先代悪徳領主の嫁奪り物語 その三
現実世界でも風邪が流行っている不思議。
今年に入ってもう二度目、年末から数えて既に三度目の風邪を引いたお(´・ω・`;)……ツライ
朝食を取った後、私は軽い運動も兼ねて外を散策する事にした。
ラヴァール産の林檎を齧りつつ、目的地へと足を向ける。
屋敷を出て、少し歩いた所にある練兵場。
いつもは、ただ広いだけで何もない無いそこに、今は何十ものテントが張られており、仮設の村落が出来上がっていた。
住人は一五〇人もの、赤兔族と呼ばれる獣人。
兔の耳と赤い瞳が特徴の、獣混じりの人種である。
……しかし、こうして彼らの姿を見てみると、『出来損なった人間』という評価を改めなければならないのかもしれない。
赤兔族は大人であっても、少年・少女のような体躯であり、皆が愛くるしい容姿をしているため、非常に庇護欲を掻き立てられる。
そこらの人間より……いや、下手をすればそこらの貴族よりも、余程整った顔立ちをしており、しかも寿命が尽きるまで、それらが一切衰える事はないというではないか。
強靭な生命力、優れた容姿、そして老いない身体。
……素晴らしい!
これ程までに素晴らしい商品が、未だかつて私の手元にあっただろうか?
出来損なった人間?
とんでもない、奴らは最高の『愛玩動物』だったのだよ!
クックックッ、フハハハハ、アーハッハッハッハ!
……さて、そんな最高級の商品だが、その管理には細心の注意を払わなければならない。
リターンにはリスクが付き物で、奴らには聖女という名の厄介な監視が付いているからだ。
先程、聖女らの一団がファーゼスト・フロントに到着したとの報せが入った。
恐らく、明日には視察に訪れる事であろう。
そのため、受け入れた難民達に何か問題があっては、私の責任問題に発展してしまうので、こうして私自らが見て回っている次第だ。
目の前には、赤兔族の何気ない暮らしが広がっており、特に問題が起きている様子は無い。
この様子であれば、聖女らの監査は問題無くやり過ごす事が出来るであろう。
私は眼前に広がる風景に満足し、そのまま散策を続けた。
それにしても、何度見てもこの習性だけは慣れないな……確か『食糞』と言ったか?
肉を食べない獣人の中には、良く見られる文化らしいが……いくら最高級の商品といえども、所詮は獣混じりだったという事か。
「全く、汚らわしい……」
私はその文化に吐き気を覚え、食べかけの林檎を、その場に投げ捨てた。
「――おぉ、ゲオルグ辺境伯ではございませんか!」
そうして散策する内に、私の姿を見つけたのか、声をかけてくる存在があった。
「長老か、どうだ疲れは癒えたかな?」
見た目は、一三歳ぐらいの少年でしかないが、彼は赤兔族の最年長であり、一族をまとめる長老という立場にある人物だ。
「ええ、十分に休ませて頂きました。どうですか、そろそろ我々にも、何かお役に立てるような事はございませんか?」
長老はそう言って、期待するような眼差しで見上げてくる。
「無理はするな、差し当たりは奉公だけで結構だ。この地での暮らしに、少しずつ慣れていけば良い」
しかし、私は長老の申し出をやんわりと断り、一族全体を労っているように見せた。
何せ、もう既に一〇人もの赤兔族が、奉公という名で出仕しており、ファーゼスト家で教育を受けているのだから。
クククッ、これ以上やり過ぎては、聖女達の目を誤魔化せなくなってしまうからな。
「お気遣い下さり、誠に感謝致します。……それでどうですか、奉公に出ている子達は元気にしていますか?」
長老が探るような言葉を向けてきたが、私はそれに動揺する事なく、当然のように頷いて答える。
「無論、元気にやっているとも」
その言葉には、一片の嘘も無い。
まだ本格的な教育は何一つ始まっていないのだから。
これから聖女達の監査があるというのに、手荒な真似をして、摘発される危険を負う必要が、どこにあるというのか。
「できればその、直接会いたいと思うのですが……」
しかし、目の前の長老は不満があるのか、言葉を濁しながら、この私に意見を述べてきた。
