第21話 落第勇者、S級異能者と交戦する①
俺はため息を吐きそうになりながら、強気な少女の方を向く。
「それで……何が言いたいのですか?」
「貴方の実力がどれ程のものなのか調べる必要があると言っているのです!」
うわっ、こう言ったやり取り冒険者でもよくあったな。
こう言う実力主義の仕事の人って何かと自分の実力を示したがるんだよな。
まぁ舐められない様にするのと、主導権を握りたいんだろうけど。
正直俺はそんな事どうでもいい。
好きなだけ言わせておけばいいだけなので、よっぽどの事が無い限り言い返したりはしない。
だがそれは、異世界と言う俺よりも強い奴が居るかもしれない可能性が高かった世界だったからだ。
平和に生きていた俺と、幼い頃から戦っていた人とでは戦闘経験に差が出る。
まぁ絡んでくる奴は大抵そこまで強くは無いんだがな。
しかしそれはあくまでも異世界での話。
この世界では家族も居るので、こんな危険な人間の集まりの中で舐められたら終わりだ。
ここは強気で行く。
「ならやろう。でも誰がやるんだ? 多分誰も俺の相手にならないぞ?」
俺は鼻で笑う。
正直目の前の少女には、俺が負ける道筋が一切想像出来ない。
純粋な技だけでも勝てるまでもある。
こんなのでも異世界最強の弟子だからな。
だがそんなこと知らない少女は、戦闘などした事もないと考えている同級生の俺に舐められただけでなく、鼻で笑われたため、顔を真っ赤にさせて憤る。
「あ、アンタなんて私1人でじ、十分よッ! 代表! 私に模擬戦をやらしてください!」
よしよし上手く煽れたようだ。
これで絶対に勝てそうなコイツと対戦出来そうだ。
無駄に自分の力をひらかすのは避けたいからな。
後普通にめんどいし。
「ふむ……私はそれでもいいのだが、隼人君はどうだね?」
龍童代表が一瞬考える素振りを見せたかとと思うと、俺に聞いてくる―――が、勿論俺の答えは決まっている。
「俺は全然大丈夫です。代表も報告は聞いているでしょう?」
「それは勿論聞いているのだが……彩芽―――ああ君に挑んできた彼女の名前だ」
ふーん、アイツ彩芽って言うんだな。
まぁ結構どうでもいいけど。
「それで代表は何が気掛かりなのですか?」
本当に意味が分からず首を傾げていると、まさかの言葉が出て来た。
「いや……彼女はウチの最高戦力の1人―――S級異能者の1人なんだ」
「…………は?」
アイツが最高戦力?
この程度で?
嘘だー。
俺はまじまじと彩芽を観察する。
ふむ……見た目は物凄く整ってはいるが、別に筋肉がそこまで発達しているわけではない。
そして立ち姿も腕を組んで踏ん反り返っているが、正直俺たちを案内してくれた男の方が断然強そうに見える。
「な、何よ……そんなにジロジロ見ないでよ……」
少し頬を赤くして恥ずかしそうに身を捩る彩芽。
うーむ……やっぱり全然強そうに見えない。
感知を使っていないから異能力の強さは分からないが、もしかしたら異能力が強いのかもな。
「いや、お前が最高戦力とはどうにも思えなくてな」
「なっ!? それはどう言う意味よ! 私が弱いと言いたいの!?」
「だからそう言っているじゃ無いか」
俺がそう言うと、彩芽が今度は怒りで顔を真っ赤にして言い放った。
「もう許さないわッッ!! 早く来なさい! すぐに模擬戦しましょうッ!!」
龍童代表はその言葉を聞いて、もう自分では制御できない言わんばかりにため息を吐く。
おい、せめて自分の部下くらい制御しておけよ。
「…………許可しよう……」
全てを諦めた様に許可した。
その姿を見て代表も大変だなと同情してしまったのは俺だけの秘密だ。
ただもう少し頑張れとも同時に思ったが。
建物を出て、開けた場所に移動した俺たちは、早速模擬戦を始めようとしていた。
