とある落ちこぼれの華麗なる活躍 ~修行編その四~
やったね、たえちゃん。
またもや分割だよ!
早朝。
日が昇ると同時に俺達の一日は始まった。
食事前という事もあり、まずは軽めのランニングで身体を温めるのである。
皆で列を作り、訓練歌を口ずさみながら汗を流していく。
「俺たちゃ、美味しいサラダボウル〜♪」
「「「俺たちゃ、美味しいサラダボウル〜♪」」」
「残さずなんでも、食べるぞ〜♪」
「「「残さずなんでも、食べるぞ〜♪」」」
「ニンジン!」
「「「大好き!!」」」
「ピーマン!」
「「「お代り!!」」」
「しいたけ!」
「「「もっと!!」」」
「トマト!」
「「「サイコー!!」」」
身体中に荷物を括り付けて走るランニングは最高に爽やかで、クソったれな一日の始まりに相応しい気分にさせてくれる。
途中でへばったり遅れたりするとパン料理長が付きっきりで応援をしてくれるし、怪我をしてもすぐに魔術で治してくれるので、脱落する者はいない。
至れり尽くせりである。
そんなパン料理長の熱い声援のおかげで、俺も列から僅かに遅れるだけで走る事が出来ていた。
この時一緒に隣を走っていた完熟バナナは、今では仲の良い友人である。
人間、同じ苦労を分かち合うと、妙な連帯感が生まれるようだ。
ちなみに、身体中に括り付けられている荷物は、各村々に運び込まれる生活物資であり、俺達は正規の荷馬車に代わって、運搬の一部を担っているというわけだ。
……流石はファーゼスト家、仕事に無駄がねえぜクソったれ!
なお、デクは普通の荷物では軽過ぎたため、荷馬車を一台引く事になった。
これが本当の、『馬車馬のように働く』ってヤツだ。
……みんなドン引きしていた。
さて、息も絶え絶えの爽やかマラソンが終わったら、次は一日の癒しである朝食の時間だ。
ファーゼスト家の侍従が用意した料理は絶品で、俺達は毎日この時間を心待ちにしていると言っても過言ではない。
「さあお前ら、腹一杯食え!残したら許さないから、覚悟しろよ!?」
「「「はい、料理長!」」」
目の前には、メイドによって用意された料理の数々。
焼き立てのパンや茹でたジャガイモが山のように積まれ、温かいスープの中には何種類もの野菜と、大きめの肉がごろごろと入っている。
他にも温野菜を中心とした料理や、魔物の物と思しきが肉料理が数多く並んでいた。
パン料理長は、皆が席に着いたのを確認すると声を張り上げ、それに続いて俺達も唱和する。
「手を合わせて下さい!」
「「「合わせました!!」」」
「頂きます!」
「「「頂きます!!」」」
そして始まる、激しい戦い。
殺気にも似た空気を撒き散らしながら、俺達は我先にと料理に群がっていった。
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
肉から手を付ける奴は素人だ。
まずは野菜を先に摂取し、胃の中にクッションを作って、より多くのを食べ物を詰め込む準備を整える事が先決である。
肉はそれからだ。
「――ロースはどこだぁぁぁ!?くそっ、俺の愛しのロースを誰が奪いやがった!!」
「――待て早まるな!落ち付いてその手に持ったカルビを置くんだ。かぶり付きたい気持ちは分かるが、まずはこっちのササミからだぞ。優先順位を誤った奴の末路がどうなるか、お前だって知っているだろう!!」
「――あかみぃぃぃ!君の事が大好きだぁぁぁぁ!!」
また、主食を疎かにする訳にはいかない。
あれは大事なエネルギー源だ。
身体にエネルギーを蓄えなければ、この先に待っている試練を乗り越える事など到底できない。
「――熱ッッ!くそ、舌を火傷しちまった……メーデー、メーデー!このままでは味覚を維持できない、至急治療を頼む!!」
「――うぐぅっ、マッシュポテトが喉に……げふっ、げふっ。誰か水をくれ……水を、水をくれ…………」
「――大豆……ウマい……大豆……ウマい……大豆……ウマい……大豆……ウマい……」
それから、野菜も忘れてはいけない。
