私もちょっとお手伝いするよ!
アシャム国では、娘の結婚相手は父親の一存で決まる。だけど、娘が想う相手と結ばれるための手段が一つだけあるそうだ。
それがムハカマ。
太陽神アーヤヌールの前で宣誓し、父親の代理人と一対一の決闘をするのだ。
申し込んだ男側が勝てれば、娘と結婚出来るらしい。なお、男側も代理人を立てることはOKとのこと。
―――ファラ姫に教えてもらったそのことを、すぐにライアン兄さまやお祖父さまに伝えたら、お祖父さまは腕まくりをした。
「よし、今すぐ儂が決闘してくるぞ!」
「ダメだよ!」
ライアン兄さまが硬く大きな声を出す。
「それは、僕がやるべきことだ。僕が決闘する」
……やだ。兄さま、めっちゃカッコいい!
外国人の私たちがムハカマを知っているとは、アシャム国王も思わなかったらしい。とても苦々しい顔をされた。
でも、王さまへ言う前に、太陽教の聖導師にムハカマの申し込みをしたので、王さまの方は受けざるを得ない。
アシャム国では、太陽神殿の力は国王に匹敵するらしいのだ。
ムハカマは、明日の日の出と共に行われることとなった。
お祖父さまは大騒ぎだ。
「ライアン。儂の槍を使え」
「お祖父さまの槍は、僕にはまだ使いこなせないよ!」
「む……では、こちらの剣を」
「だから、お祖父さまの道具はどれも重いからさぁ。それより、使い慣れた自分のものがいい」
その騒ぎの横で、お祖母さまが私を見る。
「魔法は使っては駄目なの?」
「剣や盾に魔法が施してあるのはいいけど、魔法での攻撃はダメだそうです。たぶん、この国はそんなに魔法が発展してないから……」
そもそもアシャム国は、魔力の高い人間が少ないらしい。
そんななかサフィーヤ姫は珍しく魔力が高かったため、それで、魔法を学ぼうとブライト王国へ留学を決めたのだとか。
「そう。残念ね。ライアンの魔法攻撃は、かなり巧みなのに」
「でも、道具に魔法を施すのがいいなら……ちょっと、兄さまを手伝えるかも知れません」
うん。
いいこと、思いついちゃった。
旅の最中に使う目的で持ってきた魔道具用の魔石を、いくつか貰う。
この魔石は、いうなれば前世の電池みたいな役割で持ってきたものだ。そんなに質の良い魔石ではない。
他に、ファラ姫が聖輝石のくず石を分けてくれた。
なんとアシャム国の特産(?)は聖輝石なのだ。市場には出回らない透明度の悪い石や小さい石を、他の国の魔石のような使い方をしているらしい。
「これをどうするの?」
お祖母さまとバートが興味深そうに尋ねてくる。
ちなみに、ライアン兄さまはお祖父さまと特訓中だ。明日に備えてムリのないよう、あくまでも軽く。
「印を描いて、武器の強度や機能を上げます」
「印で……?」
「普通は石に刻むものなんですけど、それだととても時間が掛かるので……簡易的に石に直接、描きます。たぶん、刻んだ物と比べれば6割くらいしか作用しないんじゃないかな……」
それでも、無いよりマシだ。
インクに糊(これもファラ姫に貰った)を混ぜ、石に印を描いていく。
私の横では、メアリーが紐を編んでいる。印を描いた石を紐で編み込んで、ミサンガみたいに兄さまの腕につけてもらうのだ。石は武器につける方がいいと思うけれど、今から嵌めこんだりするのはムリそうだしね。でもまあ、対象を指定しておけば、ちゃんと作用するはず。
それにしても粘性のあるインクで印を描くのは難しい。ただ石に彫るのと違って、描いてすぐなら描き直しが出来るのは助かるけど。
「わたくしも手伝いたいけれど、無理そうね……」
お祖母さまは描き終わった石に触れないよう、遠目で眺めつつ溜め息をつく。
バートは、感心したように私の手元を覗き込んだ。
「印の刻まれた石を買ったことはありますが、姫はご自身で印を刻んだり出来るんですな。その印はどのような効果が?」
「これは、風の魔法の威力を増す印です。兄さまの剣は風の魔法が組み込まれているので。そっちは、衝撃を緩和する印です」
せっせと紐を編みながら、メアリーが目を丸くする。
「お嬢さま、こんなヘンテコな印をよく覚えてるものですねぇ」
まあね。
アルにあげるため、いろいろ調べたし、彫る練習をいっばいしたからね。人生、何が役に立つか分からないもんだわ。




