第072話 選ばれたのは
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俺達の出番が始まる。
幕が上がるとその先には沢山の人が待ち構えていた。
これだけ大勢の人々に見られているのかと思うと緊張してきたな。
しかし、始まってさえ仕舞えばこっちのものだ。
どう足掻いったって舞台上から逃れることは不可能なのだから。
まずは凛から舞台へと。
先程まで色々あって泣いていたとは思えない。
さて、そろそろ俺の番だ。
張り切って行こう。
台詞は何回も読んで覚えた物だからスラスラと出てくる。
ここまでに仕上げるのにどれだけ苦労したことか。
「ベル。」
やはり、元気が無いのか少しだけ動きが止まる凛。
もっとちゃんと声を掛けてやりたいのだけど、ここは舞台上。
人に見られている状態で、露骨に声を掛ける訳にもいかない。
「貴方は私の心配をしないで。きっと私は大丈夫だから。」
その台詞は台本に書かれていない。
しかし、状況にはマッチしているので違和感を覚える事なく進める。
咄嗟に考えた言葉にしてはよく出来たものだ。
大丈夫と言われたので、これ以上余計な心配は不要。
自分の事だけに集中すれば良い。
何度も何度も練習して来た日々を思い出しながら、身振り手振りも交えて言葉を紡ぐ。
他のみんなだってそうだ。
色々と問題の多いクラスではあったかも知れないが、最優秀賞を取りたいと言う気持ちは一致しているはず。
ここで一旦、俺の出番が終わり舞台裏に戻る。
「見違えるように成長したな陽太。」
「真か。お前、照明の係りなのにサボってるのか?」
「違う違う。俺の担当は、後半だから待機してるの。」
どうやら、俺の演技に感動したらしく真が声を掛けて来た。
真と話しているといつもの感じを思い出し、気合いの入り過ぎた状況から無駄な力が抜けた気がする。
もしかすると、俺が力み過ぎているのを見抜いて話し掛けて来たのかもな。
真はそう言う空気を読む力に長けているから。
「まだまだ陽太の出番あるんだし、頑張れよ。」
「お互い様だな。真も照明で失敗するなんて事無いようにしてくれよ。」
「それはちょっと約束出来ないな。緊張で手元が狂う事だってあるだろ。」
冗談のつもりだろうけど、本当にそんな事が無いようしてほしい。
真との雑談もこれくらいにして、舞台の袖からどこまで進んでいるかを確認する。
「危ねえー。そろそろ、俺の出番だったか。」
余りにも短い休息も終了。
急いで気持ちを切り替えて袖から表へと飛び出す。
そろそろ物語も中盤。
始まって仕舞えばあっという間という言葉もあるがまさにこの事だな。
あれだけ頑張って練習して来たのに、これだけ一瞬で終わって行くのは余りにも切ない。
だけど、物語が止まる事はなく徐々に終わりへと向かう。
そして、気が付けば最終局面へ。
俺は銃で撃たれてしまい死に掛けている。
ここで呪いを解いて貰い王子への姿へと戻るのだ。
ラストシーンであり、最も大事とされている所。
失敗は許されないはずなのに、御城がやらかした。
最後の最後に、あれだけ引っ張って来た御城が足まで引っ張る事になるとは。
まだ呪いが解けていないのにも関わらず、舞台に出る御城。
つまり、同じ人物が二人存在してしまっているという事になる。
多少のアレンジは加えているとはいえ、ここまで大胆な変更になっているとは思わない観客達もザワザワとなり始めた。
こうなれば、間違いでしたと言って袖に戻る訳にもいかない。
アドリブ勝負で乗り切るしかないのだ。
俺と凛と御城。
この三人でどうにか着地点を手探りで見つける。
『ベルの前に現れたのは、呪いの解けいる王子と野獣のままの姿の王子の二人。混乱の中、ベルはどちらかを選ばないといけないかった。そして、真の愛を伝えるのだ。』
アドリブのナレーションが入る。
しかも、この声は真じゃないか。
照明担当だったはずなのに、困っている俺達を見兼ねて助け船を出してくれたらしい。
俺は良い友達を持ったのかも知れない。
こうなれば後は、凛が王子か野獣どちらかを選んでハッピーエンドに向かうだけ。
ざわついていた観客もそういう演出だったという事で納得してくれているようだ。
どちらに転んでも物語を完結させるのには苦労しない。
だから、凛の選びたい結末を選んで欲しいと思う。
「私が過ごした時間は、外見は例え恐ろしくとも美しい内面を持った貴方と共にあるの。ずっと変わらない、わたしの王子様。」
選ばれたのは、俺の方だった。
内面で選ぶというのは、ベルという登場キャラクターをよく捉えているな。
このままハッピーエンドに向かえば、一安心だろう。
「なんでだよ。なんで俺じゃないんだよ。」
私情を挟みまくりの男が一人残っていた。
最早、クラスの事などどうでも良く本心を凛にぶつけている。
だけど、その疑問は鼻で笑って仕舞うほど可笑しいな。
上手く物語としてまとめる為には俺を選ぶのが正解だったのだから。
それに気付かないで、自分勝手な気持ちでクラスの劇を台無しにしようとしている。
「お前さえ、お前さえいなければ!」
俺の名前を言わなかった事だけは褒めてやりたい。
多少感情が乗り過ぎているけど、まだ演技の範疇という事で抑えられる。
後は、なんとかしてこの暴走マシーンを沈静化しないとな。
「死ねぇー!!!」
全力で殴り掛かってくる御城。
だけど、今の俺にとっては余りにも弱い一撃に見える。
今日だけで何人もの強者と戦って来たのだからな。
蚊でも止まりそうなスピードだと思ってしまう。
殴り返してやろうかとも思ったが、冷静になればここは舞台上。
観客もいる中でそんな事をしてしまえば、怒られることは確定だ。
こんな奴を止めたがばかりに怒られるのは勘弁して欲しい。
拳を右手を受け止める。
多少痛みはあるが、これくらいなら恐るるに足らず。
「ここはお前だけの世界じゃない。俺だって醜くも生きている。他の奴らもみんな。だから、これくらいの事で感情的になるな。」
この一喝が効いたのか、悔しそうな顔をして捌けて行った。
あれだけの醜態を晒したのだ。いくら観客達は気付かなくともクラスメイトは違う。
このままお咎めなしと行けるかどうか。
「ありがとう。」
この言葉はベル役としての言葉。
それでも深い感情が込められているように思えた。
「いつも笑わせてくれてありがとう。大事な物を私に与えてくれてありがとう。貴方に出会えて本当に良かった。」
「礼を言うのは俺の方だ。こんなにも恐ろしい姿をした俺のことを構ってくれて。」
「怖くなんてない。恐ろしかなんてない。だって、私は貴方を愛しているから。」
告白のシーンと同時に照明が消える。
そして、安っぽいキスの効果音と共に幕を下ろした。
いつの間にそんな効果音用意してたんだよ。
そんな事を思っていると凛が近付いてくる音が聞こえる。
だけど、辺りは暗いので良く見えない。
幕が閉まり出してまもなく、俺の頬には微かにだが柔らかい感触があった。
この正体がなんだったのかはまだ分からないが、いつの日か分かる時が来るのかも知れない。
波乱の藍連祭。
まだ全部が終わった訳ではないのだけど、俺達の出番はここまで。
後は他のクラスの奴を見ているだけで終わり。
「陽太、お疲れー。夜の後夜祭は出るだろ?」
勝手に終わりだと思っていたがまだ続きがあることを、真に話し掛けられて初めて気付いた。
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