前世は、怖い世界じゃないです!
文字数、多め…
あのときは朦朧としていたから!と何度言っても、お母さまは「わかったから、バンジーってどんなものか教えて」と譲らない。
なので、私は仕方なくバンジーの説明をした。
興味津々で聞いていたお母さまと王妃さまは、説明を聞き終わって顔を見合わせる。
「……アリッサの前世の国って、恐ろしいのねぇ。そんな処罰法があるなんて」
「罰じゃないよ!どちらかといえば……えーと、娯楽?」
「娯楽ですって?!そんなのを楽しむなんて……一体、どういう神経をしているの?!」
えぇ~、私だってやったことないし、やりたいと思ったこともないから分からないよ……。
でも、世の中には飛び降りるのが好きな人がいるんだと思う。バンジーどころか、もっと高い空の上からスカイダイビングする人もいるし。
「まあ、いいわ。とりあえずマックスに伝えてくるわね」
私が返答に困っていたら、お母さまは肩をすくめ、さっさと部屋を出て行ってしまった。
あああ……ザカリー……バンジーするのかしら。
王妃さまと2人になった。
ベッドの横に置いてある水差しを王妃さまが取る。
「もう少し、飲む?」
「はい。ありがとうございます」
いただいた水をゆっくりと飲んでいたら、王妃さまが「ああ、そういえば」と思い出したように手を打った。
「昨日、アルフレッドが帰国したの。アリッサちゃんが王城で寝込んでいると知って、かなりびっくりしていたから……後で、見舞いに来ると思うわ」
「……えっ!」
アル?!
アルが、帰ってきてるの?!
「あと、数日後くらいが……帰国予定だったような……」
「ええ、でもそれだと、式典ぎりぎりになるから、少し早めに帰ってきてみたい」
「そ、そうですか……」
ぎゃー、どうしよう!
悪いことはしてない……と思うんだけど、アルのいない間に全部勝手に終わっちゃったから。それって、たぶんショックだよね……?
マーカス殿下もちゃんと説明してくれたかしら??殿下が計画したってこと……!
オタオタしている私を他所に、王妃さまがほうっと溜め息をついた。
「実はね。アルフレッドってば、皇太子になりたくないと陛下に訴えていたんですって。陛下から、今回の件で初めて教えてもらったの」
「陛下と……そういうお話をされたんですか?」
「ええ。ザカリー殿下は王族としての地位を剥奪、シンシアさまは実質的にすべての権限を取り上げるけれども、マーカス殿下を皇太子にすることは変えない。何故なら、アルフレッドが皇太子になりたくないと言っているからだ、と」
王妃さまはほろ苦く笑った。
「アルが帝国へ1年も留学したのも、それでシンシアさまが納得するならと考えて受け入れたからだったんですって。自分は第二王子として兄を支えるというアルの決意―――陛下はそれを重く受け止めておいでなの」
そうなんだ……。
アルは陛下ときちんと話をした結果、留学を決めたのか。私には話してくれないまま行っちゃったけど、裏では大変だったのかなぁ。
「わたくし、本当はアルが王位を継ぎたくないと思っていること、うすうす分かっていたわ。だけど、わたくしにとって、この王城でアルだけが心の支えだったから……あの子には苦しい想いをさせていたのね」
「そんなことは……」
「うふふ、いいのよ。母親失格。あの子が生まれたときに、絶対、この子はわたくしが守ると誓ったのに。……わたくしは、あの子の幸せではなく、自分の理想を押しつけるだけの駄目な母親になっていたの。アルを皇太子に、っていう」
……異国から嫁いでこられた王妃さまの辛い立場や、孤独。
アルはそれを分かっていたから、なりたくないと王妃さまには言えなかった。母親を失望させたくないって気持ちもあったんだろう。
ああ……私、王妃さまになんて言えばいいのかな?
だってアルに、王位なんか継がなくてもいいじゃんって焚きつけたのは私だもん……。
だけど、王妃さまは私を見て目を丸くした。
「まあ!アリッサちゃんたら、そんな心配そうな顔をしないで。……わたくしね、久しぶりに陛下とたくさん話をして……お互い、少し誤解があったことも分かったの。わたくし、子がなかなか出来ないことで随分、視野が狭くなっていたから。あのときから、いろいろとすれ違っていたのね。これからは、歩み寄って……もう一度、陛下とやり直してみようと思っているのよ」
そう言って、ふいにスッキリした顔で笑った。
「ということで、昨日はアルともきちんと話をして、これからはあの子の夢を応援するって決めたから!……ふふ、なかなか大変そうな夢だけど」
「どんな夢ですか?」
「あら!ごめんなさい、それは言えないの。でも、アリッサちゃん。あの子とこれからも仲良くしてやってね?」
「はい!もちろんです!」
むー。
アルの大変そうな夢って……何だろ?
