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悪徳領主ルドルフの華麗なる日常  作者: 増田匠見(旧master1415)


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とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~修行編その五~

……ここまで長かった。

 頭を使ったら今度は身体を使う番だ。

 筋トレ、模擬戦、アスレチックなどなど、その日によって行われるトレーニングはまちまちだが、今日行われるのは歩行訓練。


 たかが歩行訓練といって馬鹿にしてはいけない。

 兵隊の仕事はその殆どが歩く事である。

 領内の巡回、任地への移動、護衛、作戦行動、いずれにしても一日に何キロ、何十キロという距離を徒歩で移動する事になる。

 それも、時には重量のある装備を身に付けたままで。


 それらを難なくこなしてこその一人前の兵隊。

 そのための訓練である。


「――鉄鉱石や岩塩などの重量物が多いのですが、大丈夫ですか?」


 だからといって、早朝マラソン以上の荷物を括り付けるのはやめて下さいメイドさん。

 お願いします、これ以上は無理ですから許して、ね?


「馬車が故障してしまったせいでご迷惑をお掛け致します。本来なら私達の仕事なのですが、代わって下さって本当に助かりました。ありがとうございます」


 そう言って、にっこりと微笑むファーゼストのメイドさん。


 ……ちくしょぉぉぉ、こんなんされて断れる男がいるかよクソッたれ!!


「おう、俺達に任せておきな!」


 見送ってくれるメイドさん達に精一杯格好付け、俺達は歩行訓練という名の荷物運びに出掛けるのであった。



 この荷運びの途中、俺はそのあまりの過酷さに、陸上で『水中(ウォーター)呼吸(ブリージング)』の魔術を使うという荒技を編み出した。


 何でそんな事を思いついたのかは謎だが、効果の方は想像以上だった。

 一度唱えてしまえば効果は数時間持続するし、どれだけ呼吸が乱れても、魔術が適切に酸素を取り込んでくれるから、身体を動かす事が非常に楽になったのだ。


 実は肉体的な疲労も『治癒(ヒーリング)』でこっそりと癒していたのだが、途中で魔術の不正使用がバレて、パン料理長という更なる荷物が追加された。


「そんなに元気なら、子供一人分の体重ぐらい軽いもんだろう?」


「……はい、料理長(イエス、シェフ)!」


 ――解せぬ。





 軽めの昼食を挟んだら、次は食休みである。

 兵隊は身体を酷使する事ばかりが仕事ではない。

 適度に休息を挟んで、パフォーマンスを高い水準で維持し続けるのも、重要な仕事の一つである。


 木陰で横になって寝る奴もいれば、談話に興じる奴もいる。

 それぞれが好き勝手できるこの時間に、俺は電気の魔術を練習していた。


 昔習った術式を思い出しながら構築し、そこに魔力を流して魔術を発動させる。


 ――ブワッッ


 腕毛が逆立ち、(ひげ)(かみ)の毛が重力に逆らって、あっちこっちに跳ね上がった。


 ……分かっちゃいたけど、ショボいな。

 出力自体はもう少し上げられそうだが、このままじゃただの静電気だ。

 とてもじゃねえが、相手にダメージを与えるような威力は出せそうにねえ。

 まあ、本命の使い方は別にあるんだから、この程度でも問題はないか。


「お~いカイワレ、ちょっとこっち来てくれねえか?」


 俺はカイワレ大根を呼んで、人体実験――もとい、魔術の実地訓練を行ってみる事にした。


「ん~?何の用だ~?」


「ちょっと試したい事があってよ。今からちょっと触るから、適当に腕を動かしてみてくれねえか?」


「ん~、良いけど何するんだ~?」


「へへへ、まあ、良いから良いから」


 そう言いながら、俺は電気を纏った手でカイワレ大根の分厚い肩の筋肉に触れる。


「うをっ!なんかバチッってしたぞ~?」


 う~ん、やっぱりこうなったか……

 今度は、もうちょっと出力を上げてみるか。


「おおっ?今度はビクンッてした、ビクンッて……ニンジン、お前今度は何をやらかす気だ~?」


「カイワレの自己紹介の時、力が入らなくて腕立て伏せが出来なかっただろ?そいつを再現しようと思ってな」


「ま~た、変な事始めやがって~……料理長に見つかってドヤされても、知らねえぞ~?」


「へへへ、んなもんバレなきゃいいんだよバレなきゃ。それに、悪い事をしている訳じゃねえんだから、何も問題なんざねえさ」


 これも一種の自主訓練ってヤツだからな。

 褒められこそすれ、見咎められる謂れはどこにもねえ。

 ……よし、完璧な理論武装だ。


「――ふむふむ、なかなか面白そうな事をしているじゃないか。魔術の練習か?」


 そんな事を考えていたら、早速パン料理長にバレた。

 だがしかし、既に理論武装を終えている俺は、胸を張って答える事が出来る。


「はい、そうであります料理人(シェフ)