野菜には身体の調子を整えたりする働きがあるため、これを欠いては病気になりやすい体になってしまう。
その点、目の前にある温野菜は優秀だ。
水分が抜けて嵩が減っているため、多くの量を食べる事が出来る。
その他、数は少ないがフルーツも用意されているので、気分転換にそれらを食べるのもいいかもしれない。
「――くっ、やめろ。俺のお腹はもうパンパンで、もうこれ以上は何も入らない!……なのに……なのに何故だ、何故食べる事が出来てしまうんだ!?」
「――苺、クリア。リンゴ、クリア。葡萄、クリア。梨、クリア――果物類オールクリア、これより2周目に入る。援護はいらん、ここは俺に任せてお前らはあっちの皿を片付けろ!!」
「――大豆……ウマい……大豆……ウマい……大豆……ウマい……大豆……ウマい……」
こうして、全ての料理は俺達の胃袋に納まり、お残しする事なく食事を完遂する事が出来た。
同じ釜の飯を食うとは良く言ったもので、俺達は食べきった満足感と満腹感を皆で分かち合っていた。
やはり美味しい食事は、人々の心に潤いと活力を与え、安らぎと癒しを与えるようである。
「バカ野郎!最後の仕上げが残っているのに、なに気を抜いているんだ!!」
パン料理長の怒声に、皆がハッとして表情を引き締める。
……そうだった、まだ食事は終わっていない。
パン料理長は皆の視線が集まったのを確認すると、厳かに声を張り上げた。
「手を合わせて下さい!」
「「「合わせました!!」」」
「ご馳走様でした!」
「「「ご馳走様でした!!」」」
――合掌。
さあ、腹が膨れたら、次はお勉強の時間だ。
いくら兵隊だからって、教養が無けりゃファーゼストの一員は務まらねえ。
まあ、新兵訓練の一環として行われる勉強なので、そこまで高度な内容は行われないが、中には単純な足し算引き算も怪しい奴がいるから、やはりこういった座学は必要なのであろう。
今日の内容は、数を使った簡単な文章問題だった。
【問】
あなたは伝染病が蔓延する地域に、『赤獣人』の護衛及び人足として派遣されました。
そして、ベースキャンプ周辺の安全を確保するため偵察任務に出撃した際、あなたは伝染病に侵された一つの村を発見します。
病人の数は一〇〇人、しかしあなたの装備には一〇人分の治療薬しか配備されていません。
しかも患者は重症で、治療薬を使用しなかった場合は一日と経たずに死に至ってしまいます。
さて、これからこの村の死者は何人になるでしょう?
(※但し、あなたは治療系の魔術を使えないものとする)
「――答えろ、ココナッツ!!」
「はい、九〇人です料理長!」
「ほう、ようやく引き算を覚えたようだな。よろしい、不合格だ!!」
一〇〇引く一〇という、至極簡単なはずの計算問題。
その答えをパン料理長は『不合格』と言って吐き捨てる。
「……どうして不合格なのでしょうか、料理長!?」
「お前が助けた人数は一〇人で、死んだ人数は九〇人だ。どっちが何人多いか答えてみろ!?」
「はい、死んだ方が八〇人多いです料理長!」
「それが答えだ!分かったら、お前が無能なせいで死んでしまった村人に詫びて、その数だけ腕立て伏せをしろ!!」
「はい、料理長!」
そう言って、その場で腕立て伏せを始めるココナッツ。
パン料理長はその様子を気にも留めずに、次の獲物を見定める。
「完熟バナナ、答えてみろ!!」
「はい、料理長!ですがその前に、この偵察部隊は何人で構成されているのでしょうか?」
「良い質問だ、完熟バナナ。答えは五人だ!」
「それであれば、それぞれが一〇人分の治療薬を携帯しているはずなので、死者は五〇人です料理長!」
成る程、確かにこのような任務に単独で当たるとは考えにくい。
俺達みたいな末端兵士の装備は殆ど統一化されているはずなので、完熟バナナの言う通り、全員が治療薬を所持していると考えるのが妥当だ。
「仲間の存在に気が付いたのは、良い着眼点だ。よろしい、不合格だ!!」
しかし、その答えをパン料理長は『不合格』と言って吐き捨てる。
「……どうして不合格なのでしょうか、料理長!?」
