とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~修行編その終~
めり~くりすま~す♪
『風よ――愛し――災厄から――――護りたまえ』
不意に、耳慣れない詩が聞えてくる。
独特なリズムと旋律によって紡がれるそれは、まるで世界を構成する存在そのものに語りかけるかのような、不思議な響きを奏でていた。
精霊語……だと?
所々聞き取れなかったが、今のは間違いなく精霊魔術を行使するための呪文の詠唱。
だとしたら……
俺の予想は違わず、世界が詩に呼応して、一陣の風が走り抜ける。
それは俺の身体を通り越して空へと舞い上がり、重力に捕えられていた聖女の身体をふわりと受け止めて、徐々に高度を落としていった。
白いローブをはためかせながら、大地へとゆるやかにエスコートされる聖女様。
……どうやら俺と聖女様は、間一髪のところで危機を逃れる事が出来たようだ。
やや遅れて、全身から冷や汗がどっと流れ出てくる。
「すっっっっご~~~~い!!なになに、デクちゃんあんな事出来るの!?すごいすご~い!!ねっねっ、もう一回!もう一回『ずぅぅぅん!』ってやって!!」
だってのに……当の聖女様は目をキラッキラさせながら、デクにもう一度同じ事をさせようとしていやがった。
……いや、やらねえよ!絶対にやらねえからな!?
おい、デクも相手にしなくていいから、絶対にやるんじゃねえぞ!!
俺は腕をバッテンにして再度『高い高い』をしないようにデクに合図を送る。
すると、聖女様は不満げに頬を膨らませてこちらを見てくる。
……そんな顔してもダメです!あんな危ない真似は、もう二度と絶対にやりません!!
俺は断固とした態度で、聖女様の要求を却下した。
そんな中、ふと、聖女様の視線が俺の背後に移る。
続いて、何者かがこちらに向かってくる足音。
そこでようやく俺は、先程、精霊魔術を放った人物の事を思い出した。
「全く、ちょっと目を離すとこれですよ。……はぁ」
疲れたような溜息。
しかし、艶のあるその声には、どこか色気のようなものを感じさせる。
振り返るとそこには、まるで美術品がそのまま息をしているかのような、均整の取れた一人の男が立っていた。
長い金糸の髪をなびかせ、冷たい瞳に呆れと疲れを滲ませながら眉間を押さえる絶世の美男子。
あれは確か――
「あっ、クロウ先生!」
そうそう、聖女様の恩師で、教会の実質的なトップの一人でもあるクロウ卿だ。
『赤獣人』と一緒にファーゼストに滞在しているので、何度か遠目で見た事があり、その上、頭にクソが付くほどのイケメンなので、無駄にその印象を覚えている人物である。
聖女様は喜びをあらわに駆け出すと、速度を維持したままクロウ卿の胸に全力で飛び付いた。
「ちょっと、アメリア!!」
聖女様を受け止め、一回転、二回転とその勢いを受け流すクロウ卿。
美女と美男が繰り広げるその光景は、まるで演劇か何かと錯覚するほどで、とても絵になるワンシーンとなっていた。
実際は百歳超えのおじいちゃんと、その孫みたいなもののはずなんだが、二人とも二〇歳前後の外見をしているせいで、恋人同士のやり取りにしか見えない。
「先生、もう一回さっきのやってもらっていいですか?キラキラの風さんがぶわぁぁぁってなって、ふわぁぁぁってなるヤツを!!」
……やっぱり、聖女様の言動がちょっとアレだから、恋人同士には見えねえな、うん。
「精霊魔術をそんな事に使わせないで下さい!!だいたい、何であんな高所から落下するような事になっているのですか。私が居なかったらどうなっていたか、分かっていますか!?」
まるで危機感の無い聖女様に、クロウ卿は感情を爆発させながら説教をし始めた。
……当然である。
