の一人であった。
ラットゥース公爵家の令嬢で、天才少女として名高いミルベラは、宰相である父親の手伝いをよくしている。城内でもたまに見かけ、穏やかな笑みを浮かべているのが印象的な令嬢だった。
そんな彼女は、国の重鎮たちからも非常に可愛がられており、誰の息子に嫁ぐか水面下で奪い合われてきた。
けれど、社交界に出てきたのはデビュタントの一度のみ。
きっと社交は苦手なのだろうと思い、有力候補と云えど、王妃の器ではないと俺は思っていた。
実際、あまり得意ではないのだろう。多くの視線にさらされ、おろおろとしている。
王族として……、いや高位貴族としても控えめ過ぎる。
皆が集まっていく様子を、品定めのためにこっそり見ていた俺は、ミルベラを婚約者候補から外した。
そんなミルベラがマーレット子爵令嬢を連れて、会場を出ていく姿を追ったのは、好奇心と弱みを握るため。
ミルベラは宰相に大事にされているから、何かあれば今後、宰相と交渉する時に役に立つ。そう思った。
だけど、ついて行ったらどうだ?
ギャンギャンと噛みつくマーレット子爵令嬢を窘めようとし、それが無理だとわかると、自身と距離を置くために仕方がないと言わんばかりに、驚くほど優しい脅しをかけた。
それも、相手の想像力を使い、決して自身が悪くなることのないように。
身分を盾に黙らすこともできたのに、彼女はそれを選ばなかった。
控えめだが賢い方が、身分を笠に着る妻より良いのではないか……。
そう考えなおし、ミルベラを婚約者として再度評価しなおそうとしたところで、突如ミルベラは冷静さをなくした。
理由は、姉を悪く言われたこと。
自身も悪く言われているのに、そのことは気にもせず、エリーカ嬢についてフォローにならないフォローを懸命にし始めたのだ。
その姿に馬鹿だな……と思った。
けれど、同時にエリーカ嬢がうらやましかった。
こんなにも無条件で愛されるのだと、存在を許されるのだと、庇っているミルベラが眩しく思えた。
俺もあの無償の愛情が欲しい。
どうしたら、手に入る?
そこからは、婚約者をどう選ぶかではなく、どうやったらミルベラを俺だけのものにできるのかという思考に切り替わった。
まぁ、出会いは失敗してしまったけれど。
だって、ミルベラが面白過ぎたんだ。
髪を引っ張られたから止めに入ろうと思ったら「抜ける! 掴まれたとこ根こそぎ抜けるからやめてっ!」って言うなんて誰が思う?
助けなきゃと思うのに、ちょっとずれたところが可愛くて、笑いが止まらなかった。
そこから、マーレット子爵家を使ってミルベラを試したが、彼女の答えは俺が望んだものだった。
権力を使って罪を問うことは簡単だ。けれど、それをしていけば誰も身分が上の者に意見が言えなくなる。
礼節を守れないことや身分を理解できないのは論外だが、力を振りかざしてはならない。
社交が苦手ならば、俺がフォローすればいい。
いや、俺の隣に立っているだけでもいい。
ミルベラだって、俺の婚約者を選ぶためのパーティーに来たのだ。選ばれれば、当然喜ぶだろう。
そう思っていた。
だが、誰もが喜んでくれる笑みを怖いと言われ、命令口調が嫌だと言われ、不思議なほどに脈がない。
それなのに、不思議と嫌な気持ちにも、諦めようという気持ちにもならなかった。
気持ちがすぐに手に入らないのであれば、まずは形だけでいい。
婚約さえしてしまえば、俺のそばにずっといることになる。
重鎮たちの子息──側近候補たちにはやらない。
そんな執着にも似た重たい感情を認めたくなくて、ミルベラが面白いからだと自分の気持ちを誤魔化した。
でも、そんな誤魔化しはすぐに効かなくなった。
真っ直ぐに俺を見たエメラルド色の瞳を見た瞬間、溢れたのだ。
遅い初恋は身を焦がすと言ったのは、誰だったか。
もう手遅れだ。この想いは、自分の意思で手離せるものではない。
まぁ、知る前に戻りたいとも思わないけれど。
「ミルベラ、あまり彼らと仲良くしないでくれ」
「……え?」
「いや、何でもない」
焦るな。
この想いをミルベラにぶつけたところで、怯えられるだけ。
……たぶん、俺は間違っている。
けれど、他の方法が分からない。
人の愛し方なんて、誰も教えてくれなかった。
なら、俺のやり方でミルベラと一緒にいられるようにするだけだ。
外堀を埋め、逃げられなくなったところで、ゆっくりと俺なしでは生きていけなくすればいい。
誰にも邪魔はさせない。
ヤンデレ、楽しんでいただけましたか?
私はものすごく書いてて楽しかったです✧◝(⁰▿⁰)◜✧




