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女勇者を拾った村人の少年 ~記憶のないお姉さんと、僕は田舎の村で一緒に暮らしています。~  作者: 月ノ宮マクラ


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096・僕らの未来へ

「――何があったんだい!?」


 戦いのすぐあと、空からシュレイラさんが駆け付けた。


 炎の翼を広げ、僕らの前に着地する。


 その姿に驚いたけど、


(あ、王都の近くで、あれだけ派手に戦えば様子を見に来るよね)


 と、気づく。


 彼女は地形も変わるほどの周辺の惨状を見回している。


 ともあれ、僕らは事情を説明。


 炎姫様は驚き、やがて神妙に聞き、最後に大きく嘆息する。


 そして、


「ククリ、ティア」


「ん?」


「はい」


 ガバッ


(わっ?)


 突然、僕ら2人をシュレイラさんは抱き締めた。


 驚く僕らに、



「――よく生きてた」



 と、感情を滲ませた声で、一言。


(…………)


 その腕の中で、僕はティアさんと顔を見合わせる。


 シュレイラさんの体温、抱きしめる腕の強さに、何だか自分が生きてることを実感する。


 僕とティアさんは笑い、


「うん」


「はい」


 と、泣きそうな姐御さんに答えたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日からは、大変だった。


 今回の事件を説明するため、僕らは女王様に呼び出されたんだ。


(まぁ……ね)


 新しい魔王の存在。


 その実在を確認し、実際に戦った僕らに直接、話を聞きたかったんだろう。


 仕方ないか。


 これも国民の務め。


 ただの村人だけど、がんばろう。


 ただ、元勇者のティアさんの存在は隠すべきもので、会うのは、シュレイラさんを含め、僕ら4人のみだった。


 謁見場とかじゃなくて、よかった……。


 でも、相手は女王様。


 少し緊張しながら、話す。


 全てを聞き終え、


「そうか……」


 彼女は、頭痛がするように眉間を揉む。


 吐息をこぼし、


「魔王の娘、実在したか」


「…………」


「人類とは相容れぬ、その目的、思考、何とも危険な存在だな」


「はい……」


 僕は、頷く。


 今回は、ティアさんが退けてくれた。


 でも、


「もし次、戦ったとしたら、勝てるかわかりません」


 と、真面目に警告する。


 女王様の蒼い瞳が、僕を見る。


 僕は、ジッと見返す。


 女王様は「ふむ」と呟き、友人シュレイラさんを見る。


「それほどか?」


「そうだね」


 赤毛のお姉さんは、頷く。


 王国の英雄・炎姫の声で、


「アタシは実際に戦った訳じゃないけど、戦闘後の残留魔力の濃さには吐き気がしたよ。正直、アタシじゃ勝てる気しないね」


「…………」


「あと、これ」


 ゴトッ


 彼女は、目の前の執務机に何かを置く。


(あ……)


 僕は驚く。


 赤黒く捻じれた細長い石のような物体――それは、魔王の娘の『折れた角』だった。


 魔法文字の書かれた布が巻かれている。


 女王様は、瞳を細める。


「……奴の角か?」


「ああ」


 炎姫様は頷き、


「今は封印して、魔力を抑えてるけどね。残った魔力は、とんでもないよ」


「……ふむ」


「多分、この王都のインフラに使用しても、十数年は賄えるんじゃないかな。それぐらい異常な量さ」


「…………」


 ギラッ


 女王様の目が光った気がする。


 ……何か、怖い。


 彼女は頷き、


「すぐに、魔法研究機関に運ぼう」


「…………」


「この魔力を利用し、新技術の開発、新兵器の研究を進め、国防の力を高めねばならない」


 と、宣言する。


 そして、僕らを……いや、ティアさんを見る。


 女王様は、


「同時に、これを証明として各国に『新たな魔王』の存在を知らしめる」


「…………」


「人類の脅威はいまだ健在。そして、勇者に対して愚行を行った帝国への反発を強め、国力を弱らせる。その上で、世界の我が国への求心にも利用させてもらう」


「…………」


「良いかな、ティア?」


「お好きにどうぞ」


 黒髪のお姉さんは、澄まして答えた。


 そして、


「それが、ククリ君の安全に繋がるなら」


 と、続けた。


(ティアさん……)


 僕は、彼女を見る。


 僕の婚約者のお姉さんは、優しく微笑む。


 それから、言う。


「あの者は、とても強かったです」


「…………」


「正直、私1人の力では手に余るでしょう」


「…………」


「それでも私は、ククリ君とククリ君の大事に思うものを守りたい。そのためには、何でも利用するつもりです」


 チラッ


 と、僕らの国の女王様を見る。


 女王様も美しく微笑み、頷く。 


 利害の一致、か。


(……うん)


 僕は頷く。


 ティアさんに、


「僕も、がんばる」


「え?」


「僕だって、ティアさんを守りたいから。できることをがんばるよ」


「ククリ君……」


 彼女は驚き、目を見開く。


 すぐにはにかみ、


「……私はもう、何度もククリ君に守られていますよ」


 ギュッ


 と、頭を抱きしめられた。


(わ……?)