「あっ、えっ……だ、だってデクちゃんの本気が見たかったし、それに嫌な感じもしなかったから大丈夫かなって?」
「ええ、そうでしょうとも。貴女には神の御加護があるから大丈夫でしょうね?実際、私が居合わせたから、大事には至りませんでした」
「……ああっ!それで嫌な予感がしなかったのね!」
何が腑に落ちたのか知らないが、聖女様はあっけらかんと言い放った。
クロウ卿の眉がピクリと動く。
「で・す・が!そのせいで周りの人間がどれだけ迷惑を被るのか理解しているのですか!?さっきだって、そこの彼がどれだけ肝を潰した事でしょうか」
「えっ、あっ、うっ、そうなの?」
目を泳がせながら問いかけてくる聖女様。
……おい、そこで俺に振るな。
「そ・う・な・ん・で・す!!だいたいですね、アメリアは昔から後先考えずに行動するから、そのしわ寄せがこっちにやってくるんですよ!?そのくせ、結果ばかりは最良の物を引き寄せるんですから、私達がどれだけ――」
……どうやら、変なスイッチが入っちまったようである。
クロウ卿は聖女様の肩をガッチリと掴むと、昔の出来事をほじくり返しながら、延々とお説教し始めたのだった。
するとまあ、聖女様の武勇伝が出るわ出るわ。
とにかく、クロウ卿が聖女様の事を幼い頃から知っているもんだから、その口から語られる話は尽きる事がない。
大神殿を抜け出したら誘拐されかかり、皆が駆け付けたら犯人を諭して改心させていただとか、高位魔獣を退治しようと討伐隊に同行したら、いつの間にか居なくなって一人で魔獣を手懐けていただとか、それらは『聖女』の名前にそぐわぬ逸話ばかり。
その裏で、どれだけ周囲の人間が苦労したかという話がなければ、俺も素直に感心していたかもしれない。
そして極めつけは、勝手に結婚相手を見つけてきた話である。
一般的には、熱愛の果てに万民の祝福を受けて夫婦となったと言われている先代ファーゼスト辺境伯夫妻だが、クロウ卿の語る話からは、それはもうとんでもない騒動だった事が窺える。
……まあ、考えてみれば当たり前か。
当時『コロリ』によって崩壊寸前のラヴァールにとって、教会とはまさに人民の心の支えそのもの。
そんな中『聖女』という信仰の象徴が他国へ嫁ぐなんていう話が持ち上がれば、どんだけ大事になるかなんて、子供だって分かる。
しかもクロウ卿が言うには、丁度その頃、教会はそれとは別の縁談を水面下で進めていたようで、聖女様が勝手に持ち込んだ結婚の話は、まさに青天の霹靂だったそうだ。
当然、上を下への大騒ぎとなり、『コロリ』によって混乱の渦中にあったラヴァールは混沌を極めたらしい。
しかし、本人がその気である事、結婚相手が高名なファーゼスト辺境伯である事、ファーゼスト辺境伯が『コロリ』を沈静化させてラヴァールを救った英雄である事、その事が人々の間に浸透しており世論が納得していた事、ラヴァールに政治的な利益があった事、そして何より、既に聖女様が身籠ってしまっていた事など、様々な要因が重なった結果、二人の婚姻は無事に認められ、『コロリ』終息と共にラヴァールを取り巻く一連の騒動は収まりを見せたのだという。
「あわわわわわわ。あ、あんなのもう、何十年も昔の事じゃないですか……」
……聞いている分には面白いエピソードばかりなんだが、当事者からすればたまったもんじゃねえな。
正直、後始末に追われたクロウ卿には、同情の念を感じざるを得ない。
おまけにクロウ卿の語る話には一切誇張が無いようで、泡を食ったように慌てふためく聖女様の姿が、これらが全て真実だと証明している。
「ほほう?…………そうですか、関係各所に頭を下げて回り、荒れ狂う枢機卿を何とか宥め、『赤獣人』の指揮運用から、評議会との折衝、災害からの復興支援までもを手掛けなばならなかったあの結婚騒動は、もう何十年も昔の事なんですね」
