夜中のひそやかな話
客間に大きなベッドが2つ、くっ付けられていた。ここで、全員一緒に寝るらしい。
……そう言えば、僕は誰かと一緒に寝た記憶がない。物心ついたときから、ずっと一人だ。
「こんな大勢と一緒に寝るなんて初めてだ」
僕がぼそっと呟いたら、アリッサの姉君・アナベル嬢があら?と声を上げた。
「うちは、アリッサが寂しがるから割りとみんなで寝たわよね?」
「え?そ、そんなことないですよ、姉さま」
「あら。しょっちゅう私やグレイシー姉さまのベッドに潜り込んでたじゃない。兄さま達のところも行ってたって聞いたけど」
へえ!羨ましいな、兄妹仲が良いとそんな風に過ごすものなんだ。
僕がマーカス兄上やザカリーと仲良く過ごすのは無理としても……マーカス兄上がザカリーと一緒に寝る───うーん、想像できない。やっぱり僕ら兄弟は歪なんだろうか。
そして、エリオットとクローディア嬢も一緒に寝ていたそうだ。
まあ、彼らは双子だから分からないでもないけどね。
その後、話の流れで王城の怖い話を聞かせて欲しいと言われた。
その瞬間、アリッサがピクッとなる。
ほら、火龍公爵。アリッサって案外、怖がりなんですよ。
僕は思わずアリッサの頭に手を伸ばして、ポンポンしてしまった。
大丈夫。話はしないから。
「前に、アリッサにたくさん聞かせて怖い思いをさせてしまったんです。今ではなく、今度、明るいときにその話をしましょう」
「あら」
「アリッサ。本当に怖いのは、生きている人間の方よ」
「そうそう。うちの屋敷にも割れた皿を持って歩く侍女が出るけど、別にフラフラしてるだけだから怖くないわよ?」
……アナベル嬢とクローディア嬢が身も蓋もないことを言う。
彼女たちの方はもう少し、実体のない“恐怖”を感じた方がいいかも知れない。
慣れない大勢の気配がするせいだろうか。
みな、お喋りを止めたらすぐに眠ってしまったけれど、僕はかえって頭が冴えて眠れなかった。
別に一晩眠れなかったところで死ぬ訳でもないから、僕は寝返りを打ってアリッサの寝顔をそっと眺める。
……といってもアリッサは僕の頭側の対面にいるので、僕から見えるのは頭頂部と閉じた瞼、鼻くらいだけど。
眠っているアリッサは、不思議なくらい幼く見える。普段が年相応じゃないから余計にそう感じるのだろうか。
「……眠れないですか、殿下」
小さな声が問い掛けてきた。
アナベル嬢だ。
「少し……目が冴えているだけです」
「大勢で寝るのは初めてって仰ってましたもんね」
「はい。……とても楽しくて。寝るのがもったいないという気持ちもあると思います」
ふふ、とアナベル嬢が笑みを漏らす。
「私も身内以外の人とこんな風に過ごすのは初めてなので、興奮してます」
そうか。落ち着かないのは、僕だけではなかったんだな。
「そういえばアリッサって……怖い話、苦手だったんですね」
「え?」
「さっき。殿下が怖い話はしないって言って頭をポンポンしたでしょ?そのときのアリッサってば、ホントにホッとした顔してたから。魔物を捕まえに行く!って言うくらいの子だから、てっきり怖い話も好きかと思ってたのに」
うん、僕もアリッサに怖いものがあるとは思ってなかった。だから、王城ではとびきり怖い話を厳選して聞かせたんだけど。……あの頃の僕は、アリッサより上に立ってやろうって気持ちの方が強かったし。
「アリッサ、誰とでも仲良くなるし甘えるのも上手なんですけど。弱い部分ってあまり見せたがらないんですよね。でも……なんだか殿下にはちょっと甘えているみたいなので。たっぷり甘えさせてやってくださいね」
「甘えてますか?」
どこが?
少し驚いて、聞き返してしまう。
アナベル嬢は真面目に頷いた。
「そう見えました。この1、2年でアリッサは急に大人びて……もう前みたいに“姉さまそばにいて!”とねだってくれないのが心配だったんです。でも、そういうアリッサがいなくなったワケではないと分かって安心したというか。……殿下、よろしくお願いしますね」
僕に甘えている?本当なら嬉しいけれど……どうだろうなあ。
エリオット推しのアナベルでしたが、グレイシーの話を聞いてから、アルフレッドも応援しようかな?という気になってます…。




