夜空に美しい大輪の花を咲かせる
夏至祭の日だ。
神事を楽しみにしたことはほとんどないけれど、今日ばかりは待ち遠しかった。
ウォーレンの元で何度も練習し、理想の花火を作り出せるようになっていたからだ。といっても、大きなものを実際に上げたことはまだないので、ぶっつけ本番でどこまできちんとした形になるかは分からない。
だけど僕は、アリッサに一番最初に花火を上げるから見て欲しいと告げているので、意地でも豪華で大きな花火を作り出すつもりだった。
ちなみに夏至祭の一番花火は、慣例的に国王が上げることが多い。しかし決まっている訳ではないため……最初に僕に上げさせて欲しいと父上に頼んだ。
父上は意外そうな顔をしたけれど、理由を聞くでもなく了承してくれた。子供に対して関心の薄い父親というのは、有り難い。
夏至祭は夜の花火が一番目立つが、やはり四節の一つなので午前中には地下の神殿で祈りを捧げる。
白い祭服で地下へ行ったら、兄上がすぐに僕の横へ来た。
「……互いにつねるか?」
「周りから変に思われるでしょう」
小声でボソボソ話していたら、ベルフォーク大公から「お前たちが話しているとは、珍しいな」と冷ややかに言われた。
兄上が澄ました顔で「可愛い弟の一人ですから」と答える。
可愛い弟……。
ベルフォーク大公も驚いたのだろう。張り付けた面のようにいつも無表情なのに、ふいに大きく目を見開く。
あ、マズイ。あまりにも珍しい光景すぎて、一瞬、吹き出しそうになってしまった。
さらに間が悪いことにその後ろからのっそりとバンフォード大公が現れた。
「なんだ、甥との仲を深めているのか、ベルフォーク」
「ゴフッ!」
兄上が妙な音を立てて俯く。
……兄上!
肩が震えているじゃないか。
「あ、兄上、だ、大丈夫ですか……な、なにか、飲み物でも……」
僕も声が震えるが、俯く兄上を支えて慌てて手前の小部屋に入った。
中にいた神官の一人がびっくりしたように駆け付けてくる。
「殿下方!どうなされました!」
「だ、大丈夫……」
「ブ……ハハハ……ッ」
「兄上!」
「いやだってベルフォーク大公のあの顔……ていうか、目、あんなに開くのか……」
うん、それは僕も思った。
兄上が涙目で恨めしそうにこちらを見る。
「アルフレッド……どうしてくれるんだ、神事の間、笑わずに我慢なんかできないぞ」
「ベルフォーク大公に関しては兄上が悪いでしょう。可愛い弟ってなんですか」
僕も笑わずにいられるだろうか?
う~ん、グレアムの厳しい基礎訓練のことでも考えておくか?
思わぬ出来事はあったけれど、無事に神事は終わり(兄上はときどき震えていた)、夜の花火を上げる時間になった。
僕が一番に上げると聞いて、大公たちはざわざわしている。その後ろで、ウォーレンが「大丈夫!」というように珍しくニッコリ笑って頷いてくれた。
そう、大丈夫。
朝の神事で兄上と笑ったおかげか、意外といい感じに力が抜けている。きっと、最高の花火を作り出せるはずだ。
僕は深く息を吸って、両手に意識を集中し呪文の詠唱を始めた。
身体中を魔力が巡るのが分かる。
出来上がりの形を脳内に明確に描いて。
───夏の神トロアに感謝を!
中心が金色、外縁が鮮やかな紅色の、とても大きくて綺麗な球形の花火が上空に花開いた。
王城のあちこちから「おお!」という歓声が聞こえる。大公たちも驚いたような声を上げている。
やった、成功だ!
その途端、くらっと目眩がしてふらついた。兄上がすぐに支えてくれる。
「すごいな!今度、ぜひ、コツを教えてくれ」
そっと耳元で囁き、控えていたウィリアムに渡される。僕は返事も返せず、ウィリアムに支えられたまま、近くの椅子に倒れ込んだ。
はー、あと数発は打てるくらいの体力(魔力?)が欲しい……。
アリッサ、見てくれたかな?君の色を上げたけれど……気付いてくれるかなぁ。
王城で楽しいことが少ないからか、笑いの沸点がわりと低い兄弟……




