そんな酷い怪我をするとは聞いてない
その後。
お茶を楽しみつつ雑談をする僕たちの元に、兄上やアナベル嬢が戻ってきた。僕らも何もなかったけれど、兄上たちの方も何も起こらなかったようだ。
やはり、こんな見え見えのお茶会で犯人は動かないか……。
さて、そろそろアリッサたちが帰るという頃になり、ライアン殿が少し緊張した面持ちで
「マーカス殿下やアルフレッド殿下は、風の魔法は使えますか?」
と聞いてきた。
先ほど、アリッサから事前に説明を受けている。これから、ちょっとした小芝居をするらしい。
何も知らない兄上がライアン殿から風の魔法で回すコマの説明を受ける。
僕はさっき、アリッサとあのコマを回す練習を軽くしたけど……あれでアリッサが怪我をするって、どうするつもりなんだろう?
疑問に思いつつ、僕もコマを回す。
この回したコマ同士をぶつからせるらしい。
ふうん、面白そうな遊びだ。互いに魔法で回したコマをぶつけ合い、弾き飛ばされた方が負け。リバーシもいいけれど、単純で分かりやすいこちらの方が夢中になる者が多いかも知れない。
兄上はすぐには回せなかったので、僕とライアン殿で挑戦する。
掛け声に合わせ、コマをぶつけた。
キン!と高い金属質な音がして、コマが僕の方へ飛んでくる。
「あぶない!」
アリッサが片手を僕の前に出し―――バチン!というすごい音とともに閃光が走った。
「いっ……たぁぁぁ!」
「アリッサ!」
一瞬で血の気が引いた。
アリッサの手……真っ赤に腫れている!
目尻には涙が滲んでいて、恐らく予想以上の衝撃だったのだろう、ぶるぶる震えながら手首を握っている。
兄上が息を飲み、すぐに声を張り上げた。
「アリッサ嬢!……すぐに王宮医を!」
「ま、待ってください!だ、大丈夫です!!」
慌てた様子でアリッサが遮る。
「ライアン兄さまが……アルフレッド殿下を攻撃したと……取られては困ります。それに、わ、私の考えたオモチャですので……」
「いや、これは不慮の事故だ、私がそう証言するから……」
「大丈夫、です!ほら、ちょっと赤くなっただけで!もう痛くないですから!」
いや、そんなに真っ赤な手で、まだ涙目になっていてはさすがに嘘だと分かるよ、アリッサ。こんなことなら、冷ましたお茶をかける案の方が良かったじゃないか。こんなに酷い怪我をするなんて、聞いてない!
「お願いです、王宮医を呼ぶとどうしても記録は残りますよね?父にバレると兄さまも私もめちゃくちゃ怒られるんですー、大ごとにしないでくださいー!」
「お願いします、殿下」
横にいたライアン殿も心配そうな目付きでアリッサの手を見ている。
僕は溜め息をつきそうになるのを我慢しながら、仕方ないので小芝居に乗る。
「僕は何もなかったからいいけれど……アリッサは本当に大丈夫かい?(絶対、痛いよね?)」
「はい。あ、帰ったら、すぐにこの遊びの安全対策を考えますから!(大丈夫、大丈夫!)」
「いや、そうじゃなくて……」
思わず手を伸ばして、アリッサの赤くなった手を包んだ。
ああ、やっぱり熱を持っているじゃないか。まったくもう!ただ手袋をプレゼントするだけで、どうしてこんな事態になるんだ。
「ごめん」
あーあ、変な小細工をするのではなく、普通に、可愛い手袋をプレゼントすれば良かった。そうすれば、アリッサが気に入って外さないようにしていても不自然ではなかったかも知れない。
「……家に帰ったら、公爵には見つからないようにちゃんと手当てをするんだよ?ああ、こんなに赤くなって……ちょっと待ってて」
……今さらあれこれ思っても遅い。
僕は用意していた手袋を取りに行った。
「……帰りに他からその傷が見えないように、これをあげる」
「ありがとうございます、アルフレッド殿下」
アリッサは満面の笑みを浮かべて手袋を受け取った。
大任を果たした!という満足が透けて見える。
はあ。本当に……アリッサは危なっかしくて、ちっとも安心できない。




