新たな誕生日を祝う
夕食後、お父さまから大きなクマのぬいぐるみを渡された。
「これは……」
「アルフレッド殿下からお預かりした」
「アルから?!」
今日、お父さまは午前中に王城へ行っている。アナベル姉さまが目覚めた件を報告しに。
その帰りにアルから渡されたらしい。
私の誕生日プレゼント。
ふふ。前に王城へ泊まったとき、アルが小さいときに寝ていた部屋はぬいぐるみがいっぱいだった。それを見て、クマのぬいぐるみが懐かしいって話をしたの、覚えてくれてたのかな。
うれしい。
クマは、小さな箱を持っていた。
中身は……涙型の青い魔石が三連に連なったペンダントだった。魔石には、魔術印が刻まれている。
火の魔法に対する防御、麻痺の魔法に対する防御……あと、物理的な攻撃に対する防御かな?すごい、防御のお守りなのにカワイイ!
これ、今日からずっと身に付けよう!
翌日。
誕生日パーティーその2が庭のガゼポで行われた。
参加者は、テッドとラクとビルだ。
「たんじょうび……?」
ラクが不思議そうに首を傾げている。テッドが重々しく頷いた。
「ああ。生まれてきた日を祝うんだ」
「なんでだ?」
「生まれてきてくれて、ありがとうってことさ。だってお前、お嬢が生まれなかったら、お嬢と出会えなかったんだぜ?」
「ふうん……」
この誕生日会を提案したのはテッドだ。ラクに生命のことを教えようと考えてくれた結果らしい。
出会った頃と比べて……テッドはすごく大人になったなぁ。なんだか、中身大人なはずの私より、しっかりしてきた気がする。ちょっと悔しい。
「お嬢様。誕生日おめでとうございます。ほら、ラク。お嬢様にプレゼントを渡しなさい」
ビルがラクを促した。ラクは、もじもじしながら色とりどりの花束を椅子の下から引っ張り出す。
「姫さん。これ、プレゼント……」
「ありがとう、ラク。すごくうれしい」
「うれしい?」
「うん」
「そっか」
ニカッっと照れたようにラクは笑った。最近、ラクはよく笑う。その屈託のない笑顔がうれしい。
テッドが私を見て頷いた。
それを合図に、私はおもむろにバスケットの奥に隠していた包みを取り出す。
「じゃあ、ラクにもプレゼントね」
「え?」
「ラクは誕生日が分からないでしょう?だから、私の誕生日の次の日を、ラクの誕生日にしようと思うの」
「お前、お嬢と出会って生まれ変わったようなもんだからな。ちょうどいいだろ」
「…………」
私とテッドの言葉に、ラクは無表情になった。
これは、ラクが混乱しているときの顔だ。自分の感情が分からなくて、無表情になるらしい。
なので、テッドは気にした風もなく後ろからゴソゴソと服を出してきた。……ちょっとちょっと、むき出しなの?
「オレからはこれな。今度、街にも連れて行ってやるから、そのときにこの服を着な」
「わしからは、こいつをやろう」
ビルも後ろから農作業用手袋だのシャベルだのを出してきた。そっちも、むき出し。
もう!プレゼントは包んでよぉ~。
そう思っちゃうのは、私の前世が日本人だからなのかなぁ?
ラクはだいぶ時間が経ってから、くしゃりと顔を歪めた。泣きそうだったけれど、泣くことはなく……小さな声で「ありがと」と呟いた。
そんなラクの頭を、テッドがぐしゃぐしゃとかき混ぜる。頭をぐらぐらさせながら、ラクは私を見た。
「なあ?オレ……生まれてきてありがとうなのか?」
「そうだね……ラクはまだ生まれたばっかりだからなぁ。生まれてきてありがとうってみんなからお祝いしてもらうにはね。悪いこととか、人を傷つけることとか、したらダメなんだよ」
「そう。お嬢がお祝いしてもらえるのは、お嬢がいい子だからだ。だからラクもいい子になれよ?」
テッドが私の後に続く。
……私がいい子かどうかは、かなりアヤシイけどねー。どっちかっていうと、悪い子寄りな気もする~。でもまあ、誰かれなく傷つける気はないし。ラクに分かりやすく受け入れてもらうためには仕方がない。
横でビルも頷いた。
ちなみに私がラクにプレゼントしたのは、けん玉だ。
一人で遊べるオモチャを……と悩んで思いついたのがそれだった。他にヨーヨーや独楽も良いかなと思ったんだけど、私は遊んだことがなかったのよね。けん玉なら、ちょっとだけやったことがあるのだ(もちろん、前世で)。
で、絵を描いて、手先が器用なビルに手作りしてもらった。急いで作ってもらったので、申し訳なかったかも(しかもラクにナイショだし)?
そもそも今年は、私の誕生日会をするつもりはなかったのだ。アナベル姉さまが目覚めていなかったから当然だろう。だけどテッドが“ラクに生命の大切さを教えよう”と言い出し、私の誕生日にあわせてラクの誕生日も作ることとなったため、大慌てで用意することになったのだった。
なお、私はけん玉で簡単なことしか出来ないけど、テッドに教えたらすぐに複雑な技を出来るようになった。というワケでテッドにラクの前で手本をやってもらったら、ラクはすっかり夢中になった。
―――ただし。
「……夜中に、真っ暗な中でもカコンカコンやりましてな。夜は禁止にしました」
数日後。
ビルが呆れたように教えてくれた。
ラクは夜目が利くらしい。真っ暗な中、けん玉で黙って遊んでいる姿はかなり不気味だったそうだ。
そ、そっか。ごめん、ビル……。




