アリッサに付けられた契約印
火龍公爵がすぐに予定を調整してくれて、アリッサを隠者の塔へ招けることになった。
久々に会ったアリッサは、泣いていた姿が思い出せないほど元気いっぱいだった。アナベル嬢が目覚めて、よほど嬉しいらしい。
思わず僕も頬が緩む。
挨拶をして、アリッサからは誕生日プレゼントのお礼を言われた。
「あのね。クマのぬいぐるみ、毎晩、一緒に寝ているんだよ」
毎晩、一緒に?
思わず、ぬいぐるみを抱いて眠るアリッサを想像する。
……視界の隅でウィリアムがニタァと笑ったのが見えた。
いけない、緩みそうになる顔を抑えないと!
「それとね。クマの名前、アルから名前をもらってアルフにしたけど、いいかな?」
「え?」
「アルとおんなじ、キレイな青い目をしてたから。……イヤ?」
う……!嫌なんてこと、ある訳がない!
ああ、駄目だ、顔が赤くなるのを止められない。
アリッサ。しかもね。その言い方だと、まるで“僕の分身のような”ぬいぐるみと毎晩一緒に寝ることを喜んでいるように聞こえるよ。
ねえ、分かってる?
アリッサを連れ、隠者の塔へ入った瞬間、ピリッと大きな魔法が発動する空気を感じ取った。
一瞬で僕の周囲に防御壁が形成され、同時に何かに体を押される。
何ごとだ?!と見渡せば、アリッサが巨大な籠に閉じ込められていた。
「ウォーレン!どういうつもりだ?!」
僕は驚いて階下へ向けて大声で問う。この塔でウォーレン以外が魔法を勝手に使うことなんて出来ない。ウォーレンの仕業に決まっている。
ウォーレンはすぐに階段を上がってきた。
息を切らせ、血の気の失せた顔で僕の腕を掴む。
少し、震えている?
「ウォーレン。すぐにアリッサを出すんだ」
「ダ、ダメだよ。アルこそ、彼女から離れるんだ」
「どういう意味だ?」
ウォーレンは軽く唇を噛んで、アリッサを見た。薄い灰色の瞳が細められる。
「転移陣を使ったから王城へ入れたけど……普通なら、門で弾かれる。彼女は、魔の者と契約してる」
「は?!」
魔の者と契約?!アリッサが?
そんな禁忌に触れるような契約なんて……するはずがない。
僕は慌ててアリッサを振り返った。キョトンとしていたアリッサは、僕と目が合った途端、ぶんぶんと大きく首を振る。金色の瞳が、純粋に驚きで真ん丸になっていた。
「……ウォーレン。アリッサには思い当たる節はないようだけど」
「印が付けられているよ。今、目に見えるようにする」
ウォーレンが右手を上げ、呪文を唱える。
アリッサはビクッと身をすくめ、自身の左手に目を向けた。左手の甲に、赤い痣のようなものが浮かび上がっている。
「し、知らない、こんなの……いつの間に……」
怯えたような声音に、僕はカッとなった。
もう二度とアリッサを危ない目に遭わせないと誓ったのに。誰だ。いつの間に、アリッサに近付いたんだ。
目の前が怒りで真っ赤になった気がする―――。
アリッサに契約印を付けた卑劣漢をウォーレンに喚び出させる。
現れたのは、黒い髪の少年。
見た瞬間、僕は冷水を浴びせられた気分になった。
こいつは……!
「テメェ、姫さんに何しやがる!!」
「ラク!止めて!!」
何もない空間から現れた少年は、アリッサの現状を見るや、すぐにウォーレンへ飛び掛かった。同時に真っ黒な炎がその手の先から放たれる。
しかしウォーレンは手を上げ、小さく呪文を唱え、炎を消して少年を鎖で捕らえた。
この塔の中では、たとえウォーレンを超す魔力量の者でも、恐らくウォーレンには太刀打ち出来ないだろう。塔の中は様々な仕掛けで他者の力は弱められ、ウォーレンの力は増すように工夫されている。
少年を捕らえた鎖は、彼の首にも巻き付く。
そのまま、絞め殺してしまえばいい。
だけど。
……アリッサ。
どういうことだ?君はあの少年の名前を知っていて、あいつから「姫」と呼ばれているのか?モラ湖で僕らはそいつに殺されかかったじゃないか。あの後、君は一人で再びそいつに会ったということか?僕の知らない間に、何が……あったんだ……?