 女王様の前なので、少し恥ずかしい。


 ティアさんは周りの視線は気にせず、でも、女王様と炎姫様の2人も優しい表情だ。


 やがて、炎姫様が、


「ま……片角は折れてる。弱体化した以上、次は早々ないだろ」


 と、言う。


 ティアさんも「はい」と頷く。


 僕を見つめ、


「私も強くなります。今後のククリ君の脅威となるような存在は、次で必ず仕留めてみせます」


 と、宣言する。


 その表情は、生き生きしてる。


 むしろ、早く襲ってきて欲しいぐらいの勢いだ。


 僕は、苦笑する。


 でも、


「うん、ティアさん」


 と、すぐに頷いた。 


 頼もしく、美しい婚約者のお姉さん。


 出会った時の弱々しさ、不安定さが嘘みたいで、でも、それが嬉しかった。


 僕の前で、ティアさんが笑う。


「ふふっ」


 その笑顔は、本当に眩しかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 あれから、3日が過ぎた。


 その3日間は、炎姫様のお屋敷で過ごしたり、ジムさんのお店の手伝いをしたりした。


 さすがに、あの襲撃のあとだ。


 王都外へ薬草採取に出るのは、女王様や炎姫様に止められたんだ。


(ま、仕方ないよね)


 なので、大人しくしてました。


 お屋敷では、やっぱり料理を作ったりして、2人のお姉さんは『美味しい、美味しい』と食べてくれた。


 ジムさんのお店でも、


「売上、順調だね」


「そやな。ま、初日程やないけど、客足も安定しとる。固定客できそうや」


「そっか」


 嬉しそうなジムさん。


 夢を叶えた彼の横顔が、何だか格好良く見えたよ。


 で、今日は4日目。


 そして、アルマーヌさんとの約束の日だ。


 その約束通り、彼女は朝1番に『アルジィム魔法薬店』へと来店し、


「できたわよ」


 コト コト コト


 と、僕、ティアさん、シュレイラさん、ジムさん、ポポの5人の前で、3本の小瓶を目の前の机に置いた。


 綺麗な小瓶だ。


 装飾も美しく、瓶自体が高級品だとわかる。


(……これが)


 僕は小瓶を見つめ、そして、アルマーヌさんを見る。


 彼女は頷き、



「――万能霊薬よ」



 と、自信満々の美しい笑みで答えた。


 店主のジムさんが「おお……」と声を漏らす。


 美人なお姉さん2人と見習い商人の少女も、物珍しそうに目の前の3本の小瓶を見つめた。


 僕も同じくで、


(これが……そうなんだ?)


 と、また見つめてしまう。


 魔法薬師の美女は、


「炎姫とククリたちが採って来てくれた『黒幻竜の苔霊草』のおかげでね、何とか3本、用意できたわ」


 と、僕らに笑いかけた。


 僕も笑う。


 採取に参加した1人、黒髪のお姉さんが、


「これ、1本で幾らぐらいなのでしょう?」


 と、呟く。


(確かに)


 万能霊薬は、世界でも1、2を争う貴重な薬だ。


 炎姫様も首をかしげる。


 商人のジムさん、ポポも高額なのはわかるけど、その正確な値段まではわからない様子。


 そして、作った本人は、



「前例に倣うなら、万能霊薬1本で5億ね」



 と、言った。


(ふぁ……!?)


 ご、5億……。


 じゃあ、今、僕の目の前には、合計15億リオンの商品があるのか。


 しばし、呆然。


 みんなも、唖然とした表情だ。


 でも、元宮廷魔法薬師だった美女は、


「仮に、オークションに出せば、その何倍もの値が付くでしょうけど……」


 と、当たり前みたいに続ける。


 5億の何倍……。


(ああ……うん、村人の金銭感覚とは桁が違いすぎるよ……)


