将来に向けての次の一歩
春華祭以後、マーカス兄上の僕に対する態度がすっかり変わった。
会えば、必ず兄上から挨拶される。たまに、馬術の練習や剣術の訓練を一緒にやろうと誘われる。周りは戸惑っているが、僕も戸惑ってしまう。
「何か企んでいるのでは」
ウィリアムが心配そうに言ってくるのも、仕方ないかも知れない。
でも、たぶん、兄上には特に裏はないのだと思う。普通に、僕と兄弟としての仲を深めようとしているのだろう。僕が兄上を蹴落とす気がないと分かったから。
とはいえ、急な変化すぎる。
さすがに僕の方がついていけない。やっぱり虐められていた件は、さらりと流せるものじゃないしなぁ。
それでも、僕はこれを機会に兄上に頼みたかったことを口にする決心をした。
前魔獣討伐隊隊長、グレアム・オズボーン侯爵との訓練に僕も混じらせて欲しいという願いだ。
兄上は僕の願いを聞くなり「えっ」と固まった。
「……本気か、アルフレッド」
「本気です。僕はもっと強くなりたいので」
「……一回始めたら、もう止められないぞ」
「願うところです」
「そ、そうか」
どうしたんだろう。歯切れが悪いな。
「アルフレッドが鍛え始めたのに対抗して、私も始めたんだが……グレアムはその……ものすごく厳しいんだ。確かに、始めた頃の私はやや軟弱だったとは思う。でもな……子供だとか王子だとか一切忖度せずに、魔獣討伐隊隊員ばりの訓練をするんだ……最初の3か月は辛くて辛くて毎日泣いたくらいだ……」
「…………」
いずれ魔獣討伐隊へ入るつもりだけど。
もしかして進路を考え直した方がいいんだろうか。
「今でも、訓練場へ向かうのに足がすくむんだが……それでも来るか、アルフレッド?」
「…………行きます」
魔獣を倒すんだ。厳しい訓練じゃないと、意味がない。
ここで……怯んだりするもんか。
アリッサの姉・アナベル嬢の誕生日パーティーへ参加することになった。
春華祭の前くらいからコーデリア様が火龍公爵家へ戻って寂しくなっていた母上が、張り切って僕の衣装だの、持っていくプレゼントだのを手配している。おかげで母上が情緒不安定にならないのはいいけど……気を付けないといけない。僕はこっそり、母上が出したデザイン案の修正依頼をしておいた。怖れていた通り、超ヒラヒラした襟や袖の服だったからだ。勘弁して欲しい。
一方、マーカス兄上は誕生日パーティーには行かないらしい。
「何故、行かないのですか?アリッサが兄上の婚約者候補に入るなら、アナベル嬢だって入ると思うんですが」
「母上はな。コーデリア様が大嫌いなんだ」
「??」
「学生時代、母上は火龍公爵───マクシミリアンにずっと恋心を抱いていたらしい。しかし公爵はコーデリア様一筋だ。いまだに嫉妬心を消せないんだよ。アナベル嬢は、コーデリア様によく似ているだろう?だから、気に食わない」
それは知らなかった。でも、納得だ。
シンシア様がアリッサにやたら愛想が良かったのは、アリッサが公爵の色合いと同じだったせいか。
「……どうでもいいことですが。父上はご存じなのですか?」
「母上が火龍公爵を好きなこと?もちろん、知っているよ。当時の学院生はみんな知っているんじゃないか?公言していたし、追っかけもすごかったらしい」
若き日のシンシア様が熱意大爆発で追っかけをする姿を想像する。……火龍公爵、大変だったろうな。
「兄上、シンシア様の押しの強さ、少し見習っても良いのでは」
「良い結果が出てるなら見習うけれど、悪い結果しか私は知らないからな。とても見習う気にならないよ……」
まあ、そりゃそうか。
なおグレアムとの初訓練は、アナベル嬢の誕生日パーティーが終わってからにしようと言われた。訓練後は、まあまあ見た目が悲惨なことになるらしい。体を痛みに慣らすため、あまり回復魔法などは使ってくれないのだとか。これは相当、腹をくくって訓練に向かわないと……。




