魔法の実演と……デート
桶の中の水を塊のまま、ゆっくりと浮かせる。
アッシャーくんの目が大きく見開いてキラキラ輝き、宙に浮く水に釘付けになっている。
―――昨日、アッシャーくんに約束した魔法を、私は朝から庭で披露していた。
派手な火の魔法にしようかと思ったけど、小さな双子ちゃんたちもいて危なそうだ。なので、安全そうな水の魔法を選んでみた。
浮かべた水の塊の形を変えてゆく。
平べったくしたり、真四角にしたり、鳥の形にしたり。
「す、すごい……!」
最後に、水を気化させて霧状に変える。ついでにこちらから光を魔法で出現させて当てると……
「わあ、虹だぁ!」
アッシャーくんは興奮して虹の中に突っ込んでいった。
「アリッサお姉ちゃん、すごい、かっこいい、天才!!」
ふふふ。そうでしょ、そうでしょ!
これ、簡単そうに見えて、結構繊細な操作が必要なのよ~?
私がアッシャーくんの様子ににんまりしていたら、アッシャーくんの後ろで見ていたライリー叔父さまが目を丸くしていた。
「えええ~、ほんと……すごい!今、同時に2つ使っているよね?まだ学園に行ってないのに、そんなに使えるのかい?僕より完全に上手いよ……」
ライリー叔父さまは魔法は得意ではないそうで、アッシャーくんが見せて欲しいとお願いしても、全然見せてくれなかったそうだ。
お祖父さまが満足そうに頷く。
「ふむ。すっかり安定して使えるようになったな。ここまで細かい操作が出来るとは、見事なものだ」
えへへ。魔力瘤を治してから、毎日、だいぶ地道な練習したもん。
すると、いつの間に来ていたのか……お祖父さまとバートのそばにはアルがいて、叔父さまと同じように目を真ん丸にして虹を見ていた。
「アリッサ、こんなに繊細な魔法を使えるんだ……」
「姫はすごいですよ、殿下。海の上で船員が魔物に襲われたのを見事に助けましたしね」
「えっ?!」
バートの言葉にアルがぎょっとする。
「船で魔物に襲われて、アリッサは戦ったんですか?!」
「ふふ、さすがに戦ってはいませんけどね。でも、魔物の足に一撃は与えたかな?見事なものでした」
「バート!褒めてはならん。調子に乗って魔物退治に行くと言い出すぞ」
2人の間に慌ててお祖父さまが入った。
……言いませんって、そんなこと。
お祖父さまやバートの戦いを見てたけど、ぶしゅっ、ぶしゃっ!って、血とか肉とか、結構生臭くて気持ち悪かったもん。
さて、その後は……なんと、アルとデートです。
だって、婚約者のフリをするって約束だからね。
護衛は、ウィリアムさん。そして、少し離れたところからバート。
お祖父さまもついていくと言って譲らなかったんだけど、お祖父さまは妙に目立つので(バートは上手に気配を消して人混みに紛れられるのに!)、お祖母さまから却下された。
うん。お祖父さまが後ろで見てると思ったら落ち着かないから、ちょっとホッとした~。
―――帝国の庶民の服で出掛けたけれど、私とアルは目立っていた。
ブライト王国に比べると、帝国は肌も髪色も多種多様な人が溢れている。それでも、私のような赤い髪はかなり珍しく、またアルのようなキラキラした金髪も少なかった。
帝国では、金髪といえばもっと色の薄い白金……プラチナブロンドの人が多いらしい。
「な、なんか注目集めてるね……」
「うん。でも、普通にしていればいいよ。もう少ししたら、フロヴィンの実家の商会だから。中へ入れば、大丈夫」
「うん……」
周りの人たちは、ヒソヒソ話をしているワケじゃない。だけど、ほとんどの人がこちらをチラチラ見ている。
そんななかアルと手を繋いで歩くのは……少し恥ずかしい。どうやら、みんな、私たちが何者かは分かっているようだ。
「ブライト王国から第二王子が帝国へ留学してるっていうのは、わりと帝都では有名な話ですから。容姿も知られていますしね。ということで、変な声かけをする人はいないと思いますよ。国家問題になりますもん」
ウィリアムさんがニコニコとそう教えてくれた。
なるほどぉ。
じゃあ、このデートはアルの虫除け対策としてはかなり効果的なんだね。
「あ、ところでアリッサさま!」
「はい?」
「僕のこと、"さん"付けで呼ばなくていいですからね。ウィリアムでも、ウィルでも、どちらでもいいので気楽にお呼びください」
「え、でも……」
「バートさまより、僕の方が下ですから!」
そっか……じゃあ、遠慮なくウィルって呼んじゃおう!
ところで今日のアルは、なんだかいつもよりキラキラ具合が割増しだ。見慣れているはずの私でも、眩しいっ!って感じる。
そして。
「あの建物は国立図書館、その隣にあるのは博物館で帝国の歴史を学べる場なんだよ。向こうの少し背の高い建物は……」
通りを歩きながら丁寧に教えてくれるんだけど、その間ずっと、優しい笑顔で……なんてゆーか、愛おしそうな目で私を見る。
……アル、9才だよね?
子供だよね?
そ、そーゆー恋人へ向けるような顔をするのは早いんじゃないかな?
おかげでどういう対応したらいいか、私、すごく困るんだけど。
というか、そんなに露骨に好き好きアピールしなくてもいいと思うの。こういう手繋ぎデートで十分じゃない?
だってさ、ほら……私もちょっと勘違いしそうになるし。
私は中身が子供じゃないから、もっと年上の人がいいと思ってるはずなのに。今日は、ホント……アルにドキドキしてしまう。
アル。
お願い、そのキラキラ光線は……ヤメテー!




