地龍公爵と密約
───店の奥へ招かれる。
顧客とゆっくり商談するスペースなのだろう。店内と同じく重厚な内装だ。
武器を並べるためだろうか、普通より大きめのテーブルが置かれている。
テッドはソファーに座った私の後ろに、ガイは出入り口の脇に静かに立った。
お茶やお菓子が私の前に並べられる。
「……それで」
室内に地龍公爵と私、テッドとガイだけになってから低い声が流れた。
「おぬしは両殿下の配慮を踏みにじってリバーシ大会へ参加したいそうだな?」
「はい」
ギロリと睨む目つきが怖い。思わず身を縮こめてしまう。
だけど、視線だけは逸らさずに真っ直ぐ見返す。今回、ラヴクラフト商会に来たのはこの話をするためだ。事前に手紙で大筋は伝えている。
「犯人を炙り出すなら、囮に適しているのは私や姉のアナベルだと思うからです」
「まあ……そうであろうな」
ふんと鼻を鳴らして、公爵は腕を組んだ。
あら?厳しい顔をしているから反対だと思っていたけど、あっさり肯定されちゃった。
「だが、アルフレッド殿下は的を己一人にしたいらしい。四龍の各商会を回っておられた。殿下のその強い気持ちも……考えねばならん」
「え?アル……アルフレッド殿下は、商会に行かれたんですか?」
そういう話はあったけれど、その後、何も連絡はなかった。だからてっきり流れたのだと思っていた。
アル、回っていたんだ……。私、お店で迎えるつもりだったのに!
「でも……それで成果がなかったからリバーシ大会をするってことですよね?では、やはりアルフレッド殿下ではなく、火龍家が標的の可能性も考えられませんか?もしくは火龍家と王家にヒビを入れたい何者か」
アルやマーカス殿下が決めたことを蔑ろにしたいワケじゃない。だけど、敵の目的をきちんと見定めることも重要だ。
公爵は顎に手を当て、しばらく考え込むように何もない空間を見つめる。
沈黙が場に満ちた。
私は姿勢を正しておとなしく待つ。
……やがて、公爵の鋭い眼差しが再び私に注がれた。
「たとえ愛娘が王家の管理下のもとで殺害されたとしても、火龍のが王家に対して忠誠心を覆すことはなかろう。正直、一番警備の厳しい王城や王家の保養地で事を起こす敵の目的が分からん。……が、分からん以上、おぬしのその提案が有効であることも否定できん」
「では……」
「一度決まったことを今さらあれこれ言うのは好かんが……」
ふうと息を吐いて、公爵は頷いた。
「おぬしたちが会場へ来れるよう、手配しよう。王族を守ることが我らの務め。幼くともさすが四龍の一員だな、その意志は見事だ」
「ありがとうございます!」
良かった。アルは怒りそうだけど、アル一人に負わせないで済んで、ホッとする。
「あ!あの……一応、王妃さまから観覧の招待状を送っていただく約束も……取りつけています」
「なんだ、他にも手を打っておったのか?侮れんおなごだな……」
だって、私も必死だもん。
ラヴクラフト商会で、ドレスの下に着られる防御肌着を買った。アナベル姉さまとディの分も。
これは、強靭な糸を編み込んだ素材らしい。少しゴワッとしているのが難点かな。あと、ナイフの攻撃は防げるけど、大きく振り下ろされた剣までは防げないと言われた。
まあ、鍛えた大人が思いっきり剣を振るったら、切れなかったとしても衝撃で骨は折れるもんね。そんな事態は絶対、避けたい。
「今上陛下も少し頼りないが……今まで、王子殿下達も王族としての自覚が足りないように見えた」
帰り際、独り言のように地龍公爵が呟いた。
私は目を瞬かせて公爵を見上げる。
「しかし最近、お二人とも急に変わられたな。仕える身としては誇らしい限りだ。ただ───」
言葉を切った公爵は、清冽な濃紺の瞳を私に向けた。
「アルフレッド殿下は、強い意志と実行力を兼ね備えておられるが、やや危うい面がある。アリッサ。おぬしは一緒に突っ走るのではなく、それをきちんと諌め、引き留められるようにせねばならんぞ」
えええ?!私が?!
一番突っ走る私に、そんなこと出来る??
……その前に、アルが本気であれこれ企むようになったら、前世の分を足しても私の知恵では足りないかも知れない。絶対、地頭の良さが違うもん。あの歳であの賢さ。私なんていずれ手の平で転がされるようになるイメージしか湧かない……。
エリオット、私の代わりに頑張って~。




