ライアン兄さまの対戦相手は……?
ライアン兄さまが戦うと聞いて、ファラ姫は真っ青になった。
「そ、そんな、それは無茶デス!相手はこの国一番の戦士、使う武器も我が国の宝刀です。ライアンさまが敵うとは思えません!」
そ、そうなんだ……。
でも。
「お祖父さまが反対しないってことは、ライアン兄さまも充分、強いってことだと思うの。我が家はブライト王国の四龍、王国の盾。国の有事の際は真っ先に剣を持って戦うから、兄さまたちは、みんな、すごく鍛えてるし」
まあ、魔法を使った攻撃が出来ないのは厳しいけれど。
ただね、魔法剣が使えるなら、たぶんこの国の人より兄さまの方が魔力量は多いからなんとかなりそうなのよね……。
戦いの場は、あの太陽神の神殿だ。
中央の台(というか、太陽神の象徴)は、なんと驚いたことに宙に浮かんでいた。
真ん中に嵌めこまれていたのは見たことがないほど大きな聖輝石だし、周囲の紋様には魔法陣が隠されている。だからたぶん、ブライト王国の神殿にもある魔法陣と同じように、古い魔法なんだと思う。あれだけ大きな聖輝石なら、起動する魔力も少なめで使えそうだ。
それにしても。
神殿で戦うの?と私は思ったけれど、神聖な誓いの下に行うものだから、当然らしい。
さて……兄さまの相手として現れたのは、2メートル近い大男だ。
腕や胸板の厚みがエグい。こんなゴツい人か世の中にはいるんだって正直、ビックリ。
アシャム国は天井が低かったり廊下が狭かったりする場所も多々あるから……あの人、生活、大変じゃないのかしらん。
サフィーヤ姫は、婚約話が暗礁に乗り上げた時点でどこかの部屋に閉じ込められていたらしいけれど、ムサハカが決まってからは神殿預かりになっていた。
今、姫は聖導師と共に現れ……大男の前に立つライアン兄さまを見て小さな悲鳴を上げた。
「ライアン!あなたが……あなたが戦うの?!」
兄さまは、サフィーヤ姫の無事な姿を見てホッとしたようだ。少し硬いけどニコッと笑って手を振る。
ただ、兄さまは同じ年の少年たちと比べてもやや小柄な方だからか、大男の前にいるとホント、簡単に叩き潰されそうに見える。
大丈夫って思っていたけど……この圧倒的な体格差、剣の一撃をまともに受けたら、すっごくヤバそう~。
だ、大丈夫かな……。
ツン、と私の袖が引かれた。
振り返ると、テッドが眉間にシワを寄せている。
「どうしたの?」
「妙な動きをしてるヤツらがいる」
「どこ?」
「あの赤い髪飾りの女性の後ろ、それから向こうの子供たちの後ろ……」
テッドの指す方を見るけど、どの男が妙なのか分からない。
するとメアリーも目をすがめながら、そっと教えてくれた。
「たぶん、吹き矢を持っていますね。あれで何かするつもりじゃないですか?一瞬、細い筒のようなのが手に見えました」
「えっ。も、もしかして毒矢?!」
「それはないだろ」
リックが考え込むように顎を触りながら首を振る。
「突然、毒で倒れたら大騒ぎになる。それよりも、小さな礫を飛ばすんじゃないかな。それだけでも、ライアンさまの足止めになるし」
なんて卑怯な!
そんな手段を使うなんて、一国の王として、恥ずかしくない?!
憤慨していたら、テッドが腰の剣に手を掛けて、低く聞いてきた。
「どうする、お嬢。ざっと分かるだけでも、2、3人はいる。あいつらに難癖でもつけて、ここから離れさせるとしても……人数が多い」
「ムリだよ、異国人の私たちが動き回ったら目立つよ。……ちょっと待って、他の方法を考える」
私が魔法を使ったら、やっぱり目立つかな……?どうしよう。
私たちがこそこそ話しているからだろう。
気がつくと、いつの間にかバートが私の横に来ていた。ムサハカの見届人として、お祖父さまとお祖母さまは、国王や聖導師と一緒にいる。バートは、そのお祖父さまのそばに付いていたはずなのだけど。
「姫。どうされた?」
「バート……」
私は、急いでテッドの見つけた怪しい男たちの話をした。
バートは鋭い視線をさっと会場に走らす。
「確かに、少し妙な男たちがいるなと思っておりましたが……姫の護衛は良い目をしておられる。ふむ」
ちょっとだけ考え込んでから、すぐにバートは笑顔になった。
「大丈夫。私が対処します」
ホントに?!
「任せてください。ああ、ちょっとテッドもお借りします。オーガストさまも全体に目を配っておられるから、そうそう過剰な妨害は出来ないと思いますが……姫は、他にも怪しい者がいないか、気を付けて会場を見ておいてください」
はーい!
ライアン兄さまの一世一代の大舞台だもんね。
誰にも邪魔はさせないよ!




