とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~金策編その終~
やっと終わったよ……
お待たせしました、次回からはようやくルドルフ編となります。
…………だがしかし、いくら俺が呼び掛けても、ネズミは一向に現れようとしない。
「さあ、ではまず、賭金を提示してください。勿論、最低賭金は金貨一枚ですよ?」
「あ、いや、そのだな……」
迫ってくるロッホを前に、顔が引きつるのを何とか我慢。
額に嫌な汗が浮かんでくる。
「どうしました、早く出して下さい。そして勝負を始めましょう」
「お、おうそうだな、ちょっと待ってな……」
おいネズミ!覗いてんのは分かってんだぞ!
どっかで聞いてんだろう、とっとと出てこい!!
「おや、あれだけの啖呵を切っておきながら、まさか金貨一枚も用意出来ないなんて言いませんよね?」
…………って、何で出て来ねえんだよおい。
まさかあの野郎一人でトンズラこいたんじゃねえだろうな。
「はははっ、そ、そんな訳ねえだろう……」
おーいネズミさんやー、出てきておくれー!
早くしないと、俺がこの狼さんの餌食になっちゃうぞー、それでもいいのかー?
お願いだから出てきておくれー!
助けておくれー、ネーズーミーさーーん!!
「…………おい、こいつを摘まみ出せ!!」
痺れを切らしたロッホが苛立たしげに指示を出すと、黒服達が再び動き始める。
まずい……。
このまま捕まってしまえば、何も出来ずに店の外へ放り出されてしまう。
……クソったれ、こうなったらイチかバチか力尽くで攫っていくしかねえか!?
こんな事になるなら、デクを連れてこりゃ良かったぜ!!
そう考え、俺が覚悟を決めたその時だった。
「――その勝負、私が引き受けよう!!」
ゆっくりと絨毯を踏みしめ、悠々とした足取りで向かってくる小柄な人物。
その手には、おそらく金貨が詰まっているだろう革袋が握られている。
しかし、何よりも特徴的なのは、その顔をドーベルマンを模した仮面で隠している事だ。
もしもこの場に、王国の流行りについて少しでも明るい者がいれば、その正体を一目で言い当てられただろう。
『黒い牙』
今、王国で一番有名な謎の人物が、そこに立っていたのである。
……って、どう見ても、あの背格好はネズミだよな?
何してんだお前?
と、そんな事を考えていると、仮面の奥の瞳と目が合った。
「話は聞かせてもらった。しかし見れば貴殿には先立つものが無い様子、よって私が助太刀致そうぞ」
……あん?
なんで、お前そんな喋り方してんだよ、もっと普通に喋れよ。
「良いな!?」
語気を荒げ、俺を睨みつけてくる仮面の男。
何だか良く分からんが、どうやら話を合わせろという事らしい。
「……お、おう、分かったよ」
俺が答えると、仮面の男は芝居がかった仕草でロッホに向き直る。
「ロッホとやらも、問題はないな?」
「誰かは知りませんが、賭金さえ用意できるのなら良いでしょう。ルールの説明は?」
「いらん、先程行われていたゲームと同じであろう?」
「では、賭金を出して下さい」
そうして仮面の男は『奈落の穴』に挑むために、テーブルへと着いたのだった。
しかし……
テーブルの上に金貨一〇枚を置くや否や、仮面の男は席から立ち上がりロッホに近付いていく。
そして、そのまま奴の耳元で何やら呟くと、ゲームを始めもせずに席を離れ始めるではないか。
「では、貰っていくぞ」
ロッホは驚愕の表情でそれを見送る。
黒服達も急な展開についていけない様子だったが、仮面の男がフローレンスの身柄を引き渡すように迫ると、すごすごと応じていった。
何だかよく分からないが、どうやら仮面の男は何もしないまま勝負に勝ってしまったらしい。
仮面の男は適当なテーブルからテーブルクロスを引き抜くと、フローレンスの肌を隠すように優しく羽織らせる。
そして恭しくその手を取り、店の出口へとエスコートしていった。
思っていたのと違う展開にしばし呆然とし、我に返って慌てて俺も店の外へ駆け出す。
賭博場を出ると、早々に裏路地へ消えようとする仮面の男達の姿が目に入ったので、その姿を追って路地へと入り込み、いくつかの角を曲がってようやく二人に追い付く事が出来た。
仮面の男は俺の顔を見るなり、ずいと詰め寄り、捲し立てるように責めてくる。
「何考えてんッスか!?目立たないように稼ぐって言ってたッスよね?それなのに『稼いだ金を持ってきな!』って何なんッスか?馬鹿なんッスかアニキ?馬鹿なんッスよね!?」
「……んだよ、ちゃんと喋れるんじゃねえか。あんな気持ち悪い喋り方しやがって、一瞬誰だか分かんなかったじゃねえかよ」
ドーベルマンの仮面の鼻先が眼前に迫ってきたので、そいつをひょいと取り上げると、その下から見知った顔が現れる。
……良かった、いつもの醜悪な面だ。
「誰のせいだと思っているんッスか、誰の!たまたま仮面を持っていたから良かったものの、アニキはあそこであっしの顔を連中に売り付ける気だったんッスか、ねえ!?」
……ってかこの仮面、モロー伯爵のパーティーん時のヤツだろう?
