傷を治したら……?
ブライト王国に帰ってきてから……イーザさんに言われた言葉を思い出し、ふと気になったものがある。
それは、私が"全属性の魔法を使える"、というやつ。
一般的に全属性といえば地水火風の四属性を指す。
でも、もしかすると。
闇や光も含まれていたりする?、と……。
ただ、帰ってきてから忙しかったせいで、それを確かめるヒマはなかったのよね。なかったけれど……私が魔法の勉強をし始めた最初の頃、どの魔法が使えるか自分では分からなかったので、すべての属性の魔法を試した。
だから光の魔法―――治癒の魔法の呪文は知っている。
それを、ザカリーに使ってみたら……どうだろう?
発動したら、魂の傷を治せるかも知れない。ダメだったとしても、何も起きないだけだし。
よし。
私は訝るマーカス殿下や、険しい顔のウォーレンさんを押しのけた。
これから試すことを説明して、ウォーレンさんに反対されても困る。
なので、そのまま、籠のなかで眠るザカリーに治癒の魔法を掛けた。それはもう、全力で。
―――辺りは、真っ白な光で包まれた。
「何を……したんだ……?」
マーカス殿下が呆然とした様子で呟いた。
その横で、ウォーレンさんも目を見張っている。
「こ、これは……!」
やばい。身体がめっちゃ重い。
重力が十倍になったみたい。
ぺちゃりと座り込んで、私は肩で息をした。
よく見ると、ザカリーの隣で寝ているラミアの傷が消えている。……ザカリーの魂の傷を治すつもりだったんだけど、一緒にラミアも治しちゃったみたい。
でも良かった、やっぱり私は光の魔法も使えるんだ。
ていうか、魂の傷は治せたのかな?
そのとき、ザカリーが身動きした。
私は治癒の魔法を使ったけれど、これは光の魔法なので、ウォーレンさんの闇魔法効果を消してしまったのかも知れない。
ザカリーは目をパチパチとさせて、私を見た。
「……」
「……」
「……きみは、だぁれ?」
えーと。
こ、これはもしかして?
「……アリッサ」
「ぼくは、どうしてこんなところにいるの?」
記憶、消えた……???
ラミアも目を覚ましてしまったため、ウォーレンさんがもう一度彼女を眠らせ、その横で、マーカス殿下がザカリーと話をした。
……上の方で扉を叩く音が続いているけど、仕方がない。
ザカリーは、この国の名前や自分の名前は言えるし、マーカス殿下の名前も知っていた。だけど、マーカス殿下を見ても不思議そうな顔をしている。
名前と、目の前の人物が一致していないという感じだ。
ワケが分からなくて困っている様子に、さっきまでの他人を拒否するトゲトゲしさは完全に無くなっていた。また、自分が籠の中にいて、鎖に縛られていることにも驚いている。
たぶん、前世の記憶は消えたんだろうけど、それ以外の記憶も……だいぶ無くなっている……のかな……?
なんとなく……精神年齢が5~6歳くらいの感じが……。
前世を思い出したという3歳までは退行してないようだけど。
マーカス殿下が混乱した顔で私を見た。
「これは……つまり、前世の記憶というものが無くなったのか?」
「たぶん……」
「火龍公爵に、どう説明をする……?」
あーーー……、そういうこと、全然、考えてなかった……。
ウォーレンさんが塔の扉を開けに行き、降りてきたのは、お父さまと地龍公爵・ダライアスさまだ。
あれ、ルパート閣下はいないんだ?
そしてお父さまは、階段の途中で私を見つけるなり、飛び降りてきた。
「アリッサ!」
「お、お父さま!苦しい!」
すっごい力でぎゅーっとされて息が出来なくなる。
「無事で……良かった……」
……ごめんなさい。私、お父さまの寿命を縮めまくっているよね。
ダライアスさまが呆れたように肩をすくめながら、辺りを見渡した。
「で。……ラミアとザカリー殿下が犯人ということか?」
「えーと……それが……」
マーカス殿下がちらりと(約束を破ったな?)という目でこちらを見る。お父さま以外には、言わないと約束した件だ。
私はマーカス殿下に心の中で謝りながら、お父さまの腕から抜け出して、籠の中で怯えているザカリーの前に立った。
「ザカリー殿下は、私と同じ天恵者でした。でも、もう違うんです」
「違う……?それは、犯人かどうかという話とつながるのか?」
「ザカリー殿下が私を狙ったのは、天恵―――つまり、前世の記憶のせいでした。だけど、前世の記憶は消えたので、ザカリー殿下は犯人だけど、犯人ではなくなったというか……」
「…………」
ダライアスさまの眉が寄った。そして、低い声で言う。
「……何故、記憶は消えた?」
「それは……私が消したからです……。帝国に行ったとき、天恵者の里を訪ねてそこの長と話をしました。その方が、記憶の消し方を教えてくれたので……」
……ホントはちょっと違うけど。
まあ、ヒントをもらったんだから、あながち間違いじゃない。
私の横で、お父さまが呻いた。
「アリッサ……どうしてそんなことを……!」
「だって……ザカリー殿下は、前世の記憶で苦しんでいたから……」
「だが、それで済む問題ではない!」
「でも!私もアナベル姉さまも無事だったもん!……前世の記憶がなければ、殿下はこんなことをしなかった。悪いのは、全部、前世の記憶のせい。だから消したの。ということで、今のザカリー殿下に、罪はありません!」
マーカス殿下が目を見張った。
ダライアスさまが片手で頭を押さえる。
「信じられん……」
形相を変えたお父さまが、私の両肩に手を置いて私を覗き込む。
「アリッサ。殿下の罪をお前一人の判断で勝手に消すなど……やってはならないことだ……!」
「では、私を罰してください。前世の殿下は、自分を殺せと言いました。私は言われた通りに前世の殿下を殺したようなものです。それが罪だというなら、償います」
「アリッサ……!」
怒られても、もう、やったことは戻せない。
私は、ギュッと目を瞑った。
だって前世のザカリーは救えないけど……代わりに、せめて、今世のザカリーは救いたいって思っちゃったんだもん。仕方ないじゃん。
分かってる。
私やアル、アナベル姉さまが大きなケガでもして後遺症に苦しんでいたら、こんなことはしなかったって。これは、私のエゴだ。
だとしても。
「……アリッサ嬢を罰すというなら、私も罰して欲しい」
マーカス殿下の硬い声が聞こえた。
「そもそも私は、事を大ごとにせず収めようと考えていた。……ああ、そうか。こんな私が皇太子になるのは、間違っているな……皇太子はアルフレッドに譲り、ザカリーと共に王族の地位を捨てよう」
「マーカス殿下?!」
お父さまのぎょっとした声。
私も思わず大きな声を出しそうになった。
マーカス殿下、そ、それはちょっと……待って……アルは、皇太子になりたくないのに……!
「まってください。……ぼくが、まちがったことをしたんですね」
そのとき、籠の中から震える声がした。
「ちゃんと思いだせませんが、すごく、どろどろした気もちはおぼえています。兄うえや、アリッサさまではなく、わるいことをしたぼくが、ばつをうけます。お二人は、わるくない」
「ザカリー殿下……」
えええ~???
前世の記憶がなくなったザカリー、超いい子じゃん……?!
ダライアスさまが大きく息を吐いた。
「ここで話していても、埒があかん。陛下も交えて、話をするぞ」
はーい……。
終わる終わる詐欺…(でも、残るは沙汰だけだし!)




