秘密会議
「シンシアさまって、あんまり好きじゃなかったんだけど」
部屋を出て、ディたちが待つ控え室へ向かいながら、アナベル姉さまがポツリと呟いた。
「でも、だからってさすがに"いい気味!"とまでは思わないわ。……アリッサが、厳しい処罰を止めるよう言ってくれて良かった。もっと厳しい罰だったら、きっと後味の悪い思いをしたでしょうね」
うん……私の言葉のせいかどうかは別として、厳しい罰じゃなくて良かったと、本当に思う。私も、きっと、ずっと嫌な気持ちを抱えることになっただろうから……。
控え室に着くと、ディが飛んできた。
「もう!遅いから、心配しましたわ!」
「えへへ、ごめんなさい。挨拶する人が多くて、抜け出せなくて……」
「まあ、そうでしょうね……アリッサは全然、お茶会に参加しませんもの。この機会に親しくならないと!って、みんな必死じゃありませんこと?」
そうかも~。
でも……お父さまがお茶会に参加しなくていいって言うんだもーん。そう言われちゃったら、わざわざ行くのものねえ?
それにしても、お茶会に行かなくて済むのはすごく有り難いことだと、今日、すっごく実感した。
あんなに延々と同じような会話が続くのって、疲れる。顔の筋肉が、もう、痙攣しそうだよ。
壇上のマーカス殿下はもっと大変なんだろうなぁ。
「ディ、まずはアリッサを座らせてあげなくては。アリッサ、こちらに甘いものがあるよ」
エリオットが向こうから声をかけてくれた。奥には、エリオットとライアン兄さまが座っている。
ちなみに、今日はライアン兄さまの"奥さま"(こういう言い方をすると、兄さまはすごく嫌がる)のサフィーヤ義姉さまは、最初の儀式だけ参加して、すぐ帰っていた。
まだ対外的には婚約者としているので、あれこれ聞かれないようにするためだ。といってもサフィーヤ義姉さまは、あまり王国語は得意じゃないし、こんな大きなパーティーは気疲れするという理由もあるのだけれど。
……テーブルの上にはスイーツがいっぱい並んでいる。
うわぁ、甘いもの、うれしい……!
全員座って、まずは私とアナベル姉さまはお茶を飲んだり、スイーツを食べたり。
ディがそんな私たちをニコニコと眺めながら、「あ、そういえば……」と切り出した。
「あなたたちのお祖父さま、キャラハン辺境伯とご挨拶しましたわ。お強そうな方ね」
「そうね。片手で熊を殴り飛ばせるらしいわ」
アナベル姉さまが呆れたように肩をすくめる。ディは目を丸くした。
「まあ!本当ですの?!あなたたちのお祖父さまはどちらも…………そう、武闘派ですわね」
かなり言葉に迷った様子で、ディが言う。
たぶん、遠慮したんだろう。別に、筋肉バカってはっきり言ってくれていいのに。だって、どっちのお祖父さまも、問題は拳で解決するってタイプなんだもん~。
エリオットが真面目な顔で、ライアン兄さま、アナベル姉さま、私を見た。
「君たちは、あまり祖父君たちとは似ていないな。不思議だ」
「確かに。……あ、でも父上の兄君は、祖父に似た人だったらしい。とはいえカールトン家で、祖父のオーガストみたいなタイプは珍しいだろうねー。キャラハン家の方は、代々、筋骨逞しいようだけど」
ライアン兄さまが答える。私は「えっ?!」と声を上げた。
「お父さまにお兄さまがいたの?!」
「うん。あれ、アリッサは知らなかった?元々は、その方が当主になるはずだったんだよ。……事故で亡くなられて、それでちょっと家の中が荒れて……それで、あまりその話題に触れないようになっているからかな?」
し、知らなかった……。
一族のお墓に行ったことはあるけど、きちんと見て回ったワケでもないし。前世みたいに、○回忌とか、お盆のような風習もないもんね。
へええ。お父さまは、元は当主になる予定じゃなかったのね……。
話が一段落したところで、エリオットが改まった様子で口を開いた。
「ところで、明日はアルフレッド殿下の誕生日を祝うパーティーが行われるが……その前に、私たちだけで祝おうという話がある」
「パーティーの前に……?私たちだけで?」
私は首を傾げる。ディが「そう」と相槌を打った。
「父から回ってきた話がなのだけれど……マーカス殿下の意向らしいの。本当はもっときちんと計画したかったのに、いろいろとあって出来なかったみたいで」
あー……それの一番の要因は、ザカリーの件のあと私が寝込んだせいだよね。
エリオットがにっこりと笑った。ま、眩しい。
「私としても、友人として私的に祝える機会をもらえるのは嬉しい。明日も早くから支度することになるが、アリッサ嬢もアナベル嬢も、ぜひ参加して欲しい」
ふむふむ、ライアン兄さまはもう了承済みなんだ?
―――明日のパーティーは、午後遅くから始まる。今日のパーティーが遅くまで行われるため、明日の開始時間は遅めに設定されているのだ。
「うん!参加します!」
たとえまた、朝早くから準備するとしても。
そんなの、もちろん参加するしかないよね!
ということで、明日はみんなで一緒に昼食をしながら、アルを祝うことになった。
ただ、問題が一つ。
そのときに、みんな、プレゼントを渡すというのだ。
……え?
みんなの前で……私が刺繍した剣帯を渡すの?
うそぉ、そ、それはちょっと……!でも、今からダミーのプレゼントなんて、用意出来ない!
ていうか、マーカス殿下にアナベル姉さま、ライアン兄さまにはバレてるし!
バレてるけど、ディたちにまで知られたくないよぉ……。




