兄上と密談
更新遅れました…!
そして、文章量多めです…
リバーシ大会の裏で起きた出来事を兄上には黙っているよう、火龍公爵から言われたが……僕は迷っていた。
僕だったら、絶対に教えて欲しい。
兄上と僕の今の関係性を考えても、黙っているのは間違いな気がする。あとで僕だけ火龍公爵から詳細を聞いていたことを知れば……確実にヒビが入ってしまう。
昔、兄上にはいじめられた。あの時の兄上は本当に最低だったと思うが、その後の兄上は王太子に相応しくあろうと努力を重ね、どんどん変わっていっている。
シンシア様が犯人だとしても、そうでなかったとしても―――今の兄上ならば王太子として最善の手を尽くすよう腐心することだろう。
僕がもうすぐ帝国へ留学することを考えても、兄上には詳細を伝えておきたい。アリッサを少しでも危険から遠ざけることが出来るかも知れないし。
僕を信用し、話してくれた火龍公爵には申し訳ないが、悩んだ末に僕は兄上に打ち明けることを決めた。
「アリッサ嬢が狙われている……?」
「という見立てのようです」
「すまない、私はテンケイシャというのは初めて聞くんだが……」
いつものグレアムの執務室で兄上と密談する。
兄上は身を乗り出して、真剣な表情になっていた。
「この世ならぬ知識を授けられた者のことをそう言うらしいですよ。でも、膨大な知識のせいで精神的に不安定になることが多いとか」
「ふうん。……特別な知識、か。なるほど、だからアリッサ嬢は他の者とあれほど違うのだな……。彼女が常人ならぬ知識を持つがゆえに、殺したいということか?恐れるほどの知識ってなんだろうな……。で、犯人は我が離宮で消えた、と……?」
シンシア様の離宮ということは、兄上の現在の住まいでもある。
「……アルフレッドは」
だから、ためらうように兄上が言葉を押し出した。
「私のことを疑っていないのか?」
僕は落ち着いて答えを返す。
「疑っていたら、このことを話す訳がありません。ああ、それと。四龍も兄上は疑っていないと思いますよ」
「母上は?」
「……正直、分からないとしか言えません。シンシア様がこんなことをするメリットはない。だからといって、やっていないというほどシンシア様のことは存じ上げていませんし」
「そうだよな……」
力なく呟いて、兄上は溜め息をついた。
子供っぽく肘をつき、手に顎を乗せる。
「そもそも私だって“母上はやっていない”と言い切る自信はない……。毒殺を計画するほどひどい人ではないはずだけど、短慮で唆されやすい面があるのは確かだ。母上の実家のホッジ家にいたってはかなり上昇志向が強くて、母上は半分、言いなりな部分もある」
どこか遠いところを見つめながら、独り言のように言葉を続ける。
「小さい頃から私に“お前こそが王太子だ、第二王子のアルフレッドに負けるな”と言われ続けたし。イライザ様やコーデリア様を敵視しているし」
そして突然、がっくりと突っ伏した。
「アルフレッド……疑わしいのに、教えてくれて……ありがとう。お前の信頼に対して、恥ずかしくない兄であれるよう、努めたいと思う……」
「兄上。兄上が、次の王太子です。僕はそれを支持し、そのために動くということを忘れないでください」
「いや、しかし……」
ああ、もう。兄上は、もしシンシア様が犯人なら、自身も幽閉されようと考えているようだ。
そうじゃない。そのために、僕は話した訳じゃない。
もし、シンシア様が黒幕または関わっているとして。
その責任を感じて兄上が王太子レースから降りられては困るのだ。今のうちなら、母親の罪を兄上まで負わなくて良い手立てを整えておくことが出来るはずではないか。というか、整えてもらわなければならない。
その時間を作るために、この話を兄上に打ち明けたようなものなのだから。
四龍も父上も、たぶん、兄上にまで責任を追及する気はないと思う。
父上の代は、王位争いでいろいろ揉めたと聞いている。まだ王位を諦めていない大公たちが、兄上がレースから降りることで変な野望を持たないはずがない。諸侯の間でもかなり評判の悪い大公たちを表に出さないためにも、四龍は力を尽くすことだろう。モラ湖の件やアナベル嬢の件の情報を諸侯たちにいまだ秘匿している点からも、秘密裡に処理するつもりでいることは明らかだ。
兄上には、踏ん張ってもらわなければならない。
ああ、それと。
今さら、兄上に隠すこともないよな。僕の今後の計画も話してしまおう。
「兄上。僕はアリッサが好きです」
「え?あ、うん……」
わざわざ分かり切っていることを言い出して、なんだ?という顔でこちらを見られた。