もう少し寝た方がいいでしょうからと王妃さまが退出し、私はしばらくうつらうつらと過ごした。
もう起きて動き回れると思うんだけど、寝ようと思ったらまだ寝れる……。
うーん、頭があんまり働いてない感じ。考えなきゃいけないことがあるはずなんだけど……。
やがて遠慮がちなノックの音がし、王城の侍女が「アリッサさま、起きておられますか?」と声を掛けてきた。
「はい、起きています」
完全に寝ていたワケではないので、すぐに起き上がる。
中に入ってきた侍女は、ホッとしたように微笑んだ。
「マーカス殿下が、アリッサさまを見舞いたいと来られておられます。そのままで構わないと仰せなので……上に何か羽織られますか?」
「そうですね……何かありますか?」
「はい、お待ち下さい」
着ているのは可愛い寝巻きなので、別にそのまま見られても気にしないけど、まあ、やっぱり異性だし家族じゃないんだから、ダメだよね。
ケープのような上着を着せてもらい、ベッドの上でマーカス殿下を迎える。
「具合はどうだ、アリッサ嬢」
「まだ少し眠気はありますけど、もう大丈夫です」
元気よく答えたら、マーカス殿下はホッとしたようだった。
「良かった。……君に礼を言いたくて来た。ザカリーとラミアを赦してくれてありがとう」
「そんな!……私は、単に自分のエゴで助けたようなものですから」
ベッドの横で立ったまま頭を下げたマーカス殿下に、私は慌てて止めるようお願いする。
あれが正しいことだったかどうか―――そもそも私は、ただ好きなことを言うだけ言って、意識を失っただけだし。決して礼を言われることじゃない。
だけど、マーカス殿下は笑う。
「アリッサ嬢のおかげだよ。君が命をかけて、ザカリーを助けた。である以上、ザカリーの処遇も君の意に添わせるべきだろうと陛下が仰せられたんだから。……私が皇太子になれるのも、だから君のおかげだ」
「……将来、良い王さまになってくださいね」
マーカス殿下に非はない。
ないけど、立太子に私が貢献したというなら……これくらいはお願いしてもいいよね?
「もちろん私も、四龍の一員として、協力はしますので!」
「はは、よろしく頼む。……私はまだまだ未熟だ。アリッサ嬢や、四龍、アルフレッド、みなの協力がないと駄目だと思う。ザカリーの件も、"ほんの出来心だった、周りの人間に唆された"―――と泣いて謝るなら、内密に収められるかと簡単に考えていた。そんなはずもないのに」
そっか。
でもそれは……仕方ないんじゃないかなぁ。
私だってザカリーの犯行の動機、予想外でホント、ビックリしたし。
「マーカス殿下って、優しいお兄ちゃんですね~」
「どうかな?我が身の保身を考えていただけかも」
「そんなことないです」
ザカリーに歩み寄ろうと努力してたもん。
それに、異母兄弟のアルのことも今は大事にしてるしさ。良いお兄ちゃんだと思う。
「前とは違うザカリー殿下と、ぜひ、新たな関係を築いていってください」
「ああ。……驚くほど、素直で可愛くなったよ、ザカリーは。天恵がなければ、元はそんな子だったんだろうなぁ」
へえ……。
もしかすると前世も、そうだったのかもね。素直で、周りの言うことをどんどん飲み込んで、それでいっぱいいっぱいになったとか。
ま、想像だけど。
「では、もう失礼する。起きたばかりなのに、無理をさせて申し訳なかった」
「いえいえ、別に体が辛いとかは無いので……」
もっとおしゃべりしても構わないんだけど。
すると、マーカス殿下は真剣な顔になった。
「いや、あまり長居する訳にはいかない。というか、見つかるとまずい」
「誰に?」
そのとき、扉が開いた。
「……ーカス殿下が話をされていまして……!」
慌てた侍女の言葉を遮るように、冷ややかな声がした。
「あれ?兄上はこちらにおられたんですか?」
……ぎゃー!
冷風が流れてくる……!
部屋に入ってきたのは……もちろん、アルだった―――。
一難去って、また一難(難って言うなとアルフレッドに怒られそう)
今年最後の更新です。また変なところで終わってしまいましたが…
みなさま、良いお年を!