 すると、パン料理長は感心したように頷いた。


「成る程、良い心掛けだな……」


 滅多に聞く事の出来ないお褒めの言葉。

 ……ほらな、別に悪い事をしてるんじゃねえんだから、堂々としていりゃいいんだよ。


 しかし、喜んだのも束の間、パン料理長の言葉には続きがあった。


「……折角だから、その()()()()()を他の連中にも施してやれ」


 ……ん?マッサージ??他の連中???


「全員注目!!これからこのクソッたれニンジンが、お前ら全員のマッサージを引き受けてくれるそうだ。遠慮なんかせずに、ありがたく施してもらうように!!」


 えっ、いや、誰もそんな事言ってねえんだが。


「「「はい、料理長(イエス、シェフ)!」」」


 しかし俺が戸惑っている間に、被験体は約四〇人に膨れ上がってしまった。

 ……どうしてこうなった。


「勿論、やれるよな?」


 そう言って、パン料理長がニッコリと笑う。


はい、料理長(イエス、シェフ)!」


 可愛い兎さんにお願いをされたので、俺は快くその申し出を引き受ける事にしたのだった。



 なお、この電気魔術(マッサージ)は思いの(ほか)好評で、その後も度々せがまれるようになったため、俺の電気魔術(マッサージ)の腕前はメキメキと上達していった。


 ……解せぬ。





 夕方。

 その日の訓練が一通り終わると、夕食までの時間を使って、皆の親交を深めるためのレクリエーションが開催される。


 今日行われるレクリエーションの内容は『ゴブリンと冒険者』といって、平民の子供たちの間で行われるポピュラーな遊びの一つだ。


 遊び方は、まず冒険者チームとゴブリンチームに分かれ、冒険者チームは制限時間内に逃げるゴブリン達を全員捕まえたら勝ち。

 ゴブリンチームは制限時間逃げ切るか、冒険者達を突破して反対側にあるゴールに誰か一人でも辿り着く事ができれば勝ちという、鬼ごっこに少しルールを加えただけの単純なゲームだ。


 このゲーム、やってみると意外と奥が深く、冒険者がゴールを守ればゴブリンは引いて逃げていればいいし、冒険者が積極的に動くようならゴブリンは手薄になったゴールに多数で押し寄せてくるなど、色々な戦略があって、集団戦の経験を積むにはもってこいの遊びだったりする。


 そして今日は、なんと俺達よりも先に訓練を始めている先輩方と対抗戦をする事になった。





 ゴールに一〇人の守りを配置し、残り三〇人で横陣を敷いて包囲殲滅を目論む冒険者チーム。

 それぞれの手には()()()()などの模擬戦用の武具が握られており、完全に()()()満々の様子。


 対する俺達は、四〇人で密度の高い横陣を敷いて堂々と対峙する構え。

 武装は、半分が大盾持ちの防御重視。

 地力の差はあれど、数的有利を生かして粘りを見せる作戦である。


 ……うん、この時点でもう俺の知ってる『ゴブリンと冒険者』とは違うな。

 武器がクリーンヒットしたら退場とか、俺の村では聞いた事のないルールだもんな。

 ファーゼスト領でのローカルルールかな?

 うん、きっとそうだ、そうに違いねえ。


 ちなみに、今回のゴブリンチームを率いるリーダー(貧乏クジ)は俺である。

 何故か満場一致で決定されたので、俺に拒否権はないらしい。

 ……解せぬ。




「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」




 四〇人VS四〇人の、総勢八〇人に及ぶ壮絶な『ゴブリンと冒険者』が始まった。


 あちらこちらで怒号が飛び交い、木と木がぶつかり合う暴力的な音が鳴り響く。


「――ちっ、地力が違いすぎる!ニンジン、次の指示はまだか?このままだと徐々に押し潰されるぞ!?」


「防御だ防御!人数はこっちの方が多いんだから、焦るこたあねえ。中央のポワソン隊はそのまま徐々に後退、オードブル・デザート両隊はそのまま絶対に左右を抜かせるな!!」