なんでてめえが持ってやがんだよ。
つーか、こんなもん持って賭博場に来てるあたり、何かあったら俺の所為にする気満々だったんじゃねえか。
「聞・い・て・る・ん・ッスか!?あっしらが今どういう状況にあるか分かってるんッスか!?それなのに稼いだ金を放り投げて、見るからに厄介事を抱え込むなんて、何がしたいんッスか!?馬鹿なんッスかアニキ?やっぱり馬鹿なんッスよね!?」
「だぁぁもうギャーギャーうるせえなぁ。分かったよ、謝りゃ良いんだろ謝りゃ。悪かったよ、すまん……これで良いか?」
「良い訳ないでしょう!!毎回、毎回、毎回、毎回、どうしてそう余計な事に首を突っ込もうとするんッスか。学習しないんッスか?」
「やっちまったんだから、しょうがねえだろう。いつまでも過ぎた事をグチグチ言ってんじゃねえよ、ったく。それに、そこの箱入り娘をあのまま放っておく訳にもいかなかっただろうがよ?」
「箱入り……ですの?」
急な展開に目を白黒させていたフローレンスだったが、『箱入り娘』が自分を指している事に気が付き、首を傾げてきょとんとしている。
いつまでもネズミに小言を言われるのも鬱陶しいし、丁度良いので、俺はフローレンスに声をかける事にした。
「おっと、さっきは悪かったな。こっちにも事情があって、あんな態度を取ってたんだ」
「…………」
すると、フローレンスは俺とネズミの顔を交互に見比べ、それからジッとこちらを見つめてくる。
探るような、見透かしてくるような視線。
やがて結論が出たようで、フローレンスはおずおずと口を開く。
「あの……もしかしなくても、私を助けて下さいましたの?」
「まあ、そうだな」
「ひょっとして、悪い人ではない……ですの?」
賭博場での俺の態度を思い出して、訝しんでいるのだろう。
あの時の俺は、調子に乗ったバカそのものだったから、警戒するのもしょうがないが、何だかんだとフローレンスを助けようと声を上げたのも俺だし、実際に賭博場から助け出したネズミと親しくている事からも、どうやらそれらが誤解であったと思い直しているようだ。
……というか、思い直して貰わないと今後がやりにくくてしょうがないから、そうであって欲しい。
フローレンスの心の内を探り兼ねて頬を掻く。
すると、俺の視線に気が付いたのか、フローレンスは羽織ったテーブルクロスを閉じて、身体を隠すように身をよじった。
……残念ながら、やっぱりまだ警戒されているらしい。
「ちょっと、そんな事よりも早くこの街から逃げるッスよ!」
「おっと、そうだったな」
ネズミの声で我に返り、俺は現状を思い出して思考を巡らしていく。
「えっ、どうしましたの?」
「ちいとばかし事情があってな、なるべく早く王国から遠ざかりてえんだわ。それに賭博場の奴らが追いかけてくるかもしれねえだろ?」
「そうでしたの……」
「宿屋に一人置いてきてるから、そいつと合流したら、取り敢えずこの街を出ようじゃねえか」
何にしても、この街から出るのが先決だ。
賭博場であれだけの事をしておいて、この街でゆっくりできる訳も無いし、ただでさえファーゼストの追手がいつやってくるとも限らない。
俺達は急いで宿に戻ってデクと合流し、早々にこの街を後にしたのだった。
幸いにも賭博場『丸裸』の連中は動き出しておらず、何事もなく街を出られたのだが、一番の目的であった路銀を稼げず、先行きも不安なため俺達の足取りは重い。
「あの、この後はどこへ行かれるおつもりですの?」
そんな空気を察したのか、フローレンスがこちらを窺ってくる。
……ちなみに、宿に戻った時に着替えているため、もうバニーちゃんではない。
「別段行き先が決まっている訳じゃねえからな、当面はあんたを家まで送り届けるって事ぐらいだ」
