敵が敵でなくなった日
王城が本当に面白いのだろう。
アリッサ嬢はキョロキョロと落ち着きがない。飾っている絵や壺や、扉の飾り金具まで、何にでも興味を示して覗いて回っている。
こんなに好奇心旺盛だったら、確かに、王城見学をせずに眠ることは出来なかっただろう。もしかすると朝まで付き合うことになりそうな予感がする。
とはいえ王城は、王族以外、足を踏み入れられない場所もあるし、第二夫人の管理する区域は近付かない方がいい。
母上の気に入り具合から、アリッサ嬢がまた王城へ泊まりに来る可能性も高いので、今後、夜中に一人で出歩かないよう策を立てておいた方がいいかも知れない。
ということで、僕はアリッサ嬢に怖い話をあれこれ聞かせることにした。
小さい頃、ブランドンに聞かされた“本当にあった王城の怖い話”だ。恥ずかしい話だが、これを聞かされ、僕はしばらくウィリアムにしがみついて寝る夜が続いたものだった。……ちなみに虚勢を張っていたけど、ウィリアムも僕にしがみついていたから、怖さは折り紙付きだと思う。
アリッサ嬢は、ふんふんとなんでもない顔で聞いていたが、3つめを話した辺りで足取りが遅くなってきた。顔もやや曇りがちになっている。
よ、良かった……あまりに平然としているから、てっきり怖い話まで好物かと不安になったところだった。
そして5つめか6つめで、彼女の大きな瞳が潤んでいるのに気付いた。今にも涙が零れ落ちそうな様子に、はっとする。
───やり過ぎた。
「怖がらせてしまいましたね」
慌てて謝ったら、吃りながら「こわくない、ねむくなっただけ」と返された。彼女もなかなか意地っ張りなようだ。
女性の寝室に足を踏み入れるのはどうかと思ったけれど、念のため、アリッサ嬢がベッドに入るまでを見届ける。
うん、もう抜け出したりはしないな。
安心して帰ろうとしたら、手を掴まれた。
「少しだけ……ここにいてくれませんか」
布団を鼻先まで被り、涙いっぱいの金色の瞳が不安で揺れている。
それは、それまで“アリッサ・カールトン”という、人生で初めてぶち当たった得体の知れない壁だったものが───実は僕より年下の危なげな少女だという事実に、ようやく気付いた瞬間だった。頭を強く殴られたような衝撃を受ける。
僕は何故か急に心拍数が上がったものの、彼女が眠るまで横にいることを約束した。
安心して静かに眠りについたアリッサ嬢の手を撫で……僕はふと、(アリッサ嬢と友人になれるだろうか……)とそんなことを考え始めていた。




