蝉の鳴き声は思考力を奪う
悪いことは続く。
シンシア様がお茶会に乱入してきたのだ。
来るような予感はしていたんだけど。
ただ、すごく驚いたのは、シンシア様が真っ先にアリッサへ駆け寄ったことだ。狙っているはずのクローディア嬢ではなく。
そして怒濤の勢いでアリッサに話し掛ける。
んん?なんだか、やたらアリッサを褒めているような……?(僕の耳はシンシア様の話は蝉の鳴き声に聞こえるという素晴らしい進化をしているので、内容を真面目に聞き取ろうとすると大変なのだ)
マーカス兄上が肩を落とし、溜め息をついた。兄上も、自身の母の暴走には日々、苦労していると聞く。これに関しては、同情する……。
───結局、シンシア様に押し切られ、僕らはシンシア様の陶器コレクションを見ることとなった。
シンシア様はザカリーが逃げ出したので、ついでに僕も追い払おうとするが……それは困る。アリッサさえいなければ、さっさと退散するが、なんとか居残れるよう僕も強引に返した。
シンシア様の突進力は侮れない。なるべく、アリッサの横にいなければ。
アリッサの方も、僕が近くへ行くと明らかにホッとした顔になり、横にくっついてくれる。
それだけで、僕はすごく嬉しくなった。現金なものだ。
コレクションルームを見て回るうちに、アリッサがそわそわし始めた。そして、部屋を移るタイミングで侍女に何か話し掛ける。
……事情を察したので、「どこへ?」とは問い掛けず、僕はそのまま素知らぬ顔をしてエリオットの後について隣室へ行った。
が。
どれくらい経ったときだろうか?
クローディア嬢がいつの間にか隣にいて、そっと僕に囁いてきた。
「マーカス殿下がいらっしゃいませんわ。アルフレッド殿下。嫌な予感がするのですけど」
「え?」
しまった。
蝉の鳴き声(シンシア様のお喋り)がうるさくて、ぼーっとしてた。
慌てて僕はクローディア嬢に頷き、さっと廊下へ飛び出した───。
アリッサはどこだ?
廊下の角には兵士が立っているが、シンシア様の手の者の場合、聞いてもきちんと教えてくれるとは限らない。
でも、時間的に考えて、そんなに遠い部屋まで行かないはず。
そう考えていたら、アリッサらしき声が小さく聞こえた。
……あの部屋か!
急いでそちらへ向かう。
扉の前まで行ったとき、兄上の楽しそうな笑い声が聞こえた。僕が今まで聞いたことのない、本当に楽しそうな笑い声が。
その途端、僕は全身の血が沸騰したような気がした。それに比例して、頭の芯が冷たく凍ってゆく。
嫌だ。
───兄上には、絶対、アリッサは渡さない。




