宝物が増えてゆく
意識を失ったアリッサを、彼女の護衛の女性が近くの長椅子まで運んだ。淀みなく軽々と運んだので、意外と力はあるようだ。
ウォーレンは両手を握り締めて真っ青な顔になっている。ウォーレンのことも気遣うべきなのだろうけれど、僕にそんな余裕はなく……横たわったアリッサの手を握り締めて、ただただ彼女の様子を見守る。
やがて目覚めたアリッサは、まだ不安定なままだっけれど―――僕のことは分かるようだ。良かった。
僕を見て、金の瞳を揺らしつつも問い掛けにはちゃんと答えてくれて、更にホッとした。
そのあとは、お茶を飲ませて、なるべくどうでもいい話でアリッサの気を逸らせるようにする。少しずつアリッサの瞳には力が戻ってきて―――たぶん、もう大丈夫だろう。
部屋の隅で存在感を消すようにじっと見守っていたウォーレン、ウィリアム、アリッサの護衛の3人も、ようやく肩の力を抜いたようだった。
アリッサは一度、カールトン家のタウンハウスへ帰ったあと、午後から正式に王城へ来ることになっている。
兄上と3人でリバーシ大会のことを相談するためだ。だけど、こんな状態のアリッサを来させるのは不安だ。午後は中止しようと提案するものの、アリッサは首を振った。
「ううん。もう落ち着いたから、大丈夫。何かすることがある方がいい」
「……分かった」
僕としても、アリッサの様子が見守れるからもう一度来てくれる方がいいけれど……本当に大丈夫かな?
そんな僕の心配を他所に、アリッサは転移陣の間の前で、「あ!」と立ち止まった。
そして護衛に声をかけて何やら受け取り、それを僕に差し出す。
「あのね、アル。えっと、これを……」
「ん?なに?」
「誕生日プレゼント……」
一瞬、息が止まった。
さっき、アリッサはあんな状態だったのに……!それなのに、こんな些細なことを思い出してくれるなんて。
思わず笑顔になってしまった。
アリッサがアリッサでなくなって、僕のことを分からなくなるかも知れないという恐怖は、瞬く間に溶けて消える。
そのうえ、照れたように僕の前で視線を彷徨わせているアリッサは、もう、いつものアリッサだ。
「ふふ、気にしなくていいのに」
「アルの方こそ。あんな可愛いクマのぬいぐるみをくれるんだもん。何をプレゼントしようか、すっごく悩んじゃった」
「見てもいい?」
「……どうぞ」
どきどきしながら袋の中身を取り出す。
出てきたのは革製の剣帯だ。飾り玉が付いている。その玉には、印があった。
たぶん……アリッサが彫ったものだ。
「これは……衝撃が軽くなる印?」
「そう。剣を打ち合ったときの衝撃緩和がメインだけど、身に付けていたら、身体に掛かる物理攻撃全体に効果はあるはずなの。でも、あくまでも軽減だからね?その代わり、防御の印なら一回の攻撃で壊れるけど、これはそう簡単には壊れないんだって」
「えっ、それはすごい」
僕も最近はいろいろと印のことを調べているけど、さすがアリッサ。印の選び方が上手い。
しかもこの石は……。
「聖輝石?」
「うん。一番、力が強い石」
無色透明のその石は、入手の難しいものだ。
僕のために……最善の印や石を考えてくれたことが分かって、じーんとしてしまう。
「もったいなくて、使えないなぁ」
「ダメだよ、普通に使ってくれなきゃ!式典で使うような、刺繍入りのやつじゃないんだし」
「んー、でも剣帯自体、初めてもらったから。まだ僕は剣術の練習時しか剣を持たせてもらえないからね。毎回、騎士見習いから借りているんだよ」
初めての自分の剣帯が好きな子からの贈り物だなんて。幸せすぎる。
本当に、これ、使わずに飾ろうかな。
アリッサもニコニコとしているので、ふと、冗談めいてちょっとだけおねだりをしてみた。
「いつか……刺繍入りのやつも欲しいな」
「えっ……」
その途端、アリッサはおろおろとした。頬を赤らめて上目遣いで言う。
「し、刺繍は……その、へ、下手だから……」
「そっか。残念」
下手でも全然いいんだけど。
でも、予想外に恥ずかしがる可愛いアリッサが見れたから、それで良しとしよう。
いつか、アリッサから僕に贈りたいって思われるよう……頑張らないとね。