「だけど、僕はアリッサと婚約する訳にはいかない。何故なら、僕を次の王太子にという波が大きくなるからです。そして、火龍公爵は四龍のバランスの関係から、王家との縁付きは望んでいない」
「そうなのか……。火龍公爵から直接、言われたのか?」
「はい。コーデリア様は母上の友人で、母上を応援したいから僕とアリッサを婚約させようと考えている節はありますけどね。だけど、火龍公爵がそれを認めることは絶対にない。僕もそれが正しいと思います。国の荒れる原因になりかねない」
この国を守る盾として、火龍公爵は職務に忠実だ。たとえアリッサが僕を好いて、婚約したいと言い出しても了承しないだろう。火龍家が四龍の中で過度に力を持ち過ぎることを防ぐために。
兄上は頷いた。
「だから……アルフレッドは王位継承権を捨てるんだな」
「そうです。僕は王位を継ぐ気はないし、第二王子という立場も要らない。だから兄上。兄上が、絶対に王位を継いでください」
真っ直ぐに兄上の目を見て、宣言する。
はっきり口に出せて、胸の内がすっきりした気分だ。反対に、兄上は唇を噛んだ。
「……アルフレッド。だが、たとえ私が王太子に決まったとしても、継承権第二位がザカリーでは駄目だ。大公たちも、正直、不安しかない。お前が王族の地位を捨てたくても、それこそ四龍が納得しないと思う」
「分かっていますよ。だから兄上はさっさと婚約者を決めて、学院を卒業したらすぐ結婚して子供を作ってくださいね」
「とんでもないことを軽く言ったな?」
「厳しい道はお互い様です」
「確かにまあ、そうだが……というか、そこまで決意しているのに、アリッサ嬢と誓いあったわけでもないんだろう?お前の方こそ、すごい賭けをしていると思うよ、アルフレッド」
ぐっ。
痛いところを突かれた……。なるべく考えないようにしているのに。
「余計なことかも知れないが」
ふと、兄上が語調を変えた。
心配そうに覗き込まれる。
「人の気持ちなんて、変わる。お前は、これから先もずっとアリッサ嬢のことを好きでいられるのか?私はそこまで人を想い続けられるか、自信がない。王侯貴族の例にならって、義務的な結婚の方が楽ではないかと思っている。父上と母上も、愛はなくとも、それなりの関係性は築いているように見えるからな。……まだ、時間はあるんだ。慌ててすべてを決めてしまうな」
シンシア様と父上?
そういえば、二人はどんな風に話をするんだろう。僕の母上は、元々あまり父上と話さないし、この頃は完全に父上を避けているから、愛のない結婚って虚しいものだな……と思っていたけれど。
シンシア様と父上は違うのだろうか。
「僕の気持ちも……確かにいつか変わるのかも知れません。でも、もう2年ほど揺らがずにいるので。そう簡単には変わらないだろうなと思っています」
「そうか。……アルフレッドは初代国王陛下に似ている。気性も似ているのかもな」
「初代国王陛下に?」
思わぬことを言われて、つい、首を傾げた。
僕の金髪と、青い瞳の色はそっくりだと確かに言われたことはある。肖像画を見る限りでは、顔まで似てはいないが。
「初代国王陛下は、幼馴染みの女性ただ一人をずっと深く愛しておられたそうだよ。四龍が愛情深いのは有名だが、王もかつてはそうだった。いつから王族は愛から遠くなったんだろうな」
「そんなことは……ないのでは」
「そうか?王族は、親族間でもいがみ合いが多い。四龍の家族仲の良さは羨ましいくらいだ。ああ、そういえば。気難しい地龍翁でも妻一筋だ。風龍公爵が独り身を貫いているのは、叶わぬ相手を想っているからだと聞いたこともある」
僕はそういう話に興味がなかったので全然知らなかった。
ふうん……地龍翁は妻一筋なのか。風龍公爵も、風変わりな人だからとしか思っていなかったけれど。そんな隠された想いがあるとは。
「そのことを考えれば、王位を継ぐのは愛を知るアルフレッドの方がやはり正しいのかも知れないなあ……」
とんでもない呟きに、僕は顔をしかめる。
「止めてください。王は、やる気と覚悟のある者がならないと。僕は、まったく、ありません」
「ふふ。そうはっきり言い切れるのは、羨ましい。王位を継ぐのだと言われ続けて、私は他の道なんて考えたこともなかった。覚悟があるかと問われても、本当にあるかどうかも分からない」
「継ぐのは自分だと思い、そのために努力をしている。それで充分でしょう」
ま、嫌でも継がざるを得ない場合もある。それを思えば、僕も兄上も、そうじゃないだけ幸せなのかも知れない。
次話からアルフレッドは帝国へ。
でもすみません、ちょっと切り替えが必要なので、
来週の更新はお休みして、再来週に更新再開します。
23日再開のつもりですが、もしかすると少しズレるかも……?




