決意
アナベル嬢たちのいる部屋は騒然としていた。
来客者に気付かれぬよう少し手前には衝立が立てられ、衛兵が警備している。
僕が入っても邪魔になるだけなので、僕は扉の外から中の様子を窺う。今は神官長が治癒魔法を掛けている最中だった。
「ベラナの毒のようです」
衛兵の一人がそっと教えてくれる。
「火龍公爵家のアリッサ様が、心の臓を動かすという不思議な技をご存じでして……そのおかげで解毒は間に合ったそうです」
さすがアリッサ。
でも、今、彼女は真っ赤な目をして火龍公爵にくっついている。姉を見つめるその顔は、血の気を失って真っ青だ。
「ひとまず、今の段階で出来ることはここまでです」
額の汗を拭いながら、神官長が静かに告げた。僕はそれを聞いて、そっと室内に入り込んだ。
アリッサのそばへ行く。
アナベル嬢も心配だけど、アリッサだって死にそうな顔をしている。放っておけない。
火龍公爵から頼まれ、アリッサを僕の部屋へ。アリッサはずっと青い顔で一言も発しない。
部屋に着いて、座らせて、手を握って話し掛けたら……ふいにボロボロと泣き出した。
「姉さまが……姉さまが死んじゃうかもって……」
「うん。でも、解毒も回復魔法も掛けた。もう少ししたら目覚めるよ」
確証もないのに無責任な台詞だ。だけど、他にどう言えばいいというんだろう。
アリッサの金色の瞳が、今までにないほど頼りなく揺れて僕を見る。
「き、きっと……姉さまが毒をもられたのは……わ、私のせい……」
「どうして?アリッサはお姉さんを助けたんじゃないか!」
思わぬ返答に、驚く。何故、アリッサのせいになるんだ。
アリッサは唇を震わせながら言葉を押し出した。
「きょ、去年の……モラ湖の襲撃、あれ、きっと私を狙ったんだと思うの。そ、それで、ダメだったから今度は毒を…………」
「違う」
まさか、そんな。
そんな風にアリッサが考えていたなんて。ああ、もう。モラ湖の件、調べて分かったことをアリッサにも伝えておけば良かった。
「モラ湖にアリッサが来ていることは、僕と母上付きの使用人ごく一部しか知らない。事件後に全員、魔法による尋問がされた。誰も、他へ洩らしていなかった。……あの襲撃は、毎年あの時期にモラ湖へ行く僕を狙ったものだ」
「でも……」
「そして、今日の件。お茶を運んだメイドは、アナベル嬢とライアン殿しか部屋にいないと思っていたそうだ。余分に茶器は運んでいたけどね。……つまり、狙ったとすればアナベル嬢かライアン殿だ」
というか、モラ湖の件も、今日の毒物の件も王家の管轄下で起きている。責められるべきは王家の警備態勢だろう。アリッサが責任を感じるようなことじゃない。
僕はまだ握っていたアリッサの手を、優しく撫でた。
「アリッサ。悪いのは毒を用意した奴だよ。アリッサじゃない。アリッサなら、ここで“自分が悪い”って泣くんじゃなく、犯人を捕まえてやる!って意気込まないと」
「犯人……」
「そう。毒を用意した奴」
少しずつアリッサの瞳に力が戻る。
そう、泣かないでアリッサ。君に涙なんて似合わない。
そして絶対に……僕が犯人を見つけてやる。だって、下手をすればアリッサが毒を飲んだかも知れないのだ。そんな恐ろしいことは想像するだけで嫌だけれど。
だけど、2度も王家の下で君が危ない目に遭っている。
必ず、これで最後にしなければならない。




