処罰の内容
眠るラミアさんだけを籠に残し、他の者は隠者の塔を出て王宮へ移動する。
お父さまが教えてくれたんだけど、私がお父さまから渡されたお守りの指輪、あれにウォーレンさんが特殊な魔法を掛けていて、私が攻撃を受けた際、隠者の塔へ転移するようになっていたらしい。
なるほど~。
でもそれ、事前に説明してくれても良かったんじゃないかなぁ。ビックリしたよ……。
ところで。
隠者の塔の階段を上がろうとしたら、体がすごく重くて私は上がることが出来なかった。
どうして?
まさか、さっきの光魔法のせい?
壁に手をついて、必死で足を引っ張り上げていたら、お父さまが慌てたように私の横に膝をついた。
「どうした。怪我をしたのか?!」
「えと……なんか、体が重くて……」
するとウォーレンさんも横に来て、心配そうな目で私を見た。
「さ、さっき……ザカリー殿下にかけた、ま、魔法は……体への負担が……大きすぎる……」
「え??そうなんですか?ただ体が重いだけですけど……」
「ひ、人の魂にまで……さ、作用する魔法は……き、君が思うより、術者の……魔力、体力を使う。へ、下手をすると、術者の……い、命が、け、削られる……」
うそ?!そんなに??
お父さまが青い顔になった。
「ウォーレン殿!アリッサは……」
「た、たぶん、大丈夫……し、しばらく魔法を使わなければ……」
お父さまはホッとしたように頷き、私を抱き上げた。
「お父さま、歩けます!」
「馬鹿者。たった一段でも足が上がらんのに何を言っている。まったくお前は、本当に……無謀にも程がある……」
だって、命を削るなんて知らなかったんだもん……。
―――陛下は、風龍公爵と水龍公爵のお二人と一緒だった。
他に、扉の横に騎士団のオーウェン団長さまもいた。
ちなみに、陛下のいる部屋に着いた頃には、私はものすごい睡魔に襲われていたのだけど……頑張って目をこじ開ける。今、寝るワケにはいかない。
陛下は、ダライアスさまの横にいるザカリーを見て、溜め息をついた。
ザカリーが鎖は解かなくていいと言ったので、彼は鎖に縛られたままだ。
「……マーカスの言うとおりだったか」
メイジーさまが足早にこちらに来て、私を覗き込む。
「随分と辛そうだが……どこか、怪我を?」
「いえ、大きな魔法を使った後遺症のようです」
私の代わりにお父さまが答える。メイジーさまは頷き、「分かった」と言って、足早に部屋を出て行った。
そのあと。
私はお父さまの膝の上で、メイジーさまが持ってきてくれた不思議な味のお茶を飲みつつ、うつらうつらと皆の話を聞いた。メイジーさまがくれたお茶は、魔力回復の効果があるお茶だそうだ。
マーカス殿下の説明、辿々しいウォーレンさんの補足。
最後にザカリーが、「どのようなバツも、うけるつもりです」と言うのを聞いた。
ちなみに、私は治癒の魔法でザカリーの魂の傷を治し、結果として前世の記憶を消したんだけど、その部分は"アリッサ嬢が帝国で教えてもらった魔法で"という説明になっていた。
違うけど……訂正しなくてもいいか……。なんか、頭も回らなくなってきたよ。
そんな私を、陛下がすごく困った顔で見る。
「アリッサ嬢。命を狙われたのは君だ。だが……君はザカリーを許すというのだね?」
「許す、許さないではなく……罪を犯したのは、今のザカリー殿下ではないので……」
「だが、罪は罪だ。そもそも、ザカリーが本当にすべて忘れたのかどうか、確かではない。それに……たとえば酔って暴れ、記憶がないとしても、罪は償わなければならないだろう?」
ん~……?それとは、少し、中身が違う気が……。
あー、ダメ。
眠くて、思考がまとまらない。
「そうだとしても、罪を犯したのは前世のせいです……それなら、裁くのは前世の法で。でも、ザカリー殿下は……未成年だから……えーと、少年法だとどうなるんだっけ……?」
うう、そんなの、覚えてないよー……。弁護士も裁判官も目指してなかったもん……。
えーい、もう、いいや!