 数の有利があるから何とか五分を維持できているが、地力の差はいかんともしがたく、戦況は不利。

 まだ脱落者こそ一人も出していないが、このままだと、冒険者にやられるヤツが出てくるのも時間の問題だろう。


「そのまま真ん中が出張ってきたら囲んで袋にしちまえ!いいか、絶対に一対一で戦おうとすんなよ!!」


 少数の敵を、複数で囲んでボコるのは戦いの基本。

 多少の実力の違いなど数の前には無力に等しく、勝って生き残るためには、セコいとか卑怯とかいう言葉は、負け犬にでも食わせてやればいい。


「――げっ、奴ら誘いに乗ってこないぞ!?それどころか、左右に人員を割り振ってるんじゃないか?おいニンジン、これ大丈夫なんだよな?」


 しかし、そんな事は相手も百も承知である。

 こっちの中央が下がったと見るや、冒険者チームは中央に最低限の(クサビ)を防御態勢で残して、こちらの左右を切り崩し始めた。

 元々地力の差があるのに、局所的に人数差も埋められてしまえば、俺達に勝ち目は無い。


 そうこうしている内に、両翼を担うオードブル隊とデザート隊から、とうとう脱落者が出始めてしまった。


「――虫食いリンゴ、曲がりナス、あと赤ピーマンお前もだ。全員死亡!!」


 パン料理長の判定を聞いて、三人がその場に倒れて動かなくなる。


「ちぃっ!仕方ない、オードブル隊とデザート隊は一旦下がれ、スープ隊とソルベ隊はその援護だ!!」


 完全に後手後手の展開である。

 右翼と左翼を完全に押し込まれてしまい、俺達は為すすべもなく冒険者チームに半包囲を許してしまった。

 実力はあちらが完全に上なので、ここから戦況を巻き返すのはかなり難しいだろう。

 防御重視の装備だからなんとか持ち堪える事ができているが、このまま時間が経過すれば脱落者も増えていき、数の有利が無くなった瞬間に俺達のチームは壊滅してしまう。


「ポワソン隊はそのまま踏ん張れ!スープ隊とソルベ隊は、死者を出さない事を最優先に、徐々に後退!!」


 相手の中央は消極的な姿勢を見せているので、ポワソン隊はなんとかその場を維持する事が出来ていたが、こちらの両翼は壊滅までの時間を先延ばしにする事で精一杯である。


 じわりじわりと、一歩ずつ確実に忍び寄る敗北の瞬間。


 右翼と左翼が徐々に内側に後退する事で、次第に包囲は狭まっていく。

 もしも、この場を空から俯瞰する者がいたら、細長い『Λ』の字が形作られているのが見えた事だろう。


 そして、スープ隊とソルベ隊がこれ以上後退できないギリギリまで下がった事で、とうとうその時がやってきた。










「――行くぞ、メインディッシュの時間だ!!」










 瞬間、デクとカイワレ大根が弾けたように前に飛び出した。

 ポワソン隊の間を駆け抜け、盾を構えて立ち塞がる冒険者へと襲いかかる。


 激突。

 木製の盾がへし折れ、それを構えていた冒険者が宙を舞う。


「「「なっ!!!」」」


 呆気に取られる冒険者達を無視し、デクとカイワレ大根はそのまま真っ直ぐ走り抜けていく。

 俺もその後ろに続いて、冒険者達の包囲を突破する事に成功した。


「総員、攻撃開始!誰一人として、メインディッシュ隊を追わせるな!!」


 後方から、残してきた完熟バナナの声が聞こえてくる。

 後ろの足止めはあいつらに任せ、俺達は勝利をもぎ取るためにゴールへと走るのだった。


 ――作戦はこうだ。


 第一案は、正面からまともに戦って包囲殲滅を目論むというもの。

 ……が、これは相手が誘いに乗ってこなかったので失敗。

 相手も包囲殲滅を狙っているので当然といえば当然の結果である。


 そして、本命の第二案。

 それは、序盤は防御を重視して被害を抑えながらやりすごし、相手の両翼が伸びきったら最大戦力を投じて中央突破、そしてそのままゴールを狙うというものだ。

 相手が包囲を望むのであれば、させてやればいい。

 まともにやり合ったら勝ち目はないので、どこかに戦力の一点賭けをして勝ちにいくのが狙いだ。


 そして、その目論見は成功した。

 デクとカイワレ大根というゴブリンチームの二大戦力は、見事に冒険者を弾き飛ばして包囲に穴を開けてくれたのだ。

 あとはメインディッシュ隊がゴールするまでの間、残りの人員が冒険者達を足止めすればいいという寸法。


