めちゃくちゃ泣きました
アルが隠者の塔から出てゆき、私、リック、ウォーレンさんの3人になった。気まずい沈黙が辺りを占める。
部屋の角の椅子で、フードを深く被り、器用に膝を抱え込んで三角座りしているウォーレンさんに、私は意を決して話しかけた。
「ウォーレンさん。ラクが魔の者って本当ですか」
ウォーレンさんが顔を上げた。フードの奥の表情は見えない。
「……ど、どうして……あ、あ赤目の、か、かかか彼を……う、受け……いれたの……」
どうして?それ、難しい質問だよ……。
「受け入れたっていうか……私にラクを裁く資格はないって思ったからです。それに……ラクも好きで赤い目になったワケじゃないだろうし。いわれない差別で、辛かっただろうなって……」
赤い目は、魔障に触れた証しだと聞いたことがある。魔物に噛まれたり、瘴気に溢れた地に長くいると、魔の気に侵されて赤くなるのだとか。ただ、中身はあくまでも普通の人間だ。
だけど、赤い目をしているとそれだけで差別をされるらしい。社会から弾かれてしまう。
一方、魔の者とは魔物の眷属になった人のことを言う。もはや人間ではなく、魔物に近い存在。人語を解さなくなる者もいるし、生肉や血を好むようになるんだとか。
けれどもラクは……話もできるし、生肉なんか食べない。普通の食事やお菓子が大好きだ。それに……そう!けん玉で遊ぶのも好き。だから魔の者ではない……と思う。
私の微かな希望は、しかしすぐに否定された。
「……か、かかか彼は……ま、魔の者だよ。な、なってから……日は、あ、浅そうだけど……」
そっか……。
小さな音を立てて塔の扉が開き、お父さまがアルと共に入ってきた。
顔色が悪い。眉間にも、すごいシワが寄っている。
……アルとリックに続いて、お父さまからも私は見限られるのかな。
身の置きどころがなくて縮こまっていたら、お父さまは無言で私の前まで来て……ツ、と涙を流した。
え?
見間違いかと思って瞬きをする。
その瞬間、お父さまに抱き締められた。
「お父さ……ま……?」
「お前は……大事に領へ囲っておいても、危険なことに巻き込まれるのだな。どうしたら、お前を守れるんだ?アリッサ。頼むから……もっと自分を大事にすることを考えてくれ……!」
……怒って、ない?
「私に……怒ってないの……?」
「いいや、怒っているよ、私自身に。お前をきちんと守れない情けない父親に」
「…………」
頭が混乱してきた。
するとお父さまは私を離して、目の前に跪いた。
真っ直ぐに目線が合う。
「アリッサ。ちゃんと伝えたことがなかったね。お前は私の大事な大事な娘だ。お前に何かあったら、私も……コーデリアもきっと耐えられない。そのことを、きちんと理解してくれ」
「お父さま……」
私と同じ金色の瞳が、苦しげにこちらを見ている。白目の部分は真っ赤になっていた。
それを見ていたら……私もじわっと涙があふれてきた。
私……てっきり怒られるんだと思ってた。そうじゃなくて……私のことを心配して……怒っているのか……。
ふと周りを見渡すと、リックも泣きそうな顔で横を向いてる。
リックも、心配して怒ってた、の、かな?
……ごめんなさい。そんなに……みんなに大事にされてて、心配されてるって……私、ちゃんと分かってなかった、かも……。
「ごめ゛ん゛な゛ざい゛~~~!」
ポタ、ポタポタ……。
涙が頬を伝い始めて……私はとうとう大声を上げて泣き出してしまった───。
前世も含めて、こんなに泣いたのは初めてだ。
泣きすぎて涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃ、頭もガンガンする。
とても落ち着いて話をできる状態ではないから、と私はお父さまに抱き上げられて、そのまま家に帰ることになった。
「一度、その者と私が話をします。殿下へは改めてご報告しますので」
「わかった」
お父さまとアルが話をしている。アルの声は冷ややかなままだ。
聞くともなしにお父さまとアルの会話が耳に入る。
……私の手にあるラクとの契約の印。
どうやら結びつきが深いため、強引に消すと体に弊害が出るかも知れないということだった。なので、今はひとまずそのままにするらしい。ただ、これを消さない限り、王城には足を踏み入れてはいけないようだ。
まあ、そりゃそうよね。
こうして……ラクはお父さまの護衛に担がれ、私たちは王城を後にした───。
ラクの件、あともう一話続きます…




