初耳な話
どこまでも広がる緑の畑を、馬が緩やかに駆けてゆく。
のどかだ……。
少し大きめの村でお祈りのあと、お昼をご馳走になり、次の村へ向かっている。
うう、お腹もふくれたから寝そう……。
クッションのおかげでお尻の痛みはマシなのが有り難い。ただし足を広げて跨がっているからか、ちょっと股関節は痛いけれど。
考えてみれば日常で足をずっと広げていること、ないもんね。馬に乗るって過酷だよ……。
ちなみに、今日の私はスカートではなくパンツスタイル。いわゆる乗馬服だ。
でもお嬢さまらしく、上着にはフリルなんかもついてて可愛い。
「ちゃんと支えておるから、寝てていいぞ」
お祖父さまがそっと私の頭を撫でて言う。私は自然と下がってくる目蓋を押し上げながら首を振った。
「せっかく……初めてのところを回るから寝たくないですぅー……お祖父さま、何かお話して!」
「む?眠いときは寝た方がいいんじゃがなぁ……」
お祖父さまは苦笑しながらも、この辺りの特産や生活について話してくれた。
低く落ち着いた声が……やばい、ますます眠気を誘うよ……。お祖父さま、いい声だねー……。
「───そういえば、アリッサはアルフレッド殿下とちゃんと挨拶はしたか?」
急に話が変わり、私は「ん?」とお祖父さまを見上げた。
「挨拶……ですか?」
「夏至祭が終わったら、殿下は帝国へ留学するだろう?結局、それまでに暗殺犯を捕らえることは出来なんだが……」
え?
何、それ。初耳。
私の様子を見て、お祖父さまは慌てた。
「んん?!アリッサは聞いておらなんだか?……む、言わん方が良かったか」
「教えてください!アル、留学するの?!いつから、いつまで?!」
「あー……夏至祭が終わってすぐ……1年間じゃな……」
「…………!!」
聞いてない!
聞いてないよ、アル!
私の眠気は一瞬で消え去った。アルのキレイな青い瞳が思い浮かぶ。
……ねえ。留学の件、いつ決まったの?!少なくとも、リバーシ大会云々のときには決まっていたんだよね?
ひどい、どうしてナイショにしてたのーーー!
そこから、あちこちの村を回る間、ずっと私は膨れていた。
「なんでそんなに怒ってるんだ、お嬢」
とテッドに言われたけれど、どうしてって……1年も離れ離れになるのに、そのことを言ってくれないって、ショックじゃん。友達だと思っていたのは私だけ?!
そりゃ、天恵者の件とか、ウォーレンさんには話してアルには話さなかったりしたけどさ。それとこれとは別だと思う。
イライラしながら村々を回り終え、屋敷へ帰る。
ディから「今年の夏至祭は一緒に過ごせなくて残念」という内容の手紙は届いていたが、アルからの手紙は無かった……。