 残す関門はあと一つ。

 ゴール前を守る一〇人の冒険者達を突破すれば、俺達の勝利である。


 当然、それをさせまいと俺達三人に向かって一〇人の冒険者達が動き出した。


 圧倒的戦力差。

 流石のデクとカイワレ大根も、万全の態勢で待ち構える一〇人もの人間を突破する事は難しい。

 せいぜいデクが五人、カイワレ大根が二人を相手取るのが限界だろう。

 そうなると、俺だけで残りの冒険者を突破するのは、かなりリスキーと言わざるを得ない。


 そこで次の一手だ。


「――散開!!」


 合図と共に、デクとカイワレ大根はそれぞれ左右に分かれ、冒険者たちを迂回するように、斜めに進路を変える。

 俺が真ん中を進み、デクとカイワレ大根が左右から回り込むような形でゴールを狙う格好だ。


 それに合わせるように、冒険者チームも人数を割り振って対応してくる。

 デクに五人、カイワレ大根に三人が向かい、そして真ん中の俺には残ったニ人が迫る。


 相手の戦力分析は正しい。

 このままぶつかれば、間違いなく俺達は全員叩きのめされて、死亡判定を下されてしまうだろう。


 だから、もう一手。

 これが最後の切り札である。





「――今だ、()()()を張れぇぇぇ!!」





 俺の合図でデクとカイワレ大根は、今までお互いが握っていたロープの両端を力一杯引っ張って、二人の間に一本の障害物を作り出した。


「「なっっっ!!」」


 これに一番驚いたのは、俺に向かってきていた二人の冒険者だ。


 斜めに角度を付けて走ってくる人間と、真っ直ぐ直線的に走ってくる人間のどちらが前に突出しているだろうか?


 答えはご覧の通り。

 目の前に迫っていた二人の冒険者は見事にロープに引っ掛かり、転倒して地面と熱い抱擁を交わしたのだった。


「ひ、卑怯な!!」


 無様に転がる冒険者の横を、俺は悠々と通り抜ける。


「へっ、ようは勝ちゃいいんだよ、勝ちゃあ」


 ……バカめ!!

 模擬戦用の武器が()()なんだから、それ以外の道具がダメなわきゃねえだろ!?


「クソッたれがぁぁぁぁ!!」


「だぁ~っはっはっはっは~!何とでも言いうがいいさ!!」


 負け犬の遠吠えを聞き流し、俺は上機嫌でゴールに向かって走り出した。


 最後の難関は突破した。

 最早、俺の前に立ち塞がる障害は何一つなく、それこそあと十秒もしない内に、俺達の勝利が決定するだろう。


「タァァァッッチ、ダァァァウゥゥン!!」


 俺は高らかに勝利を宣言し、ゴールに足を踏み入れる――










 ――寸前、背中を衝撃が襲った。


「あべしっ!!」


 倒れた拍子に口の中へ土が入ったので、急いで吐き出す。


 ぺっぺっぺ、何だ何だ?一体、何が起きたんだ???


()()の命中を確認、クソッたれニンジン死亡!」


 無慈悲に下されるパン料理長の死亡判定。

 それを聞いて、俺はようやく冒険者の放った魔術にやられた事を理解した。


 ……って、おいちょっと待て、魔術とかそんなのありかよ!?


 後ろを振り返ると、先程ロープで転ばせた冒険者がこっちを向いてドヤ顔を浮かべている。

 恐らく、抜かれたと思った瞬間、俺に向かって魔術を放ったのだろう。


 ……くっそぉぉぉぉ!

 最後の最後でふざけんじゃねぇぇぇぇぇ!!




「――そこまで!!ゴブリンチームの全滅をもって、冒険所チームの勝利!!」




 そうこうしている内に、みんなやられちまったようで、レクリエーションはゴブリンチームの敗北で幕を閉じた。


 あと一歩の所で勝利を逃がした俺に対する皆の視線は冷たい。


「…………」


 俺は、何も言わずにみんなの前で土下座をしてどうにかその場を誤魔化し、そして逃げるように夕食の場へと向かったのだった。





 ――しかし、あの情けない敗北を誤魔化しきる事はできなかったようで、結局その夜、俺はみんなから石鹸でもっこもこにされる事になったのだった。


 ……解せぬ。


修行編も終わり、これでようやく次の展開に持っていけます。

かっちゃま、お待たせ!

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