俺と彩芽―――本名は三越彩芽と言うらしい―――は向かい合っており、少し離れた所に代表や護衛、宮園と俺が気絶させた異能者たちが観戦している。
俺の実力を知っている宮園たちは彩芽を同情の眼差しで見ており、それを見て代表たちが困惑していると言う状況だ。
まぁ宮園は俺の戦いを見ていたし、俺が脅した奴らは完全にトラウマになっているんだろう。
審判は護衛の内の1人が務めており、今はこの模擬戦のルールを話している所だ。
「この模擬戦はあくまで相手の実力を測る戦い。相手を殺してはいけません。そしてなるべくトラウマにならない様にしてください。それ以外は特にありません。それでは―――始めッッ!!」
その合図と同時に動き出したのは彩芽だった。
「一気に行くわ! ―――【氷姫】ッッ!」
そう叫んだ瞬間に彩芽の身体が氷のドレスに包まれる。
そして周りもどんどん凍っていき、周りの温度が下がっていく。
更には地面が凍っていき、周りに雪結晶の様な物体が浮かぶ。
俺はそれを見少し驚いていた。
「へぇ……お前本当に強かったんだな」
「当たり前よ。これでもS級異能者なんだからね! でも容赦はしないわ! ―――氷の矢ッッ!!」
彩芽の周りから異能によって創造された氷の矢が俺に向かって物凄い速度で飛んでくる。
まぁ物凄い速度とは言っても銃と同じくらいの速度しかないのだが。
この程度なら余裕だ。
「【身体強化:Ⅱ】」
俺は自身の体を強化させ、飛んできた氷の矢を、念の為避けるのではなく拳で砕いていく。
もしかしたらアイツが氷の矢をコントロールが出来る可能性もあるからな。
『何故我を使わない?』
『お前は強すぎるんだよ』
カーラから何故使わないのかと言われるが、この程度の敵ではカーラを使うと死んでしまうので却下だ。
彩芽にもカーラにも申し訳ないが、この程度では到底俺には届かないだろうから本気も出せないし。
「なっ!? あの速度を避けれるの!? で、でもこれくらいはまだ想定内! どんどん行くわ―――【氷の槍】ッ! 更に【氷塊】ッッ!!」
このままでは俺に有効打を与えられないと気づいた彩芽が、俺の元に矢より何倍も大きな氷の槍が何個も飛ばす。
そして氷の塊が俺の頭上に落ちてくる。
一見俺がピンチに見えるだろうが、そんな事は全然無い。
それどころかしっかり観察する余裕まである。
ふむ……この異能力は多分【氷の女王】の下位互換だな。
【氷の女王】と言うスキルは、俗に言うチートスキルに分類されるSS級スキルで、絶対零度を自由自在に操り、空気さえも凍らしてしまう恐ろしいスキルだ。
そのため氷で攻撃したり、相手自体を凍らせたり、空気を凍らせて窒息死させたりと物凄く応用の効くスキルで、俺とはとことん相性が悪い。
全盛期の俺でも真正面から戦えば本気を出さざるを得ないだろう。
いや使い手によってはどう足掻いても勝てないかもしれない。
———が、これは見るに氷を生み出すと言うだけの異能力だと思うので、俺の敵では無い。
俺は氷の槍を回避してから柄の部分をへし割り、氷塊は魔力で拳を保護して殴る。
魔力はカーラを持っている事によって、魔法スキルの持っていない俺でも使えるようになった。
俺の拳と氷塊が激突し、氷塊が粉々に砕け、太陽の光が反射してキラキラと綺麗に輝いている。
そんな光景の中に唖然としている彩芽や代表の顔が見えた。
唖然としているせいか彩芽が固まっている。
全く……戦闘中に思考を停止させるだけでなく体まで固まるとは何事か。
そんなんじゃすぐに死ぬぞ。
……しょうがない、俺が少し教育してやるか。
俺は全く戦闘の基本のなっていない彩芽に、死なないための戦闘を教える事にした。
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