そう言って、懐かしそうに目を細め、口を笑みの形に歪めるクロウ卿。
しかし、その顔は寒気がするほど、のっぺりと平坦で全く笑っているようには見えなかった。
「え……あの、クロウ先生?」
にこやかな笑顔で怒りを顕わにするという器用な真似を行うクロウ卿に、さすがの聖女様もマズイと思ったらしく、その顔には緊張のようの物が見られた。
冷や汗を流し、顔を引き攣らせながらクロウ卿の顔色を窺う聖女様。
対するクロウ卿は、何も言わずにニコニコと笑みを浮かべるばかり。
「……ていっ!」
そんな空気に耐えられなくなったのか、聖女様はいきなりぐるんと身体を捻ると、クロウ卿の手を振り払ってその場から逃亡を試みた。
しかし、クロウ卿はその一枚上をいく。
まるでそんな行動などお見通しだとばかりに、肩から振り払われた手をそのまま下にスライドし、まだその場に残っていた聖女様の手を掴んで逃亡を阻止したのである。
恐らく、このようなやり取りは今まで何度となく繰り返してきたのであろう。
その後もクロウ卿は、聖女様の手をホールドして逃げられないようにすると、にこやかな笑みを一層深めたのであった。
さすがは聖女様の教育係というべき手腕。
……なんと言うか、クロウ卿の今まで重ねた苦労の一端が垣間見えるようである。
「あっと、え~っと……そそそ、そうだ!そういえば、どうして先生はこんな所にいるんですか?」
それでも諦めがつかないらしく、露骨に話題を逸らしてお説教を終わらせようと試みる聖女様。
……全く、往生際が悪いにもほどがある。
大人しくクロウ卿の説教を聞いていればいいものを、そんな態度だと余計に心証が悪くなるってのが分からねえのだろうか?
「…………そうでした」
しかし、意外にもクロウ卿は今までの怒りをスッと引っ込め、こほんと咳払いを一つ置いてから、真面目な顔を聖女に向けたのだった。
「アメリア、貴女を迎えにきました。皆が待っていますので、私と一緒に来て下さい」
そう言ってクロウ卿は、聖女様を掴む手に僅かに力を込める。
そういえば『赤獣人』は、ずいぶんと長い間ファーゼストに滞在していると聞いている。
それは、ファーゼストでも『コロリ』が発症し、その対処に追われていたのが一番の原因なのだが、それが終わったのであれば、いつ次の任地に向かったとしてもおかしくはねえ。
どうやらクロウ卿は、次の仕事に向かうために、遊び回っている聖女様をひっ捕まえに来たようだ。
……って事は、俺が聖女様の面倒を見るのもここまでだな。
ふう~、これでようやくお役御免できるぜ。
「…………ほえ?」
しかし、聖女様は良く分かっていないらしく、口をポカンと開けて俺の方を見てくる。
……こっち見んな。
ファーゼストでのバカンスも終わりって事だよ。
さっさと『赤獣人』と一緒に、聖女様としてのお務めを果たしてきな。
そんな思いを込めながら、俺はクロウ卿にどうぞどうぞと聖女様を差し出した。
すると聖女様は、自身を掴むクロウ卿の手に目をやり、渋々といった感じで顔を上げる。
「……では、行きましょうか」
クロウ卿の言葉に、聖女様は溜息を一つ吐くと、どこか諦めたような表情を浮かべた。
「ああ~、もう仕方ないんだから。……じゃあまたね、デクちゃん。ワンちゃんもるーくんに宜しくね~!」
そう言って聖女様は、こちらに手を振って去っていく。
一瞬クロウ卿が怪訝そうな表情を浮かべるが、それもすぐに収まって聖女様の手を引いて歩いて行った。
楽しそうに並んで歩くクロウ卿と聖女様。
……う~ん、やっぱり絵になるな。
事情を知らない人間が見たら、仲の良い恋人同士にしか見えないんじゃねえか?
