パーティーのあとは…
マーカス殿下の頼みといえども、この件に関しては安易に「じゃ、行きます!」と引き受けるワケにはいかない。
せめて、お父さまには相談させて欲しい……と渋る殿下を説得し、なんとか了承を得た。
マーカス殿下も、本当は誰か信頼できる人間を巻き込まなきゃいけないのは分かっているようだった。
でも誰に話せばいいのか、難しかったらしい。お父さまを巻き込むことが決まって、ちょっとだけホッとした顔になっていた。
ただ、私には何度も「確証はないぞ?私の疑念だけだからな?もしかすると、何も起こらないかも知れぬ」と念押しはしたけれどね。
私も思わぬ名前に、すごく驚いている……。
ということで、その後のパーティーは全然、楽しめなかった。
せっかくナイジェルくんとも会えたのに。
あと、メイジーさまともお喋りをしたかったなー……。
パーティーが終わり、夜も更けた頃。私はまだ着替えをせず、部屋で本を読んでいた。
扉を叩く音がし、お父さまが顔を覗かせる。
「どうしても今日中というから来たが……なんだ、まだドレスを着たままなのか?今日は朝早くから支度していたから、もう疲れているだろうに」
「うん……でも着替えたら、寝ちゃいそうだったから……」
お父さまは大股で椅子に座る私のそばまで来て、膝をついた。そっと頭を撫でてくれる。
「そうか。待たせてすまなかった。……では、さっさと話を済ませて、アリッサが眠れるようにしよう。なんの話だ?」
はあ、ようやく肩の荷が下ろせる……。
さっそくお父さまに、マーカス殿下から王城へ来て欲しいと言われたこと、またその理由も話した。
話を進めるうちに、お父さまの眉間には深いシワ刻まれてゆく。
「マーカス殿下が何故、その人物がお前を襲った犯人かも知れないと思ったのか……その訳は聞いたか?」
「何かの折に、私が無事だったことをなんて悪運が強いんだ……と言ったからだそうです。ほとんど関わりがないのに、どうしてそんなヒドイことを言うのだろうと思った、と。それで、その後に機会があるごとに、私の話題を少し振ってみて、疑念が増していったみたいで……」
「なるほど」
ていうか、もし本当にその人が犯人だとしたら。
どうして、そんなに私を憎んでいるんだろう。
私とおんなじ、転生者……だと思うんだけど。悪役令嬢ポジになりたいとか、それは無いはず。
そもそも、この世界は、ゲームの世界じゃないと思うし。
私がぼんやりそんなことを考えている横で、お父さまも難しい顔で顎に手を当て、考え込んでいる。
しばらくして、重い口を開いた。
「この件に関しては、マーカス殿下には申し訳ないが、四龍全員で共有する」
「え、でも……」
「殿下がなるべく事を大きくしたくないと考える気持ちは分かるが、もう、うちだけで解決できる話ではないんだ」
「そ、そうなんだけど……でも、あの、あの、殿下は別に、王太子の地位に固執してるワケじゃなくって。ただ、まだ疑念の状態で、騒ぎにしたくないというか……」
「大丈夫だ」
お父さまは優しく私を抱きしめてくれた。そのまま、諭すように言葉を続ける。
「その辺りも、ちゃんと理解している。悪いようにはしないから、アリッサは心配しなくていい。もちろん、マーカス殿下もだ」
ホントに?
ホントにそれなら……いいんだけど……。
ああ、それにしても……。
この件、ちゃんと解決できるのかな?そもそも私は……冷静でいられるだろうか?
私が殺されかかったことより、アナベル姉さまが危なかったことの方が、いまだに許せないのだ。思い出したら、全身が凍りそうになるほど、恐怖も感じる。
姉さまがもう元通りだから、普段は考えないようにしてるけれど……。
そして、2日後。
私は王城へ行くことになった。
急な話に、お母さまが不安そうだ。
「どうして、こんなときに王城へ?」
「マーカス殿下と、アルの誕生日プレゼントの件で話をするからだよ」
「でも、この間、商会の方に来ていただいたじゃない」
「殿下がお忙しいんだもん。仕方ないよ」
お父さまが私の肩を抱く。
「私も一緒に行くから、問題はない。立太子の儀で、いずれ王城へは行くのだ。予行演習みたいなものだよ」
お母さまは納得していない顔だ。もしかすると、私が王城へ行く理由を、薄々気付いているのかも知れない。
だけど深く息を吐いて、私を優しく抱きしめてくれた。
「気をつけて……いってらっしゃい」
「はい。お母さま」
うん。ちゃんと、帰ってくるからね!
王城までの馬車の中で、お父さまは私に指輪を渡してくれた。
「これは……?」
「まあ、気休め程度のお守りだ」
あらら。
アルからもらったブレスレットにネックレスもあるのに、とうとう指輪まで!
私、一体どれだけ、お守りを装備しているんだか。
それよりも、私がカッとなって特大魔法を繰り出さないよう、制御するアイテムがあった方が良かったりして?
とはいえ、お父さまの不安も分かる。
今日も眉間にシワが寄っているお父さまの手を、私は握った。
「ありがとう、お父さま」
「守りは、万全を期しているつもりだが……何があるか分からない。本当に……気を付けなさい」
「はい」
ちなみにマーカス殿下には、他の三龍家に伝えたことは内緒にするらしい。
約束を破ったことをどう謝ろうかと考えていたけど、とりあえず何も言わなくていいのでホッとしている。
それから……今日の私の護衛はイアンだ。
さらに、王城ではウォーレンさんも目立たぬ形で付いてくれるんだとか。
「どうして、ウォーレンさん?」
それを聞いて、私はちょっとビックリした。だって彼は、基本的には隠者の塔から出ないと聞いているのに。
すると、お父さまは声をひそめた。
「……マーカス殿下の予想が当たっていた場合。アリッサに接触してきた侍女の存在が気になるからだ」
「ふうん……?」
んんん?
それは答えになってないよ、お父さま?
でも、お父さまの厳しい表情に、私はそれ以上を聞くことは出来なかった……。