「じゃあ、分かりやすく……目には目を歯には歯をってことで、どうでしょうか。私、すごく怖い思いをしたので……ザカリー殿下も、怖い思いをしてもらいたいです……」
「怖い思い?」
「えーと……バンジー。バンジー、してもらいます。この世界に、ビヨーンって伸びるロープがないから、足が痛いかもだけど……」
「ばんじー……」
室内がざわざわとする。
だけど、私は周りを見る余裕がない。
落ちてくる目蓋を必死で持ち上げながら、陛下にお願いする。
「ザカリー殿下はバンジーで許してあげてください……。どうか……どうか、ザカリー殿下には寛大な処置を。そして……ラミアさんも。ラミアさんは、そうですね、魔法を使えなくして……今後は、普通の平民として生きていくというのも……十分、罰になるかと……だって、城の生活しか知らないんですから……。カ……カールトン領で、預かる……の、で……」
そう、うちの領で。ラミアさんも、ラクみたいにやり直す機会を。
ああ……もうちょっと、ちゃんと話を……しなくちゃ…………。
―――目が覚めたら、知らない部屋だった。
どこだろう?
身体が重だるい。そして、すごくお腹が減ってる。
もそもそとベッドの中で動いていたら、お母さまが覗き込んできた。
「ああ!ようやく目が覚めたわね。おはよう、お寝坊さん」
「お母さま……」
その後ろから、王妃さまがひょこっと顔を出す。
「良かったわ、なかなか目覚めないからとても心配していたのよ」
「王妃さま」
と、いうことは。
ここって、もしかして王城?
お母さまが私の背中に手を入れ、抱き起こしてくれる。
「まだ眠いかも知れないけど……ちょっと起きて、食事をしなさい。あなた、5日間も眠っていたのよ」
「5日も?……えっ、あ、あの、ザカリー殿下は?!ラミアさんは!!」
話し合いの最後、どうなったんだっけ?
私、自分が何を言ったか、いまいちよく覚えてない……!
私があたふたしたら、お母さまは呆れた顔になった。
「今さら慌てても遅いでしょ。先に、自分の体力を回復させなさい!」
うう、そうなんだけどー……。
病人用のパン粥みたいなのを食べつつ、お母さまから詳しい話を聞いた。
ザカリー殿下は、重い病気のため王族の地位を降り、地方で療養する―――という形を取ることになったそうだ。シンシアさまと一緒に。
「えっ、シンシアさまも?」
「ええ、そうよ。……シンシアさまには、天恵者うんぬんの話はしていないみたいだけどね。ただ、ザカリー殿下が、アルフレッド殿下やアリッサの命を狙った、と」
うわぁ、急にそんな話を聞かされたら、ビックリだろうなぁ。
王妃さまが肩をすくめる。
「ついこの間まで、マーカス殿下が皇太子になるって、あの人、鼻高々だったのよ。それが三日前に会ったら、すっかり小さくなっちゃって。わたくし、嫌味を言うことも出来なかったわ」
ふうん……。
でも、マーカス殿下が皇太子になるのは、変わらないそうだ。良かった~!
そしてラミアさんも、ウォーレンさんにより魔法封じをされて、カールトン領で預かるらしい。
「マックスがぼやいていたわよ、また騒動の種を領に持ち帰るのか、って。そもそもアリッサが、言うだけ言って突然意識を失うから、本来なら四龍や陛下できちんと処罰を決めなきゃならないのに……あなたの意見を採用せざるを得なくなったんだから」
えへ。
そうなんだ。陛下、ごめんなさい。お父さま、ごめんなさい。
すると、お母さま「あ!」と手を打った。
「そうそう、起きたら、"ばんじー"とはなんなのか、聞いておいてくれって言われていたんだわ。ねえ、ばんじーって、なんなの?」
「ばんじー?なんの話……?」
「あなたが言ったんでしょ?」
「ばんじー……バンジー?あの、高いところから落ちるやつ?どうして?」
お母さまと王妃さまが顔を見合わせた。
私は、ブラックアウトする前の会話を思い出そうと首を捻る。
言ったような気もするし、言ってないような気もするし……。
「アリッサが、ザカリー殿下にばんじーをさせるって」
「私が?」
「目には目を……とか、あなた、面白いことを言ったらしいの」
あああ……!
そういえば、言った……言ったよ。目には目を歯には歯を。
で、咄嗟に思い付いたのが、バンジーだった。あの場で、何を言ってんの、私。
「ザカリー殿下が、アリッサの言う罰はすべて受け入れますって言うから、今はあなたの説明待ち状態よ」
ひえー、ど、どうしよう?!
バンジーって、罰になる人とならない人がいますよね~
はたして、ザカリーはどっち?!