もしも、運命を織りなす糸が一つ掛け違っていたら、そんな未来もあったかもしれない。
そう感じさせるほどに二人は仲睦まじく、お互いの事を信頼し合っているように見えた。
やがて二人の姿が小さくなって見えなくなり、ようやく俺は溜まっていた息を吐き出す事が出来た。
「……だぁぁ~、やっと終わったぜ!」
赤く染まり始めた空に向かって、思いっきり伸びをする。
どうなる事かと思った聖女様の護衛だったが、無事に『赤獣人』に引き渡す事が出来た。
デクの『高い高い』だけは一瞬ヒヤッとしたが、クロウ卿の機転によって何とか事なきを得たし、その他、不審人物が現れるといった事もなかったので、今回の任務は、聖女様の遊び相手を務めただけだったと言えるだろう。
……まあ、それはそれで疲れる事ばかりだったが、想像していたような危険な事は何一つ起きなかったので、楽な仕事といえばそうなのかもしれない。
なんにせよ、俺の任務は完了である。
新兵訓練も残り僅か。
その後はどうなるか分からねえが、考えても分からない事なので、そういった難しい事は後回しにすればいい。
そう思い、俺は束の間の休息を取る事にしたのだった。
「――あっ、居た居た!やっと見付けやしたよアニキ、こんな所に居たんスね!?」
そんな時、実に一ヶ月振りの懐かしい声が聞こえてきた。
いつの間にか姿をくらまして、新兵訓練もブッチしやがったネズミ先生のお出ましだ。
……今までどこほっつき歩いていたのか知らねえが、本当に要領の良い奴である。
「まっ、そういうのはあっしの得意分野じゃねぇッスからね。適材適所ッスよ」
「どうでもいいが、さらっと俺の考えを読んでんじゃねえよ!」
「へへへ、あっしとアニキの仲じゃねえッスか。細かい事は言いっこなしッスよ?」
悪びれた様子もなく、にやついた笑みを浮かべるネズミ。
その小憎たらしい口調も妙に懐かしく、俺はネズミの頭を軽く小突く。
「ったく、この一ヶ月間どこに雲隠れしていやがった。その間、俺がどんな目に遭っていたと思ってんだ!?」
「でもそのおかげで、マッチョな身体を手に入れたんでしょ?それに、色んな所に縁が出来たって聞いてやすよ。なんでも、ブラウン子爵の五男とはずいぶん仲が良いそうじゃねえッスか」
「……おう、そうだな」
ちっ、腐っても情報屋か。
俺のここ一ヶ月の間の動向なんて、しっかりと把握済みらしい。
大方、俺らの居ない間に、ファーゼスト領の情報でも集めていたのだろう。
適材適所というネズミの言い分に同意するのは癪だが、こいつが新兵訓練に参加しても、足手纏いにしかならなかったろうから、単独行動していた事は確かに間違っちゃいねえ。
「…………で?」
俺は不機嫌さを隠す事もなく言った。
心が読めるネズミに余分な言葉は不要。
これだけ言えば、ネズミには十分に伝わった事だろう。
ネズミは当初の目的を思い出し、声を落としながら俺の耳元まで近付いてきた。
「そうでやした。……実は、怪しい動きをする連中の姿を見付けたんで、アニキを探してたんッスよ」
怪しい連中だと!?
今、このファーゼストで怪しい動きを見せる連中っていったら、聖女様の襲撃犯しかいねえじゃねえか!?
