自分の感情がよく分からない
いつもより文章量多めです
後のことは覚えていない。
シンシア様が来て、何かわあわあ言ってたような気はするけれど……いつの間にかお茶会は終わっていた。
僕があの部屋に乗り込んだとき、アリッサは少し脅えた目をしていた気がする。
マーカス兄上からは、お茶会終了後、問いたげな目線を貰った。
でも、僕は頭の中がぐちゃぐちゃで……何も考えられなかった。
温かいミルクが目の前に置かれ、僕はハッと我に返った。
どれくらい、自室でぼんやりしていたんだろう?
ブランドンがいつもと変わらぬ落ち着いた様子で、僕がソファに放り投げていた上着を片付けている。
窓は、もうカーテンが掛かっていた。室内には明かりが灯され、すっかり夜になっている。
「お食事はどうされますかな」
ブランドンの問い掛けに、僕はミルクを手に取って、首を振った。
「軽くつまめるものだけ、用意して欲しい。あまり食べたくない」
「畏まりました」
この時間になるまで、ブランドンもヘザーも僕をそっとしておいてくれたらしい。
何があったか聞かれないのは有り難いけれど、かなり心配させてしまったことだろう。
本当は何も食べずにこのままぼんやりしていたいけれど。食べておかなければ、ブランドン達の心配に輪を掛けることになるし、体にも良くない。
気持ちを……切り替えなければ。
正直、僕自身も僕の心の内がよく分からない。
翌日。
少し落ち着いたと思っていたのに……元気いっぱいのアリッサを見た途端、なんだか気分が急降下した。
ふうん。
すごくご機嫌なんだね、アリッサ。昨日はそんなに楽しかったのかな?
僕の心の声が聞こえたのだろうか。
アリッサがはっとしたように僕を見つめた。そして、強張った笑顔になる。
「おはよー、アル。昨日はその……お疲れさま」
「おはよう」
お疲れさまってなんだ?別に、疲れるようなことは何もない。
火龍公爵が少し目を見張っていたが、僕は黙って頭を下げ、アリッサとリックを連れて隠者の塔へ向かう―――。
ウォーレンによると、今日でアリッサの魔力瘤の治療は最後になるらしい。
少しホッとする。
これで、何かあって急に魔法を使う羽目になっても安心だ。
ただ、瘤がなくなったことにより今までとは魔力の使い方が全く変わってしまっている。それを、今後は練習していかなければならない。
まあ、勝手に一人でやるのではなく、ウォーレンの元で学んでいくなら大丈夫だろうけれど。
するとウォーレンが、次からの魔法特訓に役立つ本を取ってくると席を立った。そして、僕に身を寄せてくる。
「アル……き、今日は、す、すすごく、お、怒ってる気配が……するよ……。か、彼女を、こ、怖がらせて、いる……。ちゃ、ちゃんと……お、落ち着いて、は、話を……して……」
え?
僕が怒っている?そして……アリッサを怖がらせているだって?
―――ウォーレンがそそくさとリックと姿を消し、僕とアリッサは2人きりになった。
アリッサが、落ち着かなげにあっちを見たり、こっちを見たりしている。
……ああ。そういえば、昨日、兄上といるところを見てから、アリッサには自分でも冷え冷えする口調で話してしまった気がする。
「……昨日は、ちょっと……アリッサにきつい言い方をしたよね。ごめん」
言った内容はあまり覚えていないんだけど、そう話しかけたら、アリッサはホッとした表情になった。
「う、ううん。お母さまからいろいろ注意はされていたんだけど、あの、お茶会ではついつい、しゃべっちゃったし……あと、トイレに行って帰ってきたらマーカス殿下がいたりして、どうしようかと……」
「兄上との会話は楽しかった?」
頭で考えるより先に、言葉が飛び出した。兄上のあの楽しそうな笑い声がまた甦る。
「え?どうして?」
「2人っきりで、楽しそうな笑い声が聞こえた」
アリッサは心底不思議そうに首を傾げた。しばらく上目使いに考え込む。
やがて、ああ!というように頷いた。
「あれは、マーカス殿下から婚約の打診があって」
「婚約?!」
「う、うん、でもすぐにお断りしたんだよ、で、代わりにマーカス殿下が王位を継ぐのは応援しますからね~みたいなことを言ったら、笑われたの」
……うーん。話の展開がいまいち飲み込めない。
アリッサは兄上派?いや、でも婚約は断ったんだよな?兄上も、どうして笑うんだ?
「…………何故、応援?」
「えーと、アルって王さまになりたい?」
「なるつもりはない」
「でしょ。だから、マーカス殿下には頑張って王さまになってもらおうと」
「僕のため?」
「うん」
まだ、全部、理解し切れた訳じゃない。
でも、アリッサが兄上ではなく僕のことを思って、兄上が王になることを応援していると言ったことは理解できた。
思わず、口元が緩くなる。
そうか。
そうなんだ。
昨日からずっと、お腹の底が冷たくなっていたのだけれど……それがすーっと消えてゆく。
アリッサの笑顔が嬉しい。
だけど。
兄上が婚約話を持ち掛けた件について、
「わたしの婚約のことまでアルが責任を感じる必要ないよ。アルには関係のない話なんだから」
と言われた瞬間、僕は再び、体の奥底が凍りついた気がした。
アリッサが僕のことを意識していないのは分かっている。でも、少しは近しくなれたつもりでいた。それを―――全て、否定されたような感じだ……。




