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もしかして悪役令嬢 ~たぶん悪役令嬢なので、それっぽいフラグを折っておきます~  作者: もののめ明
アリッサ8才

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私の役割

 ……誰も、"自分"を褒めてくれない、か。

 前世はたぶん裕福なお家だっただろうし、今世も王族の生まれだ。他から見ると羨むような環境なのに、愛されていないと感じたら……生きていくのは苦痛になるものなんだろうか。

 ああ、そういえば初めてアルに会ったときも、アルはすごく冷めた目をしてたっけ。マーカス殿下もちょっと面倒な人だった。

 異母兄弟がいて、親からも周りからも比べられ、優劣をつけられ、無条件に愛されるワケじゃなかったら……やっぱりそんな風になっちゃうのかな……。

 私だって、今世は王家に次ぐ公爵家の生まれだけど……四龍家はみな、家族愛が深い。

 そうだよねー、私って……すごく恵まれているよね……。

 盛大に泣きじゃくるザカリーを見ているうちに、私は苦しい気持ちになった。

 そっと手を伸ばし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃのザカリーの頭を撫でる。それからハンカチを取り出して、彼の顔を拭いた。

「やめ……ろ……憐れみなんか、いらない……」

「憐れみじゃないよ。私の方がお姉ちゃんだからね。よしよししてるんだよ」

「バカに……するな、僕は赤ちゃんじゃない……」

「はいはい」

 止めろという割りに、ザカリーは顔を拭き終わってまた頭を撫でても、じっとしていた。

 前世でも今世でも。

 彼は、頭を撫でられたことはないのかな……。

 私の後ろで、マーカス殿下が身じろぎし、遠慮がちに声を掛けてきた。

「アリッサ嬢。話の半分も分からなかったが……君はその、ザカリーと何か、関わりがあったのか……?」

 関わりというか。

 同じ転生者ってことだけなんだけど。

 どう説明したらいいんだろう。

 目を瞑り、頭を撫でられていたザカリーも、ぎゅっと身を縮める。

「えーと、詳しい話は、あとでします……」

「そうか。……そうだな」

「ゆ、ゆゆゆ、許すの、第三王子を?それに、ラ、ラミアも」

 冷たい声で割って入ったのは、ウォーレンさんだ。

 灰色の瞳が、ひたと私に据えられている。ちょっと怖い。

「許すも何も……それを決めるのは、陛下じゃないかと……」

「分からない。き、君は、もう、怒っていない。ど、どうして……自分をこ、殺そうとした者を、ゆ、許せるの?あ、あああの、赤い目の子も」

 あ……私が、もう怒ってないことを言ってるの?

 どうしてかって……うーん、そんなの、私だって分からない。

 だけど、それこそ私が、"恵まれている"からなのかも知れない。憐れみとか、そういうのじゃない。幸せを知っているから、それを知らない者の苦しみを、軽くは扱えないのだ。

 私の知らない苦しみのせいで辛いのに、その苦しみを知らない私が、安易に断罪していいのだろうか?その前に、まずその苦しみに寄り添ってみる必要があるのでは?、と。

 まあ、寄り添われても……相手はきっと、余計なお世話だと感じるだろうけどさ。

 でも幸せじゃない者同士で傷を舐め合ったり、ザカリーみたいに全部壊してしまおうとするのは、不健全だし無意味だ。

 普通は、誰もが幸せになりたくて、もがいているんだと思う。だったら……幸せな人が少し手伝った方が良くない?

 ―――前に、ラクのことでセオドア兄さまと話したあと、ずっとずっと、私は私なりに考えてきた。

 この世界で、四龍家の一人として生まれ、そんな私に出来ること。

 罪は罪として罰する必要はある。けれど、罪を赦し、その人の苦しみに手を差し伸べる―――私の役割はそれかな、と。

 ……もちろん分かってるのよ、綺麗ごとだって。

 だけどラクを助けた以上、私は他の人にも手を差し伸べなければならないと思うのだ。

 とはいえザカリーが私を殺そうとした理由は、はっきり言って幼稚だけどね!

「えーと……とりあえず、私は無事だったし。殺されそうになったから殺すっていうのは、ちょっと違うかなって思って」

「…………」

 ウォーレンさんは苦しそうに顔を歪めた。

 ウォーレンさんって……過去に何があったのだろう。ラクのときもそうだったけど、すごく厳しい空気を感じる。

 しばらく無言のまま、ウォーレンさんは立ち尽くしていたけれど、ふいっと顔を背けた。

「……と、塔に……ひ、人が近付いている。た、たたた、たぶん、火龍公爵だと思う……。このまま……2人を、ひ、引き渡す……」

「殺せよ!」

 ハッと顔色を変えて、ザカリーが叫んだ。

「イヤだ、もう僕は……終わりにしたいんだ!」

「駄目だ!」

 私が何か言う前に、今度はマーカス殿下が悲痛な声で遮った。

「そんな……簡単に殺せと言うな。私は、お前ともっと、ちゃんと話したい。アルフレッドとは分かり合うことが出来た。ザカリー、お前とも私は話をしたい……!」

「話すことなんてない」

「ザカリー……」

 ぎゅっと口元を硬く結んで、ザカリーは押し黙る。

 私はつい、要らぬ一言を言ってしまった。

「あなたは王族だから……死刑はないんじゃないかな。どこかに幽閉とか……」

「え?」

 ザカリーが絶望的な目で私を見る。

「そんなの、イヤだ……」

 うん、まあそうだよね。

 とはいえ、どうしたら……いいだろう?