「へぇ~、あっしの知らない所で、そんな事件が進んでいたんスね」
自身の知らない情報を俺が持っている事が情報屋としてのプライドを刺激したらしく、ネズミはジト目を向けてくる。
「んな事ぁどうでもいいんだよ!で、その怪しい連中ってのは、今どこにいやがるんだ!?」
聖女様は無事に『赤獣人』に引き渡したので、俺の任務は完了しているのだが、それはつい先程の出来事だ。
この先で襲撃犯が手ぐすね引いて待っているのなら、今ならまだ間に合うかもしれねえ。
色々と世話になった聖女様が悪漢に襲われるのは寝覚めが悪いし、それに、『黒麒麟』からの覚えを良くするために、ここで点数を稼いでおくのも悪くない選択だと言える。
「あっちの方にある、魔の森の外縁部ッスね。馬が繋いであったから、逃亡する準備も万端なんじゃねえッスか?」
そう言ってネズミが指を差したのは、丁度クロウ卿と聖女様が去って行った方角だった。
……まずい。
最悪のタイミングじゃねえか。
クロウ卿は、かなりの精霊魔術の使い手のように見えたが、万全の態勢で奇襲を仕掛ける襲撃犯を、問題なく撃退できるかどうかは疑問だ。
俺は急いで対応を考える。
こちらの戦力は、俺とデクとネズミ、それにクロウ卿と聖女様。
……いや、ネズミは屋敷に走らせて、増援を呼んでもらうのが正解だ。
それに、下手にクロウ卿と合流するよりも、フレデリカの時みたいに襲撃犯の背後を突いた方が有効かもしれねえ。
「――――ね?アニキもそう思うッスよね?」
必至で考えを巡らせている所に、ネズミが声をかけてくる。
……くそっ、この忙しい時にゴチャゴチャと言いやがって。
「ったく、何がだよ!!」
俺は声を荒げてネズミに返した。
すると、怒鳴られるとは思っていなかったのか、ネズミは一瞬ビクリと身を震わせ、それからおずおずと口を開く。
「えっ、あ、いや、その……『赤獣人』は午前中に出発したはずなのに、クロウ卿がファーゼストに残っているのは怪しいッスよね?っていう話しだったんスけど…………」
…………ん?
今、何て?
「だから、『赤獣人』は午前中にもう出発してるんスよ……」
赤く染まり始めている空は、どう見ても『午前中』とは言い難く、誰がどう見ても『夕方』と呼ぶに相応しい。
「それなのに、その取り纏めであるクロウ卿がファーゼストに残っていたから、あっしは『これは何かあるな』と思った訳で……」
先程やってきたクロウ卿は、聖女様を『赤獣人』の下に連れて行ったはずなのに、肝心の『赤獣人』が何時間も前にファーゼストを発っていたのであれば、辻褄が合わない……
……いやいやいやいや。
そうだ、何か事情があって、たまたま残っていただけなのかもしれない。
そう、例えばファーゼストから一向に離れようとしない聖女様を、連れ戻しに来たとか。
…………あれ?でもそう考えると、護衛の俺に何の連絡もないってのは、やっぱり変じゃねえのか?
「そしたら、アニキが『聖女様の襲撃犯』とか言い出すでしょ?おまけに、逃亡用の馬まで準備してあるんスから、これはもう決まりッスね」
……えっ、待って、待って、待って、待って、待って、待って、待って、待って。
ちょっと良く分かんなくなってきたんだけど…………つまりどういう事?
「何とぼけた事言ってるッスか?どう考えても、クロウ卿が聖女様の襲撃犯って事じゃねえッスか」
ネズミは、さも当然のようにその事を告げた。
「やっちまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
こりゃ、まずいなんてもんじゃねえぞ!?
どこの世界に、襲撃犯にVIPを引き渡す護衛がいるんだよ!
超弩級の大ポカじゃねえか!!
やべえやべえやべえやべえ、どう考えても死刑か処刑か極刑の未来しか見えねえぞオイ!!
「えっと……アニキ?なんでそんなに慌ててるんスか?」
それはな、俺が襲撃者から聖女様を守る極秘任務を受けていたからだよ、チクショーー!!!!
「あっ……」
ネズミは、ようやく全てを理解したようで、口を半開きにしたまま顔を引き攣らせた。
このまま、おめおめと屋敷に戻ったらどうなるか、子供だって分からあ。
「…………ネズミ、こうなったらやるぞ!!」
元々、死刑の執行猶予があっただけに過ぎないのだ。
猶予が無くなったのだと考えれば、取る事の出来る選択肢は限られている。
俺はデクとネズミに向け、とある覚悟を口にした。
「…………このままトンズラすんぞ!!!」
こうして、『黒麒麟』との楽しい楽しい鬼ごっこが幕を開けたのであった。




