いろんなことが、気になる
地下の国の観光は明日以降!なんて言っていたライアン兄さま。
でも実は、着いたばかりで疲れていたからではなく……サフィーヤ姫と2人でゆっくり過ごす時間が欲しかったせいみたい。
私が兄さまの部屋へ突撃したあと、ほどなくして兄さまがサフィーヤ姫に会いに行ったと侍女の一人がそっと教えてくれた。ちゃんとプレゼントも持って。
ほほう。兄さま、恋愛はヘタレかと思ってたけど、そうでもないじゃん。さっそく行動開始するなんて!アドバイス通りに、プロポーズするかしら。
……うう、見に行きたい。
すんごく見たい。ライアン兄さまがキメるとこ。
でも……さすがにそんな野次馬なことしちゃ、ダメよねぇ?
その夜、お祖父さまやライアン兄さまたちは歓迎会に出席した。
私やお祖母さまは、王妃さまと別室で食事会だ。この国では、女性と男性はあまり一緒に過ごさない……らしい。
王妃さまは物静かな方で、通訳を交えてお祖母さまとのんびり挨拶をしている。その間、私は初めての料理に興味津々だ。
香りからもう、全然違うんだもん、これは気になるぅ!
テーブルの上には、たくさんの料理が並んでいる。
一人に一皿ずつ出すのではなく、みなでシェアする食べ方なのね。それとこちらでは、フォークやナイフを使わず手で食べるらしい。
ひゃっほう、手掴み!
一度、やってみたかったんだ!
でも、外国人用にフォークやナイフも用意されていた。お祖母さまはフォークとナイフを使ったけれど、私は、三の姫と呼ばれるファラさまに教わりながら、手掴みに挑戦する。じょ、上手には食べれない……。
んん~、お肉は、ちょっとクセがあるけど、柔らかくて香辛料が効いてて美味しいかな?
なんの香辛料だろう?
お料理は本当にたくさん並んでいて、食べながらも目移りしてしまう。全部、一口ずつ食べるのってムリかなぁ……?!
お腹いっぱいになった食事会のあと。
私に割り当てられた部屋のベッドでゴロゴロしていたのだけど。
ふと思い立って、お祖母さまの部屋へ行った。
お祖父さまたちはまだ歓迎会から帰ってきていない。
お祖母さまは部屋で静かに、持ってきた本を読まれていた。
「あら、どうしたの、アリッサ」
「うん。……少しだけお祖母さまとお話したくて」
「いいわよ。こちらへいらっしゃい」
お祖母さまはそれまで一人掛けのソファに座っていたが、私を招いて、三人ほど腰掛けられるソファへ移る。
私は遠慮なくお祖母さまの隣に座った。
「ねぇ、お祖母さま。お祖母さまは、お祖父さまからどんな風に結婚の申し込みをされたの?」
「まあ!急に何を聞きに来たのかしら?……ふふ、でも残念ながら、アリッサが期待するような素敵な申し込みではなかったわね」
「お家同士で勝手に決まったのですか?」
やっぱり貴族だし。
すると、お祖母さまはおかしそうに肩を震わせた。
「いいえ。……わたくしが血だらけのオーガストにハンカチを差し出したら、その場で結婚してくれと言われたの」
「……えーと、それは初対面のとき?」
「そう。顔の半分が血で真っ赤で、金の瞳で睨まれて……わたくし、魔物に食べられる仔羊になったかと思ったわね」
怖~。
全然ロマンチックじゃない~。
もっと詳しく教えて!とお祖母さまにねだったけれど、「また、そのうちにちね」と教えてくれなかった。
うー、気になる件が増えた!
今度、お祖父さまにも聞いてみよう。一体、何がどうなってそんな申し込みをしたのか、ワケがわかんない。
他にも少しお祖母さまと話してから部屋へ戻ると、ライアン兄さまが待っていた。
「どこへ行ってたの?」
「お祖母さまのとこ」
「ふうん。……あのさ。明日、朝食後にサフィーヤが少し案内してくれるから。それを言いに来た」
「ほんと?やったぁ」
地下の国、見て回れるのね!
それと、ようやくサフィーヤ姫に会えるのも嬉しい。食事会のときはいなかったし。
今回の件の主役だから、ライアン兄さまが出席した歓迎会の方に参加したのかな。
喜んでいる私に、ライアン兄さまはビシッと指を立てた。
「ただし!この国はちょっと特殊だから、あまりあちこち見て回れるとは期待しないように」
「……はい」
まあ、異国人だし。そこは、ちゃんと割り切っているよ。
本音を言えばこんな変わった国は、隅から隅まで見たいけどさ。
「それと……」
これで用件は済んだはずの兄さまが、ぽそっと低く呟いた。
俯いて、横を向いている。
どうしたのかな……?
「ん?なに、兄さま」
「……サフィに贈り物を渡したら……泣かれたよ」
「えっ」
急な告白に、私は目を丸くした。
まさかアシャム国では、婚約のときに贈り物をしたら、良くない意味になるの?!
私は慌てたけど、よく見れば兄さまは赤い顔になっている。
……あれれ?
「……渡すときにさ。サフィのことを愛してる、これからずっとそばにいて欲しいって言ったんだ」
言いながら、兄さまはますます真っ赤になった。
「そしたら……嬉しいって。そんな風に誰かから必要とされたことはなかった、同情から婚約話を持ち掛けられたんじゃないかってずっと不安だったって。……ありがとう、アリッサ。アリッサの言う通りにして、本当に良かった」
「あ……うん」
もう、何それ、めっちゃ紛らわしいんですけど!
と思ったけれど、私は優しい妹なので言うのは止めておく。兄さま、きっとかなり勇気を出したんだろうし。
……カワイイとこあるなぁ、兄さま。
つい、ニヤニヤしてしまう。すると、兄さまも急にニヤリと笑って私を見た。
「そうそう!将来、アリッサに婚約を申し込みたいっていう男が現れたらさ」
「ん?」
「そいつに、アリッサはこういうのが好きだからってこっそり教えておくことにするよ」
「あっ、もう!」
私はからかっている顔の兄さまの背を、ポコンと叩いた。
「バカにしてるでしょー!」
「あはは」
協力してあげたのに、ひどいんだから。
そのままポコポコ背中を叩き続けたら、兄さまは私を抑えて、頭をぐりぐりした。
きゃあ、痛~い!
それと、これはアシャム国では重罪でーす!
「ま、僕が甘い台詞を吐くなんて似合わないし、サフィだったから感動してくれたけどさ……でも、そうだね。アルフレッド殿下なら似合いそうだなぁ。アリッサもさぁ、殿下に言われたら、グラッとくるだろ?」
「へ?」
ここで、なぜ、アルの名が。
でも。
「アルに言われても別に……」
「えっ、どうして?!」
「だってアル、普通にプレゼントくれるときにサラリと乙女心くすぐること言うもん。言い慣れてると思う。……あ、そっか、わかった!ライアン兄さまみたいに、普段言わない人が言うと効果が高いんだ?」
「あ……そう……うん……」
え?なに?
どうして、そんな残念そうな目で私を見るの?
私、甘い台詞にグラッとこない鈍感女じゃないよ!例えば……うーんと……そう、ダライアスさまとか、ルパート閣下が言ったらドキッとすると思うなぁ。
……たぶん。
アルフレッドにたまにドキドキすることはすっかり忘れているアリッサ……。




