立太子の儀と、アルの誕生日パーティー
とうとう、マーカス殿下の立太子の儀と、アルの誕生日を祝う日が来た。
朝早くから(というか、夜中から?)みんな正装して、王城へ。
ちなみにゾーイ叔母さんは、お母さまが昔着ていたハートカットのビスチェドレスに、レースたっぷりのパフスリーブを足したなかなか華やかな衣装に仕上げた。
反対にお祖母さまは、ほとんど装飾のないシンプルなマーメイド型のドレス。それにレースのバルーンスリーブを付けた。
2人とも、肩幅はあるし二の腕の筋肉がすごかったりするんだけど……胸は豊かだし、腰はキュッと締まっていてスタイルがいいので、ビックリするほどステキなドレス姿になっている。
ゴドフリーお祖父さまが着飾った2人を見て、「誰だ?!」と仰天したくらい。
なので、「ありがと~、アリッサ!一生の思い出になったわ~!」と、ゾーイ叔母さんにすごく感謝されてしまった。
うふふ。
私も、喜んでもらえて嬉し~い!
王城の大広間に、たくさんの貴族が集まっている。
うちは四龍家なので、最前列だ。
お父さまは、壇上。陛下と並んでいる。
あ!シンシアさまと、ザカリーもいた。
セオドア兄さまにちらっと聞いたところによると、言葉を発せないようにしたり、いろいろ封じられての参加らしい。外から見た限りでは、全然分からない。
シンシアさまも、壇上でニコニコとしている。けれど、やつれた感じは隠し切れず、このあとザカリーの病気療養ということで地龍公爵のラヴクラフト領に一緒に移る予定だけど……これじゃ、ザカリーじゃなくシンシアさまが病気みたいにも見えるよ……。
ちなみにザカリーもニコニコと楽しそうな顔で列席していた。
―――そこから、立太子の儀はとにかく長かった。
陛下と大神官による儀式、冠の授与、マーカス殿下の宣誓。そして延々と続く各国からのお祝い。
そのあとは、パーティーだ。
このパーティー、どうやら夜中まで続くらしい。そのうえ、3日間もパーティーするんだって~。
ひぇ~~~。
「アリッサ!抜け出すわよ!」
どれくらい経ったときだろう?
急にアナベル姉さまが現れ、引っ張り出してくれた。
私は今まで、ろくに貴族社会の社交をしていなかった。そのせいで、私と誼を結ぼうとたくさんの人たちに囲まれて挨拶責め状態。
最初はお母さまの影に隠れていたんだけど、いつの間にか1人になってて泣きそうだったので、本当~に心の底からホッとした。
「姉さま、ありがとー!」
「こんなに人が多いんじゃ、アリッサを見つけるのも苦労するわ。……別室にディたちがいるの。そこで、しばらくのんびりしましょ」
わ~い!
別室に入る直前、騎士の1人から声を掛けられた。
「アリッサさま。地龍公爵がお呼びです。少しお時間をいただけますか」
「翁は、さっき壇上にいなかった?」
私が答える前に、アナベル姉さまが口を挟む。騎士は、姉さまに向かって頭を下げた。
「陛下とマーカス殿下が休憩に入られたので、四龍公爵方も交代で休憩されることになりました」
「……私も付いて行くわ」
「かしこまりました」
騎士は何も問い返さず、ただ、にこりと笑う。
……むー。
姉さま、私の身にまた何かあったら大変って考えてるのね。大丈夫って言えないのが辛いわー。
―――付いて行った先の部屋には、地龍公爵のダライアスさまと、シンシアさまがいた。他は、誰もいない。
アナベル姉さまが、シンシアさまの姿を見て息を飲む。
ダライアスさまはジロリと私たちを見たあと、シンシアさまに声を掛けた。
「アリッサ嬢と2人っきりにはさせられん。良いな?」
シンシアさまはこくりと頷く。
私とアナベル姉さまが顔を見合わせていると、ダライアスさまが何か低く呟いて、パチンと音がした。
……シンシアさまの首元を飾っていた首飾りが外れる。たぶん、喋れないようにしていた魔道具だろう。
外れると、シンシアさまは立ち上がった。
「アリッサさま」
囁くような、シンシアさまの掠れ声。
「あなたの命を狙った息子を赦してくださったこと……一言、御礼を申し上げたくて。翁に無理をいい、このような場を設けていただきました。ありがとうございます」
「シンシアさま……」
そしてシンシアさまは、深く、深く頭を下げた。
予想もしてなかった展開に、私はつい、おろおろしてしまう。
「あの……あの、顔を上げてください。私は、別に何も……」
「いいえ。詳しい経緯はあたくしには知らされておりません。しかし、アリッサさまはザカリーを赦しただけでなく、大変危険な魔法を使ってあの子を助けたことも聞きました。あたくしに返せるものなど、何もありませんが……謝罪と、御礼を……どうぞ、受け取ってくださいまし」
語尾が震え、ゆっくりと顔を上げたシンシアさまの目には涙が光っていた。
「あたくしは、これまでずっと、自分のことしか考えていませんでした。マーカスもザカリーも喪うところだったと知って……初めて、自分の愚かさに気づいたのです」
「……」
「あたくしは、母親失格ですね。子供たちの気持ちを考えたことはなかった。ザカリーが罪を犯したのは、きっと、あたくしがあの子を見ていなかったせいでしょう」
「そんなことは……」
言いかけて、私は口淀む。
ザカリーが私やアルを狙ったのは、前世の記憶のせいだ。シンシアさまのせいじゃない。
でも。
もし、シンシアさまがザカリーを我が子として可愛がっていたら?
ザカリーは前世に引きずられたりせず、違う生を歩んだのだろうか?
こんなのは意味のない仮定なんだろう。それでも、もしかすると、そうだったのかも知れない。
そう思ったら、私は何も言うことが出来なくなった。
シンシアさまはほろ苦く笑う。
「いいのです、アリッサさま。……あたくしは、やり直す機会をアリッサさまから頂きましたから。これからはザカリーと向き合い、一緒に罪を償ってまいります」
そう言って、シンシアさまは再び深く頭を下げた。
……うん。そうだね。
ザカリーを、大事にしてあげてね。