「む、それはいかん、彼らは今が一番大事な時期であるし、そもそも奉公人は、自由に里帰りができる物ではないのだ」
「そこをなんとかなりませんか?」
やれやれ、私に飼われている愛玩動物の分際で、飼い主に口答えをするとは、躾がなっていないな。
これは、誰のおかげで衣食住が保証されているのか、主従関係をしっかりと教育しておく必要がありそうだ。
「ならん!これがサンチョウメ王国の文化なのだから、慣れて貰わなければ困る。こちらにも事情があるのだから、そこは諦められよ」
「……そう、ですか。かしこまりました」
そう言うと、長老はどこか気落ちした様子で、村落の中へと戻っていった。
……クククッ、チョロいな。
所詮は草食動物の獣人、ちょいと脅かしてやれば、すぐに大人しく言う事を聞く。
この様子なら、商品を売り払った後も「勉強のために、別の貴族の所へ奉公に出た」とでも言っておけば、上手く騙す事ができるだろう。
あとは、王国貴族の変態共から、大金をせしめてやればよい。
明日には聖女がやってくるが、何一つ問題はない。
私にやましい所など一つも無く、兔の教育もまだ本格的には始まっていないのだから。
そうして、散策は無事に終わり、それ以降は特に何事もなく日が暮れていったのだった。
――しかし、事件は日が暮れてから起きた。
「た、大変ですゲオルグ様!食中毒です!!」
その日の夕食を取ろうと、食堂の席に着いたばかりの私に届いたのは、とんでもない報せだった。
「何だと!?」
しかも、詳しく話を聞いてみると、食中毒は屋敷にいる赤兔族の間で広まっているというではないか。
いかん、これが聖女達に知られてしまえば、私の管理不行き届きと見なされてしまう!
「良いか、その者らを纏めて、どこかに押し込めておけ!絶対に外へ出すな!!」
「は、はいっ!かしこまりました!!」
私は、伝令にやってきた侍従に言い付け、事態の隠蔽を図る事にした。
ちぃっ!一体何故このタイミングで、食中毒など起きるのだ。
まずい、これはまずいぞ……
屋敷の赤兔族が見つかるだけならば、ただの奉公だと言い訳が立つが、彼らが食中毒を引き起こしたとあっては、もはやファーゼスト家の責任は免れない。
厨房の担当者を処分して、体面を保つか?
いや、平民一人を生贄に捧げたとしても、どうにかなる問題ではない。
……ならばやはり、この事態の原因その物を取り除いてしまうのが最善手か。
我が家に汚点をもたらす奉公人など、それはもはや汚物と同義である。
「ヨーゼフ、汚物を纏めて始末しろ……」
幸いにして、時間はまだある。
この世から消し去ってさえしまえば、兔の一〇羽程度、後から言い訳などいくらでも可能だ。
多少は疑念を持たれるかもしれないが、決定的な証拠を掴まれるよりは、よっぽどましであろう。
そう考えて、ヨーゼフに指示を出していると、先程伝令にやってきた侍従がまた戻ってくるのが見えた。
「あ、あの、ゲオルグ様……」
「今度は何だ!?」
このボンクラめ、この緊急事態に、何をもたもたしているのだ。
さっさと証拠を一纏めにしておかぬか!!
「ひっ!そ、その、聖女様ら御一行が、到着なされたそうですが、いかが致しましょうか?」
「何だと!!」
何故、奴らがもう到着しているのだ!?
……まさか、ファーゼスト・フロントで休息を取らずに、そのまま出発してきたというのか?
ええい、次から次へと厄介な……
「ヨーゼフ、取り敢えず汚物を一纏めにしておけ!良いか、最優先だ!!」
「かしこまりました」
優秀な我が家の家令は、一礼すると静かにその場を後にした。
とにかく、今は時間が無い。
証拠が見つからないように、隠し通す事を最優先とし、なんとか聖女の監査をやり過ごさねば。
全く、間が悪いにも程がある。
……いや、これも宿命なのかもしれぬ。
何せ相手は、我が怨敵の寵愛深き者なのだから。
一度、二千文字近い文章を書くも、今後の展開と上手く噛み合わなかったので没にする……
一度書いた物を、自らの手で消去する時の悲しさ。(´;ω;`)ブワッ