 意識を失ったままのラミアと、呆然としているザカリーは、ウォーレンさんによって大きな鳥籠のようなものに閉じ込められた。私が前に閉じ込められた、あの籠だ。ウォーレンさんの腕の一振りでどこからともなく現れた。

 その籠に、これまたどこからともなく黒い大きな布が現れて、ふわりと被せられる。

 布が籠を完全に覆う前に、ザカリーがくたりと頭を垂れたのが見えた。

「ね、念のため、眠らせたよ……自害されても、こ、困るから……」

 そ、そっか。たぶん、そんなことはしないと思うけど、その方がいいよね。

 ―――遠くで、ドンドンという音が聞こえた。

 たぶん、塔の入り口だ。お父さまや、他の皆が来ているに違いない。

 マーカス殿下が悲しそうに溜め息をついた。

「アリッサ嬢を危険な目に遭わせると分かっていて……こんなことをしたのは、ザカリーと、ちゃんと話をしたかったからなんだが。ずっと、自分のことに手がいっぱいで、兄らしいことをまったくしなかった。遅すぎたな。私の責任だ……」

「そんなこと……ない、と思います」

「いや、さっきザカリーがアリッサ嬢に語った件、よく分からない単語も多かったが……要は、誰からも相手にされなくて辛いということなんだろう?母上は、私を皇太子にさせようとして、私ばかりを構っていた。そして私もザカリーと話をすることもなかった」

 うーん……それはそうなんだろうけど……。

「ザカリー殿下も、私も、天恵者なんです。この件は、そのことが原因です。……あ!あの、マーカス殿下は、天恵者って何かご存じですか?」

「え?……あ、ああ。少しだけ、聞いた。特別な知識を授かった者のことだと。そういえば、アリッサ嬢はそれ故に狙われたという話だったか……」

 あら、マーカス殿下も知っているのね。じゃ、話は早い。

「すまない。天恵とは、そもそも、どういうものなんだ?」

「特別な知識じゃなく、前世の記憶なんです」

「前世?」

「生まれる前の、別の人生の記憶です。といっても、完全ではないんですけど」

「別の……人生の記憶……」

 マーカス殿下の目が丸くなる。

「それは……大変そうだな……」

「どうなんでしょう?ちょっと混乱する部分はありますけど。でもまあ、ザカリー殿下はその前世で辛かった記憶があるせいで、こんなことをしたみたいですね」

 マーカス殿下はハッとした。そして、覆いのかかった籠を見る。

「なるほど。前世の記憶のせいか……」

「はい。それがなければ、こんな風にはならなかったはず……」

 もちろん、"たられば"の話だけど。

 とはいえ、前世の記憶が邪魔をしなければ魔法は普通に使えただろうし(私も前世の記憶のせいで、魔力瘤が出来たもんね……)、悪役令嬢のことは知らないから私を狙うこともなかった。

 ……前世の記憶が消せたらいいのに。

 私は、ちらっとウォーレンさんに視線を向けた。

 難しい顔で籠を見つめていたウォーレンさんがそれに気付いて、こちらを見る。

「ひ、火龍公爵を……な、中に……」

「うん、でもその前に……ウォーレンさん、記憶を消すことって出来ますか?」

「記憶を……?」

 ウォーレンさんの眉間にシワが寄った。

「……せ、精神を、あ、操ることは……た、たたた、大罪だ」

「操るんじゃなく、消すだけです。不要な記憶で苦しんでいるから、それを消したら……楽になれるんじゃないかと」

「も、もし、前世の記憶を消すことが出来たとしても……い、今の人格形成に、お、大きく関わっているから……ザカリー……殿下は、は、廃人に……な、なる可能性が高い。……まあ、、そ、そういう罰を与えるというなら、わ、わかる……けど……」

 いやいや、罰するんじゃないって!

 でも、そうだよね……。試験に落ちた記憶だけ消すというのとは、種類が違うもんね……。

 そもそも前世の記憶って、生まれ変わるときのバグみたいなもんだし。イーザさんは、魂に傷って言ってたっけ。

 あれ?

 じゃあ、壊すんじゃなく、魂の傷を治したら…………?

ごめんなさい…やっぱり無理でした……次話でこの件、片をつけます!

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― 新着の感想 ―
いつも楽しく読んでます! 流石に無罪放免はないだろうしね〜 どこかの時代劇のように、罪は罪だけど死んだことにして別人で生きていくとか、権力持つ人が見逃すパターンはこの世界では無理だろうな〜?! マ…
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