「それは、お前が五〇人もの村人を見殺しにしたからだ。お前は残された遺族に何と言ってやるつもりだ、答えろ!?」
「……掛ける言葉もありません、料理長!!」
「そうだろう!分かったら、お前が見殺しにした村人に詫びて、その数だけ腕立て伏せをしろ!!」
「はい、料理長!」
そう言って、その場で腕立て伏せを始める完熟バナナ。
パン料理長はその様子を気にも留めずに、次の獲物を見定める。
「次はお前だ、クッソったれニンジン!皆に模範解答を見せやれ!!」
そして、俺の番がやってきた。
ここまでの流れから分かるように、この問題は死人を出したらダメなヤツだ。
だったら、この問題の答えは一つしかねえ。
「はい、死者はゼロ人であります料理長!」
俺は、はっきりと言い切った。
「大変よろしい!!では、どのようにそれを実現するのか、答えてみせろ!」
「はい、まず偵察部隊の内の二人をベースキャンプに戻して、応援を要請します。任務の性質上ベースキャンプとはそれほど距離が離れていないと考えられるので、数時間から半日ほどで応援が到着するはずです。また、この伝染病は重症者でも死に至るまでに数時間から半日程度の猶予があるので、手持ちの五〇人分の治療薬を保険として用意しておけば、十分に持ち堪えられると判断したであります!!どうでしょうか、料理長?」
「自身の力が及ばなければ、他人の力を当てにするのは当然の発想だ。よろしい、ギリギリ不合格だ!!」
……って、何でだよ、おい!?
「どうして不合格なのでありますか、料理長!?」
「それは、この村には全部で二〇〇人の村人が住んでいたからだ。重症者は一〇〇人だが、まだ症状が出ていないだけの潜在的な患者がいるかもしれないだろう!それに、もしもベースキャンプに余裕がなかったらどうするつもりだ?何らかのトラブルが発生して、村が完全に孤立したらどうする?手持ちの治療薬で救える五〇人だけを救うのか?どうした、答えてみろ!!」
「そんなの無茶苦茶であります!そんな状況なら、誰がやっても助けられないであります!!」
「――バカ野郎!!」
一瞬で距離を詰めたパン料理長が、俺の横っ面を張り倒した。
「ひでぶッ!!」
そして、倒れた俺を見下ろしながらこう言葉を続ける。
「『コロリ』が大発生したあの時、当時の辺境伯だったゲオルグ様が、同様の条件で死者の一人も出さなかったのを知らないのか!?」
……おい待て。
あいつらを基準に物事を測るのはおかしい。
「俺達の主様は絶対に諦めないぞ!それなのに、お前が真っ先に村人の命を放り投げてどうする!!」
た、確かに。
上が必死にあれこれ対策を考えたとしても、現場がそれを理解せずに諦めていたら、何事も上手くいくはずがない……のか?
……いやいやいやいや、違うだろ。
これはそういった根性論とか、感情論の問題じゃねえはずだ。
そもそも、俺達みたいな凡人にあんな奴らと同様の成果を求める事自体が間違っているんだ。
俺達はただの兵隊なんだから、それに見合った『正解』があるだろうがよ。
「確かに、ゲオルグ様のように『未知の病魔の対処法を確立しろ』などというのをお前らに求めるのは酷だろう。だが、今日出題したこの問題は、ラヴァールでコロリを退治していた時に実際にあった事実を元にしている。当時、この村は壊滅しかかっていたそうだが、発見した偵察部隊がきちんと対処法を学んでいたおかげで、誰一人として死者を出す事はなかった」
……な、成る程、確かにこれは『正解』だ。
コロリの対処なんて、『病人の隔離』『汚物の焼却』『薄い塩水の摂取』程度で十分な効果があるから、知ってさえいれば俺達みてえな下っ端でも十分に対応できる。
「いいか、知識は力だ!この伝染病も、正しい対処法を知っていればお前らだってこの村を救う事ができる。それを肝に銘じておけ!!」
「「「はい、料理長!」」」
こうして、俺達はまた一つ賢くなったのだった。
……どうでもいいけど、手持ちの治療薬の数は関係なかったじゃねえか。
今週中にもう一回投稿するので、許して下さい。
オナシャス、センセンシャル、何でも…………