「私の家……ですの?」
「ああ、あんた一人じゃ誰かの口車に乗せられて、また攫われそうだかんな。ほれ、何処から来たのか言ってみな、ちゃんと送り届けてやるから」
すると、フローレンスの表情が翳り、何かを躊躇うように言い淀んだ。
エルフの巫女さんがこんな所に一人でいるんだから、余程の事があったんだろう。
何があったのか知らねえが、どちらにせよこのまま一人にしておくという選択肢は無い。
乗り掛かった舟だと自分に言い聞かせ、最後まで付き合ってやるかと意思を固める。
「…………共魔の森、ですの」
しばらくして、フローレンスはぽつりと呟いた。
「……あーその、なんだ。何か帰れない事情でもあんのか?」
「いえ、違いますの。その、黙って飛び出してきたので……」
「そうか、それにしても共魔の森か……」
共魔の森と言えば、神聖国家ラヴァールを象徴する重要な土地の一つだ。
そこの巫女を務めているのであれば、フローレンスがあれだけ世間知らずなのも納得ができる。
貴族のお嬢様か、下手すると小国のお姫様みたいなものなのだから。
それに、その場所は一部の人間以外には秘匿されているため、隠れるには持って来いの場所でもある。
……そう考えると、フローレンスは思った以上の拾い物かもしれない。
フローレンスを無事に送り届ければその謝礼が期待できるし、もしかしたら、しばらくそこで匿ってもらえる可能性だってある。
なんか、俺の記憶に引っかかる部分もあるのだが、フローレンスを送り届けるためには共魔の森に行かなければならないのだから、そこから先の事は着いてから考えればいいか。
そう考え、俺達はフローレンスの家がある共魔の森へ向かって歩き始めた。
「そういえばよ、あの時ロッホに何を言ったんだ?」
道中、ふと賭博場『丸裸』でのやりとりを思い出し、俺はネズミに問いかけた。
「何って、イカサマを突き付けてやっただけッスよ?」
賭金が金貨一〇枚なら勝った時の配当は金貨二〇枚。
そのゲームでイカサマを暴いたのだから、ロッホの違反金はその一〇倍で金貨二〇〇枚となる。
成程、フローレンスの購入金額とちょうどぴったりの金額だ。
「……やっぱりあの野郎イカサマしてやがったのか。で、どんなイカサマしていやがったんだ?」
「アニキ、このあっしにタダで情報を寄こせって言うんッスか?」
「ちなみにいくらだ?」
「金貨二〇〇枚で良いッスよ」
「ちっ、全く教える気がねえじゃねえか」
「そういう事ッス」
「ったく面倒臭え野郎だな、だいたいなんでフローレンスと同じ金額なんだよ?」
「フローレンスを購入したその方法だからッスかね?」
「んだよそりゃ……」
結局自分で考えるしかないという事か。
「…………」
……ってあれ?ちょっと待てよ。
そういえばフローレンスの購入条件は『奈落の穴』で金貨二〇〇枚分以上勝つ事じゃなかったか?
賭金が金貨一〇枚で違反金が金貨二〇〇枚だから、差し引き一九〇枚しか勝ってなくねえか?
「ありゃ、アニキ気付いちゃったッスか」
そう言ってネズミは悪戯がバレた子供のように舌を見せる。
「ネズミてめえ……」
「いいんッスよ、イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんッスから」
そう言ってネズミはくすりと笑い、茶目っ気たっぷりに片目を閉じてみせる。
「……がはははは!そりゃそうだ、違ぇねえや!がはははははははは!!」
隣を歩く相棒の頼もしさに思わず笑い声を上げ、俺はそのひょろっこい肩をバシバシと叩いたのだった。
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