少しずつ行動していこう
朝の訓練を終え、汗を流しに行こうとしたら途中の回廊でマーカスとかち合った。
「……火龍公爵の末娘は、水龍公爵家の麗しいご子息に興味があるようだぞ」
視線が合うなり、ニヤリと言われた。
マーカスはくすんだ金髪に青灰色の瞳をしている。黙って澄ましていればそう悪くない顔だろうが、僕の前にいるときは大抵、僕を馬鹿にした表情でいるため、ろくでもない悪ガキにしか見えない。
「エリオットはご令嬢方に人気ですからね」
「ハッ。普通の令嬢方とは必要最低限の挨拶しかしないアイツが、火龍公爵の娘とは夏至祭の花火を共に見たらしいじゃないか」
……知っている。
エリオットから昨日、報告書が届いたばりだ。アリッサは一体何をしたのか、水龍公爵家の救世主だと書かれていた。
「残念だな、火龍公爵家の後ろ楯を得られそうになくて」
わざわざそれを言いたくて、この回廊に来たのだろうか。マーカスなら有り得るなあ。
シンシア第二夫人が母上と僕を目の敵にするから、マーカスもそれに倣って小さいときからやたらと僕に嫌がらせをしてくるのだ。全くもって、くだらない。
ちなみにマーカスは(僕に対抗するためだと思うが)水龍公爵家のクローディア嬢を狙っている。だが、向こうはけんもほろろなので、アリッサが僕を選ばないのが嬉しくて仕方ないのだ。
僕がクローディア嬢とお茶をし、遊んだことがあると言えばどんな顔をするか、見てみたい気もする。後が面倒だから言わないけれど。
ひとしきり、あれこれ嫌がらせを言ってマーカスは去って行った。
あれで僕より二つ年上とは。
おかげで、どうしても兄とは思えないんだよな……。
午後のお茶の時間に母上の部屋を訪れた。
珍しい時間の僕の訪問に、母上は驚いたようだが(母上とはいつも夕食だけ一緒に摂っている)、すぐに僕のお茶を用意してくれた。
「どうしたのかしら?」
「いつも夏はモラ湖で過ごしますよね。今年は、コーデリア様を招けませんか?」
「あら!」
僕の後ろでウィリアムも驚いた気配があった。
「アル、貴方……」
「この間、アリッサからは友達になろうと言われました。僕の初の友人です。せっかくなので、僕としても夏は友人と遊びたいなと思いまして」
「そう。友人……そうなの……」
分かりやすくガックリと肩を落とす母上。
婚約しろとは言わないと言った割りに、その夢は諦めていないらしい。
母上は紅茶のカップの取っ手を指先で弄びながら、僕をちらりと見た。
「ねえ?そういえば、アリッサちゃんの好みの相手について聞いたんだけど、気にならない?」
「いえ、別に?」
アリッサの好みに僕がハマるとは思えない。こういうのは聞かない方が気が楽だ。
「やだ、もう。どうしてアルってばこんなに可愛げがないの」
「王族の血じゃないですか?可愛げのある親族が一人も思い当たりません」
「……はあ」
否定することが出来なかったのだろう、母上は大袈裟に溜息をついた。
「まあ、いいわ。そうね、コーディとアリッサの二人とモラ湖へ行けたら楽しいものね。誘ってみるわ!」
よし。僕にしては一歩前進だな。




