第070話 幕が上がるまで
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部室棟の物置小屋に向かうと微かにだが物音が聞こえる。
「誰かいるか!」
大声で呼び掛ける。
頼む、そこにいるのが凛であってくれ。
そう願いながら、扉に耳を当てて返事を待った。
「陽太くん。やっぱり探しに来てくれたんだ。」
「当たり前だ。心配だから凛を探しに来たに決まってるだろ。」
明らかに申し訳なさそうな声だ。
閉じ込められてたのは自分のせいじゃないのに。
物置小屋にずっと閉じ込められていると精神的に辛いだろうから、いち早く出してあげなければならない。
「大丈夫。今すぐに出してやるからな。」
少しでも安心させる為に声掛けを続ける。
無言の時間が続けば、不安が掻き立てられるだろうからな。
「練習始まってるんじゃないの?こんな所にいて良かったの。後でみんなに怒られるよ。」
「練習なんてどうでも良い。凛の安否さえ確認出来れば、後の事は何とかなる。それに凛が不在で俺達の舞台が完成する訳ないだろ。」
「・・・ありがとう。」
扉の奥からは凛の啜り泣く声が聞こえてくる。
何で彼女が泣かなければいけないのか。
何も悪い事なんてしていない彼女が。
誰がやったかをはっきりさせて、謝らせることでしか気が晴れない。
ただ、事を大きくするのを凛が認めてくれるだろうか。
きっと、これだけの被害に遭っていながらも何も咎めないはず。
それが星海凛という人間だ。
「待ってろ。すぐに開けるからな。」
鍵に使われているのは、四桁のダイアルロック式の南京錠。
多分、職員室に行けば鍵があって、今すぐにでも開ける事は出来る。
だけど、四桁の番号を当てればもっと早く開ける事が可能だ。
走って職員室に向かう間、凛は一人になってしまう。
それだけは避けたい。
悩んだ末に出した答えは、四桁の番号を当てる事だった。
四桁の番号の組み合わせは、一万通りにも及ぶが実際に回せばあっという間に解除できるはず。
先程から呼び掛けても返事が無くなっている。
安心して気が抜けているのか、それとも弱って来たのか。
どちらにせよ安否を確認したい。
「俺に掛かればパスワードを当てるなんて簡単な作業だ。」
ゼロから順番に入れて行くと、俺の焦りとは裏腹に一〇五八で鍵が開く。
こんなに番号が若いとパスワードとしての質を疑ってしまうが、今回はそれに助けられた。
おかげで鍵を開けるまでに三分も掛からずに開かれたのだから。
最悪、その辺の石で壊すことも想定していたので、壊さずに済んだのも有難い。
「大丈夫か凛!」
鍵の開いた扉を勢いよく開いて、中は入る。
日中にも関わらず薄暗くて埃が舞っている空間の中に、一人で座り込んでいる凛の姿を見つけた。
ゆっくりと俺の方を向き、助けが来た事を確認する。
その目は、この空間よりも暗く絶望を宿していた。
「・・・陽太くん。」
「怖かったか。もう扉も開いたし、大丈夫だ。」
我慢していた涙は決壊したダムのように流れ落ちる。
俺は静かに胸を貸してやる事しか出来ない。
聞こえてくる凛が泣く音。
それが酷く俺の胸に突き刺さる。
もっと早くに気付いてあげれば、あの時俺が目を離さなければ。
後悔ばかりが頭を支配している。
「ごめんね、恥ずかしい所見せて。」
「恥ずかしい事じゃないだろ。寧ろ、よく頑張った方だ。」
「怖かった。あんな敵意を剥き出しにされるなんて、今までは無かったから。」
「浅間がやったのか。」
この問いには小さく頷くだけ。
思い出すだけでも怖いのかもな。
何もしてない人間が人の悪意に晒されるのか。
どうしても納得が出来ないでいる。
「ねぇ、もう少しだけ。もう少しだけ、このままで良いかな。」
「まだ落ち着いてなら、ここでゆっくりしてからクラスの方と合流しよう。」
ただただ無言のまま隣同士に座るだけの時間。
不思議と気まずいなんて感情は湧いてこない。
時間にして五分程度。
本番まで残り少ししかない。
敢えて本人に伝える事はしないが、恐らく時計を見ていたので凛も分かっているだろう。
「よし、もう大丈夫!そろそろ行こう!」
いつものように明るく振る舞う凛の声。
でも、今の俺には強がっているようにしか聞こえない。
心の奥底から辛いと叫びたいはずなのに。
クラスの事や俺の事を思って、元気なように演じているのだとすればそれ以上に悲しい事はない。
「そんなに心配な顔しないでよ陽太くん。大丈夫、だってちゃんと助けに来てくれたでしょ?」
「それは当たり前の事をしただけだ。」
「行こう!ほら、早く早く!」
俺の手を握り、急かすように走り出した。
思っている何倍も心は強く出来ていたようだ。
こんなにも明るく振る舞う彼女の姿を無碍には出来ない。
その一心で付いて行くのだった。
クラスの奴らと合流したのは、本番が始まる数分前。
俺と凛がいない事にようやく気が付いたのか慌ただしく探していた。
探していたと言ってもいるはずもない舞台周辺をウロウロとしているだけ。
本気で探すつもりなど最初からないのだ。
「どこ行ってたの二人共、本番始まるよ。」
「色々あったんだよ。色々。」
「そんな曖昧に返されても分からないけど、とりあえず間に合ったから良し。衣装に着替えて。」
わざわざ事情を話す事はしなかった。
それよりも本番を成功させたいというクラスの考えがそこにあったからだ。
今じゃなくて良い。
終わった後にじっくりと話し合う事だって出来る。
それを凛が望まないのを知っていながらも、浅間を追い詰める方法だけを考えていた。
「浅間さん、ちょっと良いかな。」
衣装に着替えた凛が浅間を呼び出した。
顔すら見たくないはずなのに、自分から決着を付けるつもりなのか。
「何?あの事なら謝らないけど。そもそも人が狙ってる男に手を出そうとする方が悪いんだから。」
こんな大勢いる中でも悪びれる事なく言い返して来やがった。
多分、話に耳を傾けているのは俺くらいだけど。
それに凛が御城を狙っているかどうかなんて、今までの態度を見ていれば分かる事。
恋は盲目なんていう言葉があるが、ここまで見えていないと心配になるレベル。
「この際はっきりと言わせてもらうけど、それ勘違いだから。」
そう言った後にこっそりと耳に手を当てて内緒話をする。
流石の俺もこの会話までは聞き取る事は出来ない。
だけど、表情から察するに何かしら誤解が解けるような事を言っているのだろう。
話を聞き終わった後の浅間は、気が抜けたのか床に座り込んでしまう。
満足そうに帰って来た凛。
表情がスッキリとしているので言いたい事を言えたのだろうな。
「何言って来たんだ?」
「それは内緒。でも、いつか分かるかも知れないね。」
会話の内容は気になるけれど、今は凛がいつも通りに戻った事を喜ぼう。
「みんな本番始まるよ!気合い入れて行こう。」
幕が開ける一分前。
俺達が本当に頑張らないといけないのは、ここからだ。
全て完璧だったと言って笑って終われるために。
「行くぞー!」
「「「おぉーー!!!」」」
リーダー面をした御城が円陣を組み、気合いを入れる。
全ての元凶はお前なのにと不満もあるが、クラス全体の士気が上がったのも間違いなくコイツの功績だ。
幕が上がるとそこには多くの観客がいる。
緊張するが俺達の積み上げで来た物を出し切ろう。
悔いの残らないように。
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