添い寝はしていない
「まだ婚約もしていないのに、添い寝なんてヤバイでしょう、殿下」
アリッサ嬢が帰ったあと、ウィリアムがヤレヤレといった顔で言う。
僕は憮然と答えた。
「……添い寝なんかしてない。怖いというから眠るまで横にいただけだ」
「ホントですか?不埒な真似はしていませんか?」
「……不埒な真似とは、どんな行為だ?」
「え?」
「どういうことをやったら、不埒なんだ?」
「えーと……真面目に聞いてます?」
「後学のために知りたい。僕がアリッサ嬢にどんなことをしたら不埒なんだ」
詰め寄ったら、ウィリアムは気不味そうに視線を逸らした。
ふん。からかおうとするからだ。
ブランドンがいつものようにお茶の準備をしながら、感心したように呟く。
「しかしまあ、夜中に部屋を抜け出して探検しようなどと、活動的で怖いもの知らずなお嬢様ですな」
「こんな古い城のどこが面白いんでしょうね?ビックリするくらい、あちこち見て回っていましたよ」
「純粋に好奇心旺盛なのでしょうが……気を付けねば、間者かと思われるでしょう」
ブランドンの眉尻が心配そうに下げる。
「あー……でも殿下が、散々怖い話を聞かせていたから。もう王城で夜歩きはしないんじゃない?」
「えっ。あんな小さなお嬢様に怖い話を聞かせたんですか」
「そう、殿下がブルッた怖い話をたっぷり」
「なんと非道な。女性にそんなことをするような育て方をした覚えはありませんぞ、殿下!」
あ、これは本気で怒っている顔だ。
「仕方ないだろう。昨夜はたまたま僕の部屋に来たが、今後も護衛を撒いて一人でふらつく可能性があるんだぞ?怖い話が一番、有効的だと思ったんだ」
「しかしですな、これから毎晩、怖い思いをして一人震えていたらどうするんです」
「…………」
そこまで考えていなかった。
確かに……僕とウィリアムは、一月くらい引きずったっけ。
昨夜の彼女の頼りない様子が脳裡に浮かんだ。今朝はすっかり元気だったから気にしてなかったけど……今夜も泣いていたらどうしよう。布団の中で一人震えるアリッサ嬢を思い浮かべ、僕は胸がぎゅっと痛んだ。
考え込む僕に、ブランドンは溜息をつく。
「まあ、王城に比べれば、カールトン邸は街中の賑やかな場所にあり、華やかなお屋敷です。仲の良いお姉様もおられると聞いております。一緒におられれば、さほど恐ろしくはないでしょうが……一度、ご様子は伺っておいた方が良いかも知れませんね」
「そうだな……火龍公爵は週に何度か登城していたな?話をしておく」
「あ、添い寝の話は秘密にしておいた方がいいですよ~。可愛い娘を持つ父親としては、たとえ未来の夫でも看過できないでしょうから」
ウィリアムが横から余計な一言を足してきた。僕はじろりと睨む。
「だから添い寝はしてないし、未来の夫でもない」
「あれ?てっきり、怖い話をして泣かせて、それを優しく宥めてホレさせる作戦かと……」
「最低な作戦だな、それ!ウィルは絶対、女性から嫌われるぞ。……大体、僕は、アリッサ嬢と良い友人になりたいんだ。次は、楽しい話をするさ」
「……友人ですか?」
妙な間を置いて、ウィリアムが首を傾げた。その背後でブランドンも眉を寄せている。
カエル事件に骨折事件。二回も恥をかかされたのに、友人になりたいと言い出すなんて……確かに奇妙に思われても仕方がない。僕は視線を逸らせながら呟いた。
「……最初は二度と会いたくないと思ったものだけど……彼女は面白いだろう?刺激があって楽しいんだ」
「なるほど。……まあ、殿下もまだ6才ですもんねぇ。意識するのは、まだ早いか」
「なんの話だ」
ウィリアムの返答が予想と違う。
「いえいえ。早めにツバをつけておかないと、後悔しますよって話です。アリッサ様、どうやったって目を惹きますからねぇ」
ツバをつける?
ウィリアムは時々、聞き慣れない下町言葉を使って煙に巻くから困ったものだ。
王子もまだ6才なので。
ほのかな恋心にはまだ気付きません~。