 僕は半笑いだ。


 ティアさんも、少し遠い目をしている。


 ジムさんも同じ表情で、


「ジム」


「あ、へ、へい!」


 アルマーヌさんの声で、我に返った。


 そんな彼に、彼女は言う。


「約束通り、この3本は貴方に預けるわ」


「!」


「この『アルジィム魔法薬店』の看板商品にもなるし、多くの繋がりも増えると思う。でも、1つだけ約束して」


「や、約束、ですか?」


「この薬が本当に必要な人に、渡して」


「……っ」


 ジムさんが、ハッとした。


 緑色の髪の美女は、穏やかに笑う。


「これでも、私は薬師だから。人を助けるために作ってるの」


「…………」


「お願いね、ジム」


「へい! 必ず!」


 金髪の青年は、彼女を真っ直ぐに見返し、強く答えた。


 アルマーヌさんも、満足そうに頷く。


 その様子に、僕とティアさんとシュレイラさんとポポは顔を見合わせ、『うん』と笑ってしまう。


 ジムさんは強い責任を感じている顔だ。


 だから僕は、


「大丈夫だよ、ジムさん」


「え?」


「もしもの時は、僕が、また薬草を採ってくるから」


「…………」


「だから、ジムさんは、いつものジムさんらしく、お客さんと向き合ってれば、きっと大丈夫だよ」


「ククリ」


「ね?」


 トン


 友人の胸を、僕は軽く拳で突く。


 ジムさんは驚き、


「ああ、そやな。これからも頼むで、ククリ」


「うん」


 僕らは笑い合った。


 そんな僕ら2人を、女性陣も優しく見守る。


 そうして、未来への希望に満ちたアルジィム魔法薬店での1日を、僕らはみんなで過ごしたんだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 翌日、僕とティアさんは村への帰路についた。


 帰りは、馬車で。


 例の魔王の娘関連で、シュレイラさんは女王様の命令で色々動かねばならないらしく、


「すまん!」


 と、帰りの空を飛べないことを謝られた。


(ま、仕方ないね) 


 結果的にその方が、僕らの将来の安全も高まるんだろうし。


 ただ、ティアさんは、


「役立たず」


「うぐぅ……」


 と、赤毛のお姉さんの心に、氷のような言葉の刃を刺していたけれど……あはは。


 そんな訳で、今は、2人で馬車の中だ。


 ゴト ゴト


 規則正しい振動が座席から伝わる。


 窓の外は、いい天気。


 草原の緑も輝き、遠くには、王都の白い城壁も見える。


 青い空は、とても綺麗だ。


(こんな時間も、たまにはいいな)


 と、思う。


 隣には、ティアさん。


 大好きな女の人が座り、僕の肩に優しく体重を預けている。


 その重さが、心地いい。


 チラッ


 隣を見る。


 すると、向こうも僕を見ていた。


(あ……)


 目が合う。


 お互いに驚き、少し赤くなりながらクスッと笑う。


 ……不思議だな。


 父さん、母さんがいなくなってから、灰色に思える日々だったのに、ティアさんと出会ってから全てが変わったよ。


 世界が色付いている。 


 本当に、僕にとって女神みたいなお姉さんだ。


 その黒髪のお姉さんは、


「……ククリ君に会えて、よかった」


「え……」


 突然の呟きに、僕は驚く。


 彼女は微笑み、


「こうした時間を過ごせるなんて、きっと昔の私は思いもしなかったことでしょう。そして、その時間を与えてくれたのは、ククリ君……貴方なんです」


「…………」


 僕は、目を見開く。


 目の前の、元勇者の綺麗なお姉さんは、ただ嬉しそうに笑い、



「――私は今、幸せです」



 と、言った。


(ああ……)


 それ、僕の台詞だよ。


 目の奥が熱い。 


 それをグッと堪えて、僕も笑った。


「――うん、僕も」


 素直に気持ちを伝えて、


 ギュッ


 彼女の手を握る。


 ティアさんは驚き、すぐに恥ずかしそうにはにかんで、僕の指を握り返してくれた。


 伝わる体温。


 その心地好さ。


 ……きっと、これからも色々あるだろう。


 でも、彼女となら、一緒に乗り越えられると信じられる。


 そう感じる。


 僕は、ティアさんを見る。


 ティアさんも微笑み、僕を見つめていた。


 僕らは心から笑い合う。


 …………。


 窓の外の青空には、太陽が煌めく。


 その輝くような草原の街道を、僕らの乗る馬車は、僕らの出会ったマパルト村へと、ゆっくりと進んでいった――。

ご覧頂き、ありがとうございました。



今話にて『女勇者を拾った村人の少年』は完結となります。


最後までククリとティアの物語を読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。


また続きを楽しみにしていた皆さんには、本当に申し訳ありません。



この物語を書くのは楽しくて、正直、続けるか迷ったのですが……。


ただ、思い通りに書けた部分もあるのですが、当初、考えていた物語と違ってしまった部分もあり、その違和感を最後まで上手く修正できませんでした。


違和感を抱えたまま書くのも難しく、迷った末、今回の完結の判断となりました。


小説を書くというのは、本当に難しいですね……。



今後は少し休んだあとに、また新作などで執筆を再開できればなと思っています。


未熟な作者ですが、これからも精一杯、精進していきますので、もしよろしければ、今後ともどうぞよろしくお願いします。



物語が完結しても、ククリとティアの世界は続いていき、きっと多くの冒険と恋愛をしていく事でしょう。


そんな2人の物語を今日まで見守って下さった皆さんには、深く感謝を……そして、これからも良き物語とのたくさんの出会いがある事を願っております。


本当にありがとうございました。



月ノ宮マクラ

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― 新着の感想 ―
マールくんのコミックといい、寂しいが綺麗だとも思う。色々想像の翼を読者に与えてくれる。ありがとうございます。
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