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この身は露と消えても……とある転生者たちの戦争準備《ノスタルジー》  作者: 有坂総一郎
皇紀2583年(1923年)

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帝都密談<3>

皇紀2583年(1923年)11月25日 帝都東京


 陸軍少佐東條英機はこの日、陸軍省に呼び出され辞令を交付された。


 先の関東大震災における功を鑑み、陸軍中佐へ昇進となったのである。元々、半年後には昇進することがわかっていたが、特別昇進によって中佐へ、当初予定の半年後には大佐へ昇進することが内々に伝えられた。


 また、現職の陸軍大学校教官に加え参謀本部員と陸軍歩兵学校研究部員の兼務を言い渡されたのである。これには陸軍技術本部からの根回しがあり、暗に技本への便宜を期待したものであることは誰の目にも明らかであったが、震災時の英雄を邪険には出来ず、陸軍省もこれを認めるに至ったのであった。そして、彼の昇進には摂政宮皇太子殿下による口添えがあったとされる。宮城前広場における震災時の指揮が殿下の目に留まり、東條の昇進を後押ししたのである。


 東條はこの昇進を好機と捉えてはいたが、自身の兼職が増え過ぎることでかえって人脈づくり、派閥構成に不利益になると危惧していた。


 翌25日、東條は帰国して間もない有坂総一郎をアポなしで訪ねる。


 総一郎は東條の突然の来訪に「またか」という表情で迷惑そうに思ったが、彼の襟と肩に輝く星の数が増えていることに気付くと態度を改め、歓迎の表情を浮かべたのであった。


「東條中佐、昇進おめでとうございます」


 東條は総一郎の態度の変わり様に呆れたが、彼が友好的にそして好意的に接することは自身にとって都合が良いためあえて流すことにした。


「お、おぅ、昨日辞令を渡されてな……来年は大佐へ昇進だそうだ……これで有坂、貴様の協力の大前提である私の昇進については条件を満たしたと言えるであろう……どうだ?」


 以前、総一郎に立場や派閥勢力という点で協力を拒否されたことの仕返しを東條はこの場でしたのだが、総一郎は苦笑いをするだけであった。


「東條さんが閣下と呼ばれるようになれば自然と人もついてくるでしょうし、官僚の方々と懇意にされているということで私が東條さんを支援する前提は確かにこれで満たされたと言えますね……」


「そこでだ、シベリア出兵で英雄として凱旋した2将軍について貴様はどう思う……史実であればあんな活躍を連中がするはずはないし、シベリア出兵は貴様の新兵器で様変わりしてしまった……これで、不確定要素が増えてしまったぞ?」


 東條は懸案である皇道派のことを早速持ち出してきた。


 東條にとってこの問題は本来は随分先に処理すべき事柄であったが、予想に反して10年も早く対処せねばならない状況になったことで他の問題よりも早急に手を打つべきだと認識していた。


 だが、東條自身もこれについては適切な打開策が思いつかない。そこで東條は問題を総一郎に丸投げし、そして丸投げした相手の総一郎の思考する様子を観察していた。


 総一郎は東條からの問い掛けに腕を組み目を閉じてから一息吸ってから目を見開いた。


「放っておきましょう」


 総一郎の言葉に東條は呆然とした。


 思いもよらない言葉が返ってきたことで東條は総一郎が何を言ったのか理解が追いつかなかった。


「有坂……よ、貴様、今なんと言った?」


 東條は絞り出すようにそう聞き返すと重ねて言った。


「私の耳が確かなら、放っておくと聞こえたが……」


「ええ、そう申し上げました」


 総一郎は平然とそう返事をした。


「それは……どういう意味だ? 貴様が真面目に答えておると信じたいが……どうもそうは感じられない……私は協力者として貴様を信じておるが……考え直さねばならんのか?」


 東條はこめかみを引き攣らせながら、だが、怒鳴らないように落ち着いて尋ねた。


「東條さん、放っておくというのには理由があります……確かに東條さん、あなたにとっては不倶戴天の敵でしょう……しかも、前世よりも相手は強大だ……」


「わかっているではないか、では、どうして、放っておくという答えになるのだ」


 東條は相変わらず眉間にしわを寄せているが、辛抱強く総一郎の考えを知ろうと言葉を重ねる。


「そうですね、荒木、真崎両将軍は今現在、政治的行動をとっておりますか? とっていないでしょう?」


「あぁ、現状は凱旋将軍と呼ばれて浮かれておるだけだな……叙爵の話も出ているからな……」


「では、警戒すべきは両将軍ではありません。彼らを祭り上げる存在です……所詮、両将軍は神輿に担がれているにすぎません……そう、永田鉄山や東條さん、あなた方バーデン・バーデン盟約から発する木曜会、双葉会、一夕会がおやりになったこと……違いますか? まぁ、統制派は途中から彼らを排除する方向に動いてますが……」


「では、有坂、貴様の警戒すべき人物とは……永田鉄山、小畑敏四郎のことだな?」


 東條の問い掛けに総一郎は黙って頷いた。


「そして、参謀次長の武藤信義中将……彼の動向は特に気を配って頂きたいと……」


「武藤中将か……確かにあの人は荒木を可愛がっていたからな……」


 東條も総一郎もこの時点では武藤が真崎甚三郎による命令の捏造を黙認したという事実を知らない。武藤が行った黙認によって戦線が拡大、最終的には極東共和国の崩壊という史実にない出来事が生まれてしまったのだ。


「いずれにせよ、両将軍ではなく、その周囲を警戒し、その動きを封じることが肝要かと……」


「……あいわかった……貴様の言う通りにしよう……